デーヴァナーガリー文字

古典サンスクリット語・パーリ語、現代のヒンディー語など、北インド系の言語を表記する文字。同じ系統の文字は、ベトナム以外の東南アジア、チベット、モンゴルでも使われている。母音と子音を組み合わせて音を表す発想はハングルとも近い。

■母音

अ a [a] इ i [i] उ u [u] ए e [e:] ओo [o:]
आ ā [a:] ई ī [i:] ऊ ū [u:] ऐ ai [ai] औ au [au]

■子音

 
無声
有声
鼻音
半母音
歯擦音
気音
無気音
帯気音
無気音
帯気音
軟口蓋音・声門音 क k [k] ख kh [k'] ग g [g] घ gh [g'] ङ ṅ [ŋ] (ng)     ह h [h]
硬口蓋音 च c [c] छ ch [c'] ज j [ʒ] झ jh [ʒ'] ञ ñ [ɲ] य y [j] श ś [ʃ] (sh)  
捲舌音 ट ṭ [ţ] ठ ṭh [ţ'] ड ḍ [ɖ] ढ ḍh [ɖ'] ण ṇ [ɳ] र r [ɹ] ष ṣ [ʂ]  
歯音 त t [t] थ th [t'] द d [d] ध dh [d'] न n [n] ल l [l] स s [s]  
唇音 प p [p] फ ph [p'] ब b [b] भ bh [b'] म m [m] व v [v]    

※母音と子音の組み合わせ

क ka [ka] कि ki [ki] कु ku [ku] के ke [ke:] को ko [ko:]
का kā [k] की kī [ki:] कृ kū [ku:] कै kai [kai] कौ kau [kau]

■数字

0
1
2
3
4
5
6
7
8
9

 

辞書を引くときのアルファベットの並び順は「黄色の母音を左の列から縦に→青の子音を上の行からから横に→緑の子音を左の列からから縦に」となっている。ヨーロッパのアルファベットよりも合理的であり、日本語の「あいうえお」「かさたなはまやらわ」とも共通する部分が多い。

母音の並びはすこし変則的で、もし5母音で口の大きさ順なら「アエイオウ」にでもなってもよさそうなものなのだが、もともとa, i, uの三母音が基本で、二重母音aiからēが派生し、auからōが派生したという事情があり、短母音のe, oは存在しない。日本語でも「たかい」が口語的に「たけー」に、「やうやく」が「よーやく」になることを考えれば理解できる。だから、たとえばyogaは「ヨガ」ではなく「ヨーガ」と発音するのが正しい。あるいは聖音aumは「アウム」で、それが長母音化して「オーム」になるのであって、「オウム」などと読むのは、おかしい。

半母音のɹは英語の発音にあらわれる。日本語の「ら」行はɾで、IPAの発音記号でrと書くと巻き舌の意味で、ʀは喉をふるわせる音になる。

IPA(国際音声字母)についての詳細は、東京外国語大学国際音声字母のページを参照のこと。

数字は、現在普通に使われているアラビア数字と同系統なので、よく見ると形が似ている。「無」を意味する「0」を円形で示したあたりのセンスはなかなかのものである。

(2006/2549-12-27 改訂 蛭川立)