「産経新聞 2001年 6月7日・6月8日」

「続・知の刺客 七番勝負」 の三番手は明治大学教授の市川宏雄氏・世界中の都市問題を研究してきた経験から、「東京」の行方について深く考えている。その主張は、首都機能の移転を止めて、むしろ、一段と東京の再生をはかるべきだとの直球だ。地方はこれまでの横並び意識を捨て、独自性を発揮することと指摘、長く続いた東京と地方の関係に新たな一石を投じている。

地方との関係の見直しを

都市活性で日本全体に浮揚効果

首都機能移転は中止

 東京の一極集中を是正する事をねらって、首都機能移転構想があります。しかし、これで東京と地方の問題は解決できません。即刻、中止すべきです。

 首都機能移転 東京から、国会・行政・司法の三権の中枢機能を東京圏以外の地域に移す構想。平成4年12月に施行された「国会などの移転に関する法律」に基づき、政府が責任を持って実施するとされている。主な移転先候補地は栃木・福島地域、岐阜愛知地域などが挙がっている。

 その理由の一つが移転する人口です。実際に動く数は56万人程度で、首都圏3256万人のうち2%に満たない。この程度では、東京が抱える根本的な問題は何も変えられない。また、移転事業は従来型の土木中心の分配で陳腐化しています。

 むしろ、東京の整備を優先することです。このことは決してて東京のエゴではない。都市を活性化させることで、結果的に、日本全体に浮揚効果を波及させることが出来ると思うからです。東京の整備について指摘する前に、これまでの東京と地方の関係を振り返ってみましょう。


分捕り合戦

 都市化の動きを簡単に振り返ると、昭和30年代に地方の農村から地方都市、それから大都市へという流れで人口移動が起きました。昭和50年代後半には三大都市圏の中で東京が際だち、東京一極集中の構図が出来ました。

 その中で、政府は一貫して、地方と都市の均衡を図る国土政策を進めてきました。都市が稼ぎ、地方に分配したのです。急激な都市化で日本全体のバランスが崩れるんじゃないかという危機感が背景にあったためです。

 しかし、地方への富の分配は、国際交流施設などが各地に出現したように、ハコモノを補助金で作らせるという結果を生みました。残念ながら、地方に人を呼べるという期待が裏切られたばかりか、本来の目的で使われていない施設も少なくありません。需要と供給や費用対効果を忘れてしまい、地方での補助金の分捕り合戦になってしまったのです。

 この結果、東京は稼ぎ(租税負担額)は一番ですが、実質的な配分は23番目。神奈川、千葉、埼玉など首都圏の都市も一人当たりで見ると分配は少ないという現象が起きたのです。こうした都市部での不満が最近の保守政党の惨敗に繋がっているわけです。


「犠牲」という呪縛

 「東京は金持ちだ」とか、「いい目にあっている」という声があるように、東京は豊かで、面白くて便利で、雇用機会も多い反面、都民は渋滞とか、電車の混雑、大気汚染などの都市問題を日々、我慢し暮らしている面もあります。

 富める者が富まない者を助けるのはいいが、程度の問題です。肝心の大都市に投資しないで、地方の空港を作っているんだということになれば、誰だって怒ります。ふと見回したら、ソウルやシンガポール、上海にハブ空港が出来たりして、東京が取り残されている。もっと都市部にすることは、いっぱいあるんだと感じているのです。

 そこで重要なのは、まず、「地方は都市の繁栄の犠牲になっているから手厚くする」という呪縛から覚めることです。この呪縛が、依存体質を地方に植え付けています。

 また、地方は横並びが良いという錯覚を捨てることです。「隣町に出来た施設がうちにも欲しい」という次元ではなく、地域の個性、役割を考え、「均衡ある発展」の時代を超えた次の一歩を踏み出す時期に来ていると思います。

 整備新幹線を早く完成させ、地方都市間の行き来を便利にすれば独自性を持った地域を互いに利用しあいながら発展することが可能になります。補助金の代わりに新幹線の切符を地方の住民に配ることを検討してもいいでしょう。交流を活発にすることが都市、地方の再生に繋がるのです。


人口減少でチャンス生まれる

高質な都市空間を創造


郊外から都心回帰

 老朽化している東京の再生をどうするか。

 まず、提案したいのは、居住人口を郊外から空洞化した都心に戻すことです。

 いま一番深刻なのは、郊外のサラリーマンが1時間半の通勤を余儀なくされていることです。しかも、郊外の住宅サイズは欧米の郊外生活から程遠い貧弱なものです。

 現在、都心三区は昼間の人口が約240万人にふくれるが、夜になると27万人に激減する。基盤整備すれば、なお数百万人のキャパシティがあるはずです。

 たとえば、都心でマンションの高層化と地域整備を一体化して開発すれば、こうした人たちを都心三区で200万人、その周辺の都心部で数百万人を回帰させることが出来ます。東京に少しずつ高層マンションが増えていますが、世界の大都市にはもっとあります。ペンシル型の建物が密集している場所とか、地域のグレードがまだ十分ではない場所を、高層化を含めて公園のふんだんにある良好な住宅地に転換させるべきです。

これからは都心と郊外の役割をきちんと分ける必要がある。郊外は住宅取得価格を安くし、、かつ広い家が買えるようにする。都心居住を選ぶ人は所得の高い階層が多いので、自然と接したければ郊外にセカンドハウスや会員制リゾートを持てば良いのです。


都市ビジョン

 都市改造の契機は災害とイベントですが、平和な時代は都市を作り替えることは至難の業です。日本は所有地について、個人の権利が世界で一番強い。個人が「いや」と言えば、何も出来ない。こうした風土のため、都市計画はあっても、残念ながらなかなか実行されなかったのです。ただ、これからは経済のパイが縮小すると供に、人口も減るのです。日本全体の人口のピークは平成19年(2007年)です。首都圏でも後10年から15年でピークが来ます。人口が減ると、都市空間に余裕ができ、都市の再生を図るチャンスも生まれるはずです。

 東京都は平成12年末、向こう15年間の将来像と課題を示した「東京構想2000」を発表しました。また、今年3月に都市計画審議会から答申された「都市ビジョン」を秋までに具体化する作業を進めています。その中核は「センター・コア・エリア」と「東京湾ウォーターフロント都市軸」の開発・整備です。

 センター・コアとは首都高速道路の中央環状線の内側に位置するエリアで、都市型の中枢管理機能だけではなく、文化や住環境全てを備えた多機能の混在した地域にすることを目指しています。

また、三浦半島から横浜、川崎を通って臨海、幕張、千葉、木更津までを東京湾ウォーターフロント都市軸と位置づけて、都市的な娯楽施設の充実や空港、港湾を通じた東京圏の発展を目指しています。


景観の向上

 いま、首都高速の中央環状と外郭環状、圏央道という東京圏の三大環状道路の整備率はたったの2割。この3環状道路が整備される事で、都心への車の流入量も抑制でき、都心の大気汚染も軽減されると思いますが、環状道路はこのウォーターフロントが出来ないと最終的につながりません。貫通して初めて東京の交通網体形が出来上がるのです。

 また、都市景観の質的な向上も重要な課題です。

その先駆けとなる動きとして、日本の国道の起点である日本橋の上にかかった首都高速道路の撤去の話があります。

 この首都高速道路は東京オリンピック開催を控え、あわてて改造した東京を象徴する存在でした。景観を回復するために、今度は東京再生の象徴的な出来事としてルートを変更して外す方向で、東京都と国土交通省が検討を始めています。

 こうした高質な都市空間の創造によって東京の機能再生を図れば、国際観光業などの新たな産業が芽生え、日本全体にも波及効果は確実に広がります。


高速道路に隠された東海道の起点・日本橋

 

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