コラム

加藤萌生「人生最高の一年間をありがとう」

  ついに留学生活に幕が下りた。本当に終わってしまったのか・・・ 私の22年間の人生の中で最も自分が輝けた1年間。 大きく成長できたことを確信して、今この原稿を書いている。

  今久しぶりに、留学前に思いを綴った原稿を読み返してみた。

  今までに2回上海と大連に行った事があったが、あの漲ってくるエネルギーと大きさ、人の温かさその反面の傲慢さなど全てが私にとっては新鮮で面白く、これは私がカナダに1ヶ月間短期留学した時に感じた、自分を背伸びさせなくてはいけない感じや息苦しい印象とは全く異なる、何の違和感も感じない、第二の故郷と思える感じが私にはした。これこそ私がさがし求めていたもの。直感だった。私はよく「これだっ」と感じることがあり、そう思ったもの、ことをやったり目指したりすると必ず大きなものを得られる。不思議だが世の中こういったこともあるものだ。その直感から、ここでなら確実に自分の力を発揮できる、間違いない!と確信した私は大学の交換留学を目指した。

  全くこの文章通り、私の直感は的中だった。自分の力を発揮というか、自分らしさを大満喫できた、そんな一年間だった。そう、まさにパラダイスだ。自分らしくいられるなんて最高としかいいようがない。ストレス大国の日本とは無縁な世界。

  ではこの一年間で何が自分の中で変わったのか。何を得られたのか。

1.かなりタフになりました。
    タフ:頑強なこと。スタミナがあること
    頑強:頑固で屈せず強いこと。    (どちらも広辞苑より)
  自分でタフと書いてタフとはどういう意味だっただろうと調べてみたら上の意味になった。そう、まさにこの言葉がぴったり!冬休みに27時間の冷暖房なしの汽車に座って北京まで帰ってきたこと。凍え死ぬかと思った経験。黄山で傾斜80度の山もするすると登り、中国人にもびっくりされた。もう二度と山登りはいいと思った瞬間。30元の旅館に泊まって布団が湿っていた中寝たこと。シャワーもお湯が出ずいつか出世して二度とこんな所泊まってやるか、と思ったこと。1人で旅にでたこと、知らない中国人についていってすぐに仲良くなれてしまう自分。農村に泊まらせてもらった時夏でも2日間お風呂に入れなかったこと。土に穴が開いただけのトイレを見たこと。料理に虫が入っていたり髪の毛が混ざっていることもたまに遭遇する。タクシーに乗っていて車が故障することのべ3回。もう笑うしかない。

  などなど日本では考えられない色々な体験をした。私のベスト1はやはり27時間の汽車に乗って帰ってきたこと。ここから私はもう何も怖いものはないと思った。自分で褒めるのも嫌だか、でもまず27時間硬座に乗って帰る女子はまずいない。そしてそれが真冬の中国なのに暖房がない汽車だったら・・・。この難関を突破したら怖いものなしだ。これ以上の地獄はないと思う。だから今の自分には何でも乗り越えられる自信がある。ちっぽけなことなんかじゃ屈しない。

2.自分の意見ははっきりと言う   あの強烈な中国人を目の前にしたら言いたいことははっきりと言うように自然となってくる。彼らは悪いと思ったらすかさず店員にでも誰にでも言う。長い列を作って切符を買うときでも、「急いでいるからっ」と平気で割り込んでくる中国人(あたしも、というかみんな急いでいると思うのだけど・・・)。そして買い物に行ったらうまい口調で高いものを買わされてしまうのでここでもきっぱりと断ることが必要とされる。うじうじしていると相手はオッケーだと思い込み、勘違いされることがある。反撃しないと攻撃のされっぱなし。そんな彼らに鍛えられ嫌なことは嫌、好きなものは好き、ときっぱり言うようになった。前からそんな感じだったけれどさらに強烈になった?!

3.より積極的に。行動力は自分には何でもできる力があると思わせてくれる   私を大きく変えてくれたのはやはり、自分が将来やってみたいと思った旅行会社に直に行って働かせてもらったこと。そして本当に一銭ももらわず二ヶ月続けたこと。自分から積極的に動くことから何事も始まると感じた。そして何も動かないと何も始まらないと思ったこと。自分から積極的に中国人と接してきたこと。寮は留学生寮なので他の国の人と接する機会はたくさんあるのだが、中国の留学生活は意外と中国人と接する機会が少ない。そういった中で知り合いを通して紹介してもらって旅に行ったり、知り合ってままならない中ずうずうしくも家に泊まらせてもらったりと傲慢になったといった方が適切なのだろうが、やれば出来る、と思えたこと。そしてこの国はやった分だけちゃんと返ってくること。

  1、2、3.これはもともと自分にあった性格なのだと思う。元からタフだし思ったことは言うし積極性はあるほうだと思う。しかしその性格が中国で十二分に発揮できたこと。だから居心地は最高によかったし、何の気兼ねもないし、これこそ自分らしくいれる場と思えた最大の理由だろうか。私の性格を最大限に引き出してくれたのが、ここ中国であった。タレントの魅力を引き出す重要な役がマネージャーだとしたら、中国がまさにそれだったのだ。私の長所を余すことなく出してくれた。だからとても輝いていれた、確実に。

  そして一番感動したこと。それは「中国人」。その理由は
・逞しい:生きるための芯の強さみたいなものを感じる。真冬の零下の中、朝から晩まで外で果物を売っているおばちゃん、手は赤くあれ上がっている。しかしいつも笑顔は絶やさない。三輪車のおじちゃん、真冬でも外でずっと客待ち。こちらも暖かい場所で仕事などしていない。私が素朴に疑問に感じたことを尋ねてみた。「寒くないの?」「生活のためなら関係ない。仕事があるだけでありがたい」そんな彼らに強さ、逞しさを感じる。

・大胆(これはただおおざっぱなだけ?!):中華料理、半端でなく量が多い。勢いが良い。買い物でも「お米4元分」と頼んだにもかかわらず目量りで取った量が5元分だった時、「5元でいい?」といたっておおざっぱ、かつこっちもスカッとした気分になる。お米だけに限らずこんな事がよくある。

・家族のような温かさ:見知らぬ運転手、売店の人、知り合ってわずかな時間でも家族のように受け入れてくれる。親戚?と思わせるくらい誰でも平気で話しかけてくる。それがたまらなく嬉しい、ほのぼのさせてくれる。こんな心の温かさは日本にいたらめったに感じられなかったと思う。そんな誰でも受け入れてくれるような優しさが彼らにはある。   だって彼らって本当に面白い。行動、口調、全てが笑える。見ているだけで飽きない。夏、暑くてTシャツを捲り上げおなかを出しているおじさん。女性でも「カー、ペッ」と勢い良く痰を吐く。横からすぐ口を挟む。知らない人でも困っているとすぐ話しかけてくる。声が大きく笑うにしても怒るにしても豪快。洋服の組み合わせにしても「それあり?」というようなものを平気で着ている。食べる量も半端じゃない。よく食べる。そんな光景をみているだけで笑いがこぼれてくる。   私らしくいれ、気兼ねしない中国人といれ、こんな世界今までにあっただろうか。

  またここでは色々なものを学んだ。語学を学んで、中国語の面白さをよりいっそう感じた。四字熟語・成語を会話の中でよく使う中国人に気付いた時、中国語の奥深さを感じた。おなかから声を出し発声がいい中国語は聞いていて気持ちがいい。四声がある中国語はまるで音楽を聴いているかのようにリラックスできる。

  歴史は街を歩いているだけでも感じとることができた。故宮をみてあの大きさに息を呑む。何百年もの皇帝文化があそこには凝縮されている。元朝からある路地裏、故同ではのんびりとした時間が過ぎ、当時のままの庶民の姿がうきあがってくる。

  またそこは希望と夢で溢れている。私に夢を見つけさせてくれた。反日デモがあった時も、日中関係をよく考えさせられた。現地と日本とのあまりのギャップに驚かされ、その時私は心から日本と中国がより良い関係になったら、と強く願った。私は北京に来て皆がとても友好的だというのを痛感した。だからそんな私の気持ちと日本嫌いの中国人の差が未だに存在するのは何だかとても切なかった。この解決の糸口はないかと考えた時、自分には何ができるのだろうと考えてみた。私は北京に来てから将来の夢が見つかった。「旅行会社で働くこと」。漠然と考えていたものが最近になってやっと一つのまとまった思いになってきた。そして今回の反日デモをきっかけにその思いは一層に高まった。

    ‘中国人の良さを伝えられるのは自分しかいない。’

  これを自分が好きな旅行を通して少しずつ日本の人に分かっていってもらえれば、こういった日中間の溝も少しずつだがなくなるのではないかなと思った。人と人との触れ合い、つながりを大切にした企画をつくって相互理解を図る。それぞれのメディアに惑わされず、実際現地の人と接し彼らの温かさに触れる、そんな企画を作っていけば、いずれこの溝を埋める手助けができるのではないか、と思った。

  ここで夢を見つけられた、やっぱりすごい国だ、ここは。

  加藤萌生というものをこれでもかというほどに前面に押し出し、悩みながらも突き進んだ。自分の新たな一面を発見し、これからの生きる糧がここで全て培われた気がする。加藤萌生の土台が築きあげられた。新しいスタートを切った。得られたものはたくさん、自分を成長させてくれたこの1年間、何ものにも変えがたい宝物だ。

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