リニア新幹線の登場

『リニアが日本を改造する本当の理由』(メディアファクトリー、2013年)より抜粋

一本のリニアが日本を変える

 あなたは「リニア」あるいは「リニアモーターカー」と聞いて、どんなことを思い浮かべるだろうか。
「確か、山梨県のほうで実験しているよね」という人は、かなりの鉄道ファンだ。おそらくたいていの人は、「ジェット機のような流線型」「磁石で宙に浮いて走る電車」「子どもの頃、のりもの図鑑で見た未来の乗り物」といった、ぼんやりとしたイメージしか抱いていないのではないだろうか。あるいはもっとネガティブに、「しばらく噂を聞かないから、開発計画は中断したのでは」と思っている人もいるかもしれない。

だが、かつての「リニアモーターカー」は「超電導リニア」あるいは「リニア新幹線」と呼び名を変え、JR東海の手で実用化に向けて着実に開発が進められている。2013年度中には山梨リニア実験線の延伸工事が完了。2014年には、2045年の東京─大阪間全線開業に向けて本格的な建設工事がスタートする。そして2027年には、東京─名古屋間でリニア新幹線が先行開業する見込みなのだ。つまり、いまから14年後には、リニアモーターカーがついに実用化されるのである。

超電導リニアという推進システムが実用化されれば、世界初の快挙となる。また、時速505qという営業速度はもちろん、鉄道路線として世界最速だ。リニア新幹線が開業すれば、わが国の科学技術の歴史に、新たな輝かしい1ページを加えることは間違いないだろう。

だが、リニア新幹線は、鉄道分野や科学技術分野においてのみエポックメーキングなのではない。リニア新幹線が開通すれば、わが国の科学技術史が書き換えられるだけでなく、わが国の経済も、文化も、社会構造も、ひょっとしたら国土の形すら変えてしまうだけのインパクトを持っているのだ。

前著『山手線に新駅ができる本当の理由』(メディアファクトリー新書)には、「2020年頃の山手線新駅誕生は、日本経済の再生にとって間違いなく大きなプラスになる」と書いた。だが、そういう意味では、実はリニア新幹線開業のほうが、さらにその数倍、数十倍もの巨大な経済波及効果をもたらすはずだ。山手線新駅は確かに日本再生の起爆剤になり得るが、都市空間においては、あくまでも一つの「点」の開発に過ぎない。一方のリニア新幹線は、東京、名古屋、大阪という三大都市を結ぶ新たな「線」の開発だからだ。わが国にとってどちらの影響が大きいかは論じるまでもないだろう。

にもかかわらず、不思議なことに、リニア新幹線が私たちの暮らしを具体的にどう変えるかについて語った本は、いまのところ見当たらない。これまでのリニア新幹線(リニアモーターカー)関連書といえば、その多くが鉄道車両やハードウェアとしてのリニアに着目したものか、リニア計画そのものの是非を問うようなものばかりだったのである。

そこで私は、あえて都市政策の見地からリニア新幹線について論じてみようと思った。断言しよう。リニア新幹線が開業すれば、私たち日本人の暮らしは間違いなく一変する。その変化の実態を多くの人に伝えるのが、都市政策専門家としての義務だと考えたからだ。

私の専門分野である都市政策では、空間と時間をどうとらえるかが最大のテーマとなる。都市の空間をどのようにデザインし、どう活用していくのか。ある空間の中で、人や車をどのように動かすのが時間的に最も効率がよいのか。このように、空間と時間を掛け合わせて考えることが、都市計画の基本になる。

こうした都市政策の観点から見ても、リニア新幹線は実に驚くべき存在であることがわかる。東京─大阪間の距離は約520q、東京─名古屋間は約340q。この距離を現行の東海道新幹線は、最速でそれぞれ145分(2時間25分)、96分(1時間36分)で結んでいる。だが、リニア中央新幹線が開業すれば、東京─大阪間を67分、東京─名古屋間を40分で結んでしまう。所要時間はそれぞれ、半分以下だ。これを空間的に見ると、東京─大阪間、東京─名古屋間の距離が半分以下に縮まったのと同じである。つまりリニア新幹線は、日本の都市構造・国土構造をがらりと一変させるだけのポテンシャルを持っているのだ。

2027年、私たちが知っている日本の国土の形は確実に変化するだろう。それも掘(くっ)削(さく)や埋め立てなどの大規模な土木事業で物理的に形を変えるのではなく、リニア新幹線がたった一本通ることで、東京から大阪に至る東海道一帯の形が劇的に変化するのだ。リニアは、まさに日本列島を「改造」するといっていい。

 いまから40年ほど前、田中角栄は第64代内閣総理大臣に就任する年に、『日本列島改造論』(日刊工業新聞社)を書いた。彼は東海道新幹線の「成功」に着目し、日本全国を新幹線網と高速道路網でネットワーク化することで、日本列島を「改造」しようと試みたのだ。今(こん)日(にち)「整備新幹線」と呼ばれ建設が進められている北海道新幹線や北陸新幹線、2013年現在すでに開業している東北新幹線、九州新幹線は、すべてこの『日本列島改造論』をベースに計画されている。

そして私たちは今、リニア新幹線というまったく新しい高速鉄道システムの開通を目撃しようとしている。リニア新幹線はこれからわが国をどのように改造し、それによって私たちの生活はどう変化していくのか。私の見立てによれば、それはきっと、明るい未来であるに違いない。

 
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