オセアニア Oceania

 南島の茶道 −カヴァの伝統と現在− (2)
クックがハワイから持ち帰ったアヴァ・ボウル (ロンドン・人類学博物館)

■カヴァを外部の世界にはじめて持ち帰ったのはイギリスの探検家ジェームス・クックである。クックはハワイでアヴァ(カヴァ)による歓待を受け、格式高いアヴァ・ボウルとともにイギリスに持ち帰った。しかし当時発達しつつあった西洋の近代社会は茶やコーヒーなどのカフェイン飲料を歓迎したいっぽう、カヴァのようにスローな、勤勉な資本主義の精神に適さない飲料は、一般的な飲料としては普及しなかった。

■しかし、20世紀末のポストモダン的状況の中で、カヴァは抗うつ薬、抗不安薬のハーブとして西洋世界に急速に浸透した。むしろ急激すぎるほど普及したため、ヨーロッパを中心に大量摂取による重度の肝障害が続発するという弊害が起こった。

「アフタヌーン・アヴァ」を飲みながら議論するカヴァ研究者たち(ハワイ大学マノア校)

■その後、ハワイ大学の研究チームが、肝毒成分は主に葉や茎などの地上部に含まれていることを発見。ヨーロッパで販売されたサプリメントには地上部が混入していたらしい。この説はまだ確実に証明されたわけではないが、もしそうなら、根だけを飲用する伝統的な点前の意味が近代科学の文脈で再確認されたということもできる。

■いっぽう、もともとカヴァを儀礼的に飲んでいた島々では、カヴァのリバイバルにしたがって、カヴァをまるで酒のようにバーで飲むという現代的な飲み方のスタイルがポピュラーになってきている。

ポーンペイ島の「シャカオ・バー」

■ミクロネシアのポーンペイ島では、夜になると街中に「シャカオ・バー」の屋台が出現する。ある人はビンロウジを噛みながら、またある人はシャカオをコカ・コーラで割って、それぞれの好みに応じてカジュアルにカヴァを嗜む。ビン入りカヴァをテイクアウトして自宅で晩酌を楽しむ人もいる。

Diamond Head Cove Health Bar
オアフ島の「アヴァ・バー」

■ポリネシアの中では「先進」地域であったハワイでは、アヴァを飲む習慣も早い時期に衰退してしまった。しかし、フラなどの伝統文化の復興ブームと呼応するように、ようやく21世紀に入ってからオアフ島、ハワイ島などに、他の島にあるようなカヴァ・バーができ始め、そこがまた先住民としてのアイデンティティを取り戻そうとしているハワイ人たちの交流の場にもなっている。

和風の「侘びカヴァ」(東京・井の頭公園)

■日本でも90年代に癒し系のハーブとして、セント・ジョーンズ・ワートなどとともに、一時期カヴァ・ブームが起こりかけたが、肝障害事件でいったんおさまり、最近また復活のきざしがみられる。日本にもともとある茶道の文脈にカヴァを取り入れるなど、欧米にはみられないような新たな受容の試みもはじまっている。(→mixi上のカヴァ・コミュニティへ)

(写真をクリックすると大きな画面で見られるものもあります。2006-05-23修正 文:蛭川立、写真:蛭川立、塩月亮子、吉岡正浩、西尾ゆう子)
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