出自の規則 Rule of Descent
▼出自規則の基本形は母系と父系である。そのどちらでもないものには双系、選系などがある。また、母系、父系の両方の出自集団が共存している場合は、重系、二重単系などという。
▼父系社会と母系社会は、完全に対称な概念ではない。多くの社会で富や権力は男性側に偏在するという非対称性があるため、ほとんどの父系社会は父権社会でもあるが、ほとんどの母系社会は母権社会ではない。母系社会では、成員権や財産は、ある男性からその姉妹の息子に受け継がれるのが普通で、オイからみたオジの権利の優越を、オジ権という。
▼母系と父系の継承を図式化すると以下のようになる。

(蛭川、1999より)

▼実線は母子関係、点線は父子関係をあらわしている。ある男性にとって、妻の産んだ子が自分の子であるという確証はないが、姉妹の子とは必ず血縁関係がある(上図の1〜3)。旧来の社会進化論では、原始社会は乱婚的で父子関係が不確かであったため母系社会であり、そこから父系社会が進化したと考えられていたが、現在その仮説は否定されている。生業形態別に出自の規則をみると、以下の表のようになる。

Rule of Descent 出自の規則

Total

Bilateral 双系 Matrilineal

母系
Patrilineal

父系
Others

その他
Without Kindred
キンドレッドなし
With Kindred
キンドレッドあり
Subsistence Economy

主要な生業形態
Animal Husbandry
牧畜
1
(7%)
1
(7%)
2
(13%)
10
(67%)
1
(7%)
15
(100%)
Intensive Agriculture
集約農耕
8
(14%)
10
(18%)
4
(7%)
31
(54%)
4
(7%)
57
(100%)
Extensive Agriculture
粗放農耕
8
(14%)
5
(9%)
14
(25%)
21
(37%)
8
(14%)
56
(100%)
Hunting, Gathering, Fishing
狩猟・採集・魚撈
29
(50%)
4
(7%)
10
(17%)
9
(16%)
6
(10%)
58
(100%)
Total 計 46 20 30 71 19 186

Murdock (1969, 1981); Murdock and White (1969)

▼もっとも「原始的」な狩猟・採集社会の約半数はキンドレッドを持たない双系社会である。また、牧畜社会の約3分の2、集約農耕社会の約半数が父系社会である。母系出自は全体的に多くはないが、粗放農耕社会にもっともあらわれやすい。これには生産労働における性役割分業のパターンが反映している。根菜農耕に代表されるような粗放農耕の担い手はおもに女性であるのに対し、集約農耕においては男女の協力が必要になる。また、牧畜の担い手は男性に偏っていることが、出自の規則が父系寄りになる要因のひとつになっている。
(2005-05-16 更新 蛭川立)

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