コラム

林裕則 「第12回国際国際会議「アジアの未来」に参加して」

 私は、このアジア会議に私達の専攻から参加することができると聞いて、即参加を希望しました。というのも、めったにない機会ですし、なにより普段テレビでしか見たことのない実際の政治に携わっている人や、各国の知識人達がどのようなことを考えているのか知りたいと思ったからです。というのは実はたてまえで、その会議に参加して自分が少しBigになったような気分を味わいたかった部分も大きいです。

 しかし、実際参加して大変でした。というのも一日中どれだけ偉い人の、ためになる話とはいえ、10時から6時まで(昼30分休憩挟む)話を聞き続けるのは、いささかしんどいものがありました。引率の先生が「絶対寝ない!が参加条件」的な事を言っていたのでフリスクを食べながら、睡魔と戦っていました。一日で一箱半完食したおかげで、一日目家に帰ってトイレに入ったら、まあミントくさかったです。一日目は、意識が朦朧とするぐらい頭を酷使しました。2日目はそんなことなかったですけどね。(ちなみに引率の先生も最後のほうは軽く寝ていました。)


 とまあ余談はここまでにして、この国際交流会議は、ASEAN+3と言って、日・中・韓・ASEAN10カ国による東アジア共同体という概念の元、どのようにこの域内の国々が協力していくかということについて経済を中心とした講演、討論をし、私達はそれを聞くというものでした。まずこのASEAN+3という枠組みについてすらまず私は全く知りませんでした。東アジアの概念の中に東南アジアであるASEANが含まれることに驚きました。

この枠組みは、マレーシアから唱えられたそうです。日中韓の経済力との協力を大きなチャンスとしたいASEAN諸国と、日中韓では政治問題が絡み合い、なかなか地域共同体といった合意に達せない日中韓の3国との利害関係がマッチして進められてきました。


 この会議の中で一番印象に残っているのは、元韓国外交通商省の 韓 昇洙 氏の討論とそれに対し質問をした海外進出企業の日本人女性社員の発言です。(以下私の私論も入っております。)その討論のお題は「東アジアの経済統合−その展望と課題」でした。韓国の韓 昇洙 氏のスピーチには、日韓問題の懸案は、靖国問題であると明確な指摘がありました。「靖国問題に関し日本の態度の変化がなければ、両国の関係改善はありえない」とも言っていました。まさにこの会議を主催する日本の中心地で、その問題の核心を突けば間違いなく場の空気は重くなる段階で、しかも経済に関する討議で、韓国を代表する立場の方がそれを言ったことは、私にとって大きな驚きでした。その発言が、討議に関して適切か不適切かはおいておいても、それほどまでに韓国の国民感情は、先の大戦以降ずっと日本という国に対する不信感を持ち、先の大戦での被害者意識を持ち続けているという事をまざまざと感じました。未来志向の関係というものをいつ韓国は持ってくれるのだろうかとも思いました。


 次に質疑応答の時間が来て、海外進出企業の日本人女性社員(三十歳半ばくらい)の発言がありました。それは、驚くべき内容でした。「韓国側で仕事をすると、30代の人40代の人は、日本人が嫌いだという。しかし80代のおばあちゃんが日本人に字を習い学校で勉強した」と言っていたといい「そこまで反日ではなかった」と言っていました。さらに続けて「韓国では、日本が戦時中に韓国民にプラスになる事業も行ったことを、ちゃんと教育の中で伝えていないのではないか」と言っていました。なんと思い上がったというか、一面的見方しかしていないというか本当に驚きました。たとえ韓国の人が戦時中に初めて日本人によって利益を受けられたのだとしても、日本の行った侵略を正当付ける証にもならないし、それをわざわざ韓国で自国民に教える義務などあろうはずがない、とこの人(きっとこういった場に来ることができるような仕事をしているということは高学歴でしょう)は気づかなかったのでしょうか。広島に原爆が落ちたから日本は分断国家にならなかった。だから原爆によって非戦闘民を殺されてもやむをえなかった。そう日本人が教えているでしょうか。ましてやそれを侵略した側が、被害者側に言う。この大いなる勘違いに私は恥ずかしくなりました。

 この人が、多少戦中の歴史をかじった人なのか、右よりの人が書いた侵略をなんとか正当化しようとする本を読んだのかはわかりませんが、その人にとっては、過去を蒸し返さず、新しい関係を構築したいという意識があったのかもしれません。ただこれを言ったことでおそらく韓国の人は、少なくとも発言した韓 昇洙 氏は、まだ日本人が過去を反省していない、と思うことでしょう。また、こういった誤った認識を持った人がおそらく多数にわたり、意外と多くいるということも問題でしょう。

 この根底にあるのはやはり歴史教育、そして今後の歴史認識の問題かもしれません。当初は未来志向の関係の構築を韓国側に求めようとしていた私は、まだ日本における歴史認識や理解は深めていく必要があると思いました。それと同時に、やはり韓国の30代40代(もしくはもっと若年層もなのかもしれませんが)において日本を嫌う人が多いというのは、事実とすれば韓国側の教育にも問題点があると思います。日本の映画や文化が解禁されたのが80年代とすると、それ以後の人は平気なのでしょうか。私達の世代においては、過去の歴史に関し、韓国側への配慮は忘れずに、しかし加害者意識からは脱却した中立的・相対的に過去を捉えることができるような関係を築いていく努力をしなければならないと思いました。その第一に深く歴史を学び、それを後世に伝えていく必要があると思いました。いつかは、独仏のように共通の歴史教科書を作れるようような日々が来るのでしょうか。


 最後に今回この会議に参加して、日々世界は動いているということを再確認しました。笑い事ではなく私個人として、歴史を学んでいるとだんだん現在の事に関心が薄くなっていくことがあるように思います。今後はもっと現在そして未来の出来事にも注意していきたいです。それとやはり、この会議に出て思ったのは、この世の中を動かしているのは、政治はもちろんですが、経済の力、俗物的に言えば金の力だと思います。文学部に所属している自分は、どうしてもそこの所から外れている部分もあるのではないかとも思うようになりました。もっと経済分野についても関心を持っていこうと思いました。 (2006.6.3)

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