ポケットに入る『老子』・『荘子』

『老子』は、著者の、多くを語らない性格の故か、とても短い、文庫向きの書物である。一方の『荘子』は、よりいっそう厭世的なのにもかかわらず、多弁で、長い。とりわけ、本体である「内編」以降に追加された「外編」「雑編」が長く、一冊にまとめようとすると、かなりの大部になる。
一冊の大きな本が、たくさんの小さい本に分かれていても、どちらでも内容は同じなのだが、たとえば日々、電車の中で読み進めたいときなどは、矢張り小さく分かれているほうが便利ではある。
以下に、『老子』と『荘子』の訳本から、文庫版で入手しやすいものを挙げる。それぞれに形式的な説明を加えておくが、内容の良し悪しについては、蛭川には判断できるだけの見識がないので、その点には触れない。
朝日文庫がもっとも充実している
・福永光司(訳)『老子』(上・下)(朝日文庫、中国古典選10・11)朝日新聞社
・福永光司(訳)『荘子・内編』『荘子・外編』(上・中・下)『荘子・雑編』(上・下)(朝日文庫、中国古典選12〜17)朝日新聞社
文庫本の中では、朝日文庫の中国古典選が、原文、訓読、現代日本語訳、語句の解説、長い注釈、索引と揃っていて、そのぶん冊数も多いが、量的にはもっとも充実している。このシリーズには、吉川幸次郎(訳)『論語』(上・中・下)(中国古典選3・4・5)、金谷治(訳)『孟子』(上・下)(中国古典選8・9)などもあるが、かなりの部分が絶版になっている。
・福永光司(訳)『老子』(朝日選書1009)朝日新聞社
絶版になった文庫版が再版されたもの。文字が大きく読みやすくなったが、サイズが文庫化以前の大きさに戻ってしまった。『論語』(上・下)なども再版になっている。
『老子』の、その他の文庫本
・小川環樹(訳)『老子』(中公文庫514)中央公論社 (←中公クラシックスE11で再版されたようです)
・金谷治(訳)『老子−無知無欲のすすめ−』(講談社学術文庫1278)講談社
・楠山春樹(訳)『「老子」を読む−現代に活かす「無為自然」の哲学』(PHP文庫552)PHP研究所
小川訳は古典的な訳だが、解説は短く、索引もない。楠山訳はここに挙げた老子の訳で最も新しいもので、1973年に発見された馬王堆帛書(漢代)に加えて、1993年に湖北省荊門市郭店で発見された郭店楚墓竹簡(戦国時代)の内容が反映されている。
『老子』の、その他の訳
・加島祥造(訳)『タオ−老子−』筑摩書房
超訳。米語に訳されたものを日本語に訳しているからか、アメリカ口語的な独特の言葉遣いになっている。軽い感じ。原文と、一部に英訳も有り。(ハードカバー)
・柳谷隆幸(訳)『新訳「老子」−古代中国「気」論−』新風舎
気功を実践する訳者が、中国医学的に意訳した、ユニークな翻訳。
・張鍾元(訳・著)、上野浩道(訳)『老子の思想』(講談社学術文庫789)講談社
中国人哲学者による訳と注釈の和訳。西洋思想とくにハイデッガーとの比較に主眼が置かれている。
・Izutsu Toshihiko (translation) Lao-tzu: The Way and Its Virtue. Keio University Press.
碩学による格調高い英訳。(ハードカバー)
『荘子』の、その他の訳
・金谷治(訳)『荘子』(第一冊〜第四冊)(岩波文庫206-1〜4)岩波書店
原文、訓読文、現代日本語訳、解説、索引がすべて載っているが、内容の解説は朝日文庫より簡単である。最初のほうは絶版になりつつある。
・森三樹三郎(訳)『荘子』(T、U)(中公クラシックスE4、E5)中央公論社
訓読文、現代日本語訳、解説が載っているが、原文は無く、索引も簡単なものしかない。シンプルに二冊にまとまっている。
★WEBサイト『えごいすとな思想』には「老子くん」「荘子くん」という、類稀な大阪語訳があり、注目に値する。

(2548/2005-04-23 更新 蛭川立)