ガスハイドレートとは

ガスハイドレートとメタンハイドレート

メタン、エタンや二酸化炭素などのガスと水が作る氷状の固体結晶を一般にガスハイドレートと言います。海底堆積物中に分布し資源化の対象とされるガスハイドレートの多くはメタンを主とするため、日本では「ガスハイドレート」ではなく、「メタンハイドレート」の語がよく使われています。しかし、「メタンハイドレート」と呼ばれるものにもエタンなど他のガスが含まれるため、国際会議等では「ガスハイドレート」が一般的であり、本研究所もガスハイドレート研究所としました。 実際には「メタンハイドレート」と「ガスハイドレート」という言葉が混在して使われており、本研究所でも、ホームページや一般的な発表では「メタンハイドレート」を使用することとします。

メタンハイドレートとは?

図1 メタンハイドレートの結晶構造 
青丸は水分子、緑はメタン分子を示す。

「燃える氷」とか「white coal白い石炭」と呼ばれるメタンハイドレートは氷とよく似た見かけの固体物質で、メタンガスと水分子が、低温・高圧状態で結晶化したものです。メタンハイドレート中には大量のメタンガスが取り込まれ、1立方メートルの大きさの結晶が全部分解すると、160立方メートルほどのメタンガス(25℃、1気圧)が発生し、あとには0.8立方メートルの水が残ります。

図2 海水中におけるメタンハイドレートの安定領域
(Kvenvolden 1988 を改編)

上の図は、メタンガスと水がメタンハイドレートに変化する温度と圧力(ここではメタンの分圧)条件をしめしています。海洋環境での安定性を説明するため、縦の軸は水圧(下に行くほど圧力が高い)、横軸は水温で表現されています。破線は海水の温度です。赤い線はメタンハイドレートが安定に存在する温度圧力条件です。今、水の中にメタンガスがたくさん(過剰に)含まれている(つまり、気泡として存在している)と仮定すると、水深400m(圧力40気圧)では、水温が3.5℃より低ければメタンハイドレートが出来、高ければ、メタンハイドレートにはなりません。水深1000mの海底を考えます。海底の堆積物中には過剰なメタンガスが含まれていることがあり、そこではメタンハイドレートが出来ます。海底下の堆積物中の温度(地中温度)は、深くなるほど高くなります。温度の上昇する割合を100mで3℃とすると、海底下、約350mで、地中の温度は、メタンハイドレートの安定領域の外にでてしまい、もはや、ハイドレートは出来ません。つまり、水深1000mでは海底から350mまでが、メタンハイドレートの存在しうる範囲です。この図からは、水深2500mでは海底から600mまでハイドレートが存在しうることが分かります。この深度より深い地層中では、いくらたくさんメタンガスがあってもメタンハイドレートはできず、メタンは気泡をして存在することになります。

メタンハイドレートの分布

図3 メタンハイドレートの分布(永久凍土域と湖も含む)。赤は確認済み。黄色はBSRから推定。

メタンハイドレートは世界の大洋の周辺に分布しています。その量は、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料の総量にも匹敵すると推定されていますが、海底堆積物中に存在する全てのメタンハイドレートが資源として使えるわけではありません。資源として使えるためには、密集し、まとまって存在している必要があります。地層の中に、ごく少量しか含まれていなくても、地球全体では膨大な量になります。しかし、そのようなハイドレートは資源とは言えません。

(佐藤幹夫/産総研より)

海洋のハイドレートに2つのタイプあり

図4 2つのタイプのメタンハイドレート

メタンハイドレートには2つのタイプがあります。一つは南海トラフに代表されるもので、海底から100〜400mほどのところに水平的に広がって分布します。これはしばしば砂層の中に発達するため、砂層型とか深層型と呼ばれます。その海底からの深度は、図2に示す「安定領域の基底深度」に対応します。つまり、層状に広がるハイドレート含有層の下限が、「安定領域の基底」で、水深が大きいほど基底深度は深くなります。音響調査(=地震探査)では「基底深度」に異常に強い反射面が出現し、これをBSRと呼んで、ハイドレート探査の重要な手がかりとしています。もう一つは日本海に代表されるもので、表層メタンハイドレートを呼ばれます。これは、深い所から、流体の移動通路(ガスチムニーと呼ばれる)を経て供給されるメタンガスによって、海底付近に形成された密集した塊状のメタンハイドレートです。このようなメタンハイドレートは海底下でのメタンガスの生成が非常に活発であることと関係しています。

日本海からメタンハイドレートの発見

砂層型/深層型メタンハイドレートの分布は、安定領域の基底付近(図2)に発達する音響的異常面(BSR)から推定することが出来る。南海トラフ域では青木豊氏らの努力(1980年代)により強いBSRが広範囲に発達していることが明らかにされ、世界的にも注目を集めた。このBSRの直上付近には砂層型/深層型メタンハイドレートが広域的に分布すると信じられていた。実際、1990年には国際深海掘削計画(DSDPLeg131)で四国沖の海底堆積物からハイドレートが回収されている。この頃、日本海EEZに広域的にメタンハイドレートが分布すると信じるだけの証拠(BSR)は殆ど確認されていなかった。唯一の例外は、1989年の国際深海掘削計画(DSDPLeg127)による北海道奥尻沖の掘削であり、ここでは貧弱ながらBSRが確認され実際にハイドレートのサンプルも回収されている。その後の再解析では日本海にもかなり広い範囲にBSRが分布することが分かってきている(図5)。
2003年、佐渡南西沖海域(私たちはここを「上越沖」呼ぶこととした)における在来型石油天然ガス探査(基礎試錐調査)の事前調査中に偶然、海底下数メートルの深度からメタンハイドレートが回収された。日本海の表層メタンハイドレートの「発見」である。資源探査中に発見されたこの事実は「基礎試錐」の報告書でくわしく検討されることもなく、ハイドレート科学のコミュニティーに開示されることもなく、一般に知られるようになったのは2006年(門澤他、2006/石油技術協会誌)である。一方、東京大学の松本(現・明治大学ガスハイドレート研究所)をリーダーとするチームは2004年より上越沖において集中的な海洋地質調査を展開し、この海域を含む複数の場所から多数の表層メタンハイドレートの採取に成功し、これらが、ガスチムニー(図6)の海底部分に発達するハイドレートマウンドに集中していることを明らかにした。この成果は2005年国際ガスハイドレート会議(ICGH-5, トロンハイム)で報告され、熱分解起源ガスからなるメタンハイドレート、高いメタンフラックス、多数のメタンプルーム、顕著はガスチムニーなど活発なメタン活動が世界のメタンハイドレート研究者の注目を集めた。 大学研究チームは2012年より研究拠点を明治大学ガスハイドレート研究所に移して学術研究と探査を進め、上越沖と同様のガスチムニーが隠岐東方、最上トラフ(秋田—山形沖)、網走沖オホーツク海にも広く分布していることを明らかにしている。
メタンハイドレートを含む海底堆積物は、音響探査(=地震探査)に対して極めて特徴的は反応をする。砂層型ハイドレートの場合はBSRと呼ばれる海底面に平行に出現する強い反射面であり、表層メタンハイドレートの場合は、ガスチムニーと呼ばれる海底面を突き破るように垂直に立つ音響的混沌帯(カオティック・ゾーン)である。音響調査によって可能性の高い場所が特定され、その後のサンプリングによって最終的に発見が確認されることになる。「発見」という語は慎重に使いたい。

学術調査から資源探査へ

表層メタンハイドレートが将来のエネルギー資源になりうるか否かを評価・判定するポイントはいくつもあるが、その中でもっとも基本的な要件は「資源量」である。仮にいかに効率的・容易に回収されるとしても、資源量が少なくては商業生産に進むことは出来ず資源とは言えない。そこで第一にするべきことは、資源量の把握である。これまでの学術調査(ピストンコアリング)では、表層メタンハイドレートは常にガスチムニーの上部から回収されている。従って、資源量評価の第一歩は(1)日本海に分布するガスチムニーの数と大きさを調べる事(広域マッピング)である。ピストンコアリング法で採取可能なのは海底から10メートル程度であり、今のところ、10メートル以深がどうなっているか明らかではない。従って、正確な資源量を把握するには、(2)代表的なガスチムニーについて掘削調査を行い、ガスチムニー内にどれだけの量のメタンハイドレートが存在するか定量的に調べる必要がある。掘削調査で得たハイドレートの試料を分析することにより、タイプの異なるガスチムニー毎に、メタンガスがどこで生産されどのような経路で移動しハイドレートとして集積したか明らかにできるだろう。ガスチムニー内部でのメタンハイドレートの挙動、安定性の評価、海洋環境の変動への応答およびメタンハイドレート分解の環境インパクトも資源評価では重要な課題である。

日本周辺のメタンハイドレート分布可能性

図5 日本周辺でメタンハイドレートが分布すると推定される海域。

海底から100〜500mの深いところに存在するメタンハイドレートは、地震探査法という従来の石油天然ガスを探査すると同様の手法で発見できます。この図は地震探査法によって推定されたメタンハイドレートの分布です。水深が大きく(1000m以深)で海底からさらに深いところに存在するため、資源として利用できるのは限られてきます。赤い部分は比較的水深も小さく、現在、深いタイプのメタンハイドレートの探査が行なわれている海域。明治大学ガスハイドレート研究所が対象としている表層型メタンハイドレートは赤い楕円領域で示してある日本海や網走沖オホーツク海に広く分布しています。

ガスチムニーと海底の壁に露出するハイドレート

図6 音響探査(SBP)で見られるガスチムニー構造 図7 上越沖の海底に露出すメタンハイドレート

日本海の表層メタンハイドレートは、この図のような直径数100mの円柱状のガスチムニーとよばれる構造が海底に達する付近に密集して形成されます。右の写真は、ガスチムニーが海底に到達した付近の海底の写真で、白いものはみなメタンハイドレートです。ガスチムニーは研究調査船の船底あるいは潜水艇(無人探査機)に取り付けた音響観測装置で探査します。

海底に露出する塊状のメタンハイドレート

図8 海底に露出するメタンハイドレートの巨大なブロック

これは無人探査機(無人の潜水調査船)で見つけた表層メタンハイドレートで、海底の壁から突出。この付近の海底(2007年10月、海洋研究開発機構との共同研究潜航で撮影したもの)

ピストンコアラによるメタンハイドレートの回収。

図9 ピストンコアラで上越沖より回収されたメタンハイドレート

海鷹海脚中央部。塊状のメタンハイドレートはピストンコアラの最下部数10cm-10数cmに入っていることが多い。海底直下の塊状の厚いハイドレート層にぶつかると、貫入することが出来ずに止まってしまったと考えられる。