インド哲学関係 入門用文献


▼インド哲学の入門書

インド哲学は、仏教という宗教を介して日本に入ってきたため、逆に仏教以外の部分も含む全体像がわかりにくくなっているともいえる。仏教思想の本は山のようにあるが、日本語で読める、インド哲学全体を扱った本は意外に少ない。

また、哲学の入門書にはよくあることなのだが、たとえば

中村元 『インド思想史』(第二版) 岩波書店 1968年

など、議論の中身自体よりも、学派の歴史の記述が中心になっているものが多い。中身に重点を置いたコンパクトな入門書としては、

立川武蔵 『はじめてのインド哲学』(講談社現代新書) 講談社 1992年

がもっともシンプルだが、それでも議論が抽象的でなかなか手ごわい。

▼インド哲学の事典

辞典類としては、やはり仏教系の用語辞典は

中村元・他(編) 『岩波仏教辞典』(第二版) 岩波書店 2002年

など、各宗派ごとのものも含めて、じつに多数出版されているが、仏教以外の部分も含むインド哲学の事典となると、日本語では

高崎直道・他(編) 『仏教・インド思想辞典』 春秋社

ぐらいしかない。英語のものだと、

Grimes, John (1996) A Concise Dictionary of IndianPhilosophy. Albany: State University of New York Press.

というのもある。

▼サンスクリット語・パーリ語の辞書・文法書

哲学の勉強を本格的にするとなると、原典の言葉をマスターすることが求められる。サンスクリット語自体の辞書としては、

Monier-Williams (1899) A Sanskrit-English Dictionary. Oxford Univ.Press.

が定番とされる。

Apte, V. S. (1890): The Practical Sanskrit-English Dictionary.

は、隣川書店より『梵英辞典』というタイトルで刊行されている。もともと同じインド・ヨーロッパ系の言語なので、英語がある程度わかるのなら、英訳のほうが単語の対応関係に無理がない。とはいえ、仏教用語など、特殊な漢語訳がある場合は、梵英では間に合わない。梵和辞典としては

荻原雲来 1986 『梵和大辞典』 鈴木学術財団/講談社

が定番だが、個人で買うにはすこし値が張る。

ついでながら、サンスクリット語の文法解説書としては

ゴンダ『サンスクリット語初等文法』→菅沼晃『新・サンスクリットの基礎』

の二冊を学ぶのが良いとされる。最低でも、文字とその並び順と、簡単な活用がわからないと、辞書を引くこともできない。多くの辞書はデーヴァナーガリー文字(北インドの標準文字)ではなくアルファベット表記になっているが、並び順はヨーロッパのアルファベットとは違う。しかしインド系アルファベットの並び順は非常に合理的で、じつは日本のあいうえおと基本的に同じであることを知れば、むしろヨーロッパのアルファベットを丸暗記するよりも、ずっとわかりやすい。

さらについでに、上座仏教などでよく出てくるパーリ語の辞書だが、これは、日本語訳の辞書

水野弘元 2005 『増補改訂 パーリ語辞典』 春秋社

が内容のわりには廉価で入手できる。

(2006/2549-11-19 更新 蛭川立)