著作権法違反と刑事事件

 

メモ:

ダウンロードを刑罰化する法律が成立したことから、著作権侵害の刑事事件に関する統計データが気になったため、過去5年分のデータを整理してみました(図1)。

○著作権侵害の訴訟は、民事訴訟よりも刑事訴訟のほうが多いといわれることがあります。この認識の正しさを明確なデータで示してみたいと思います(注1)。法曹時報に掲載されているデータ(全国地裁)と検察統計のデータを比較すると、2006年から2008年の間の著作権およびプログラム著作権の民事訴訟の新受件数は、著作権・プログラム著作権を足しても、同年度毎の著作権法違反人員数の起訴数の合計よりも低いことが分かります(図2)。そのため、少なくともこれらの比較した年度においては、訴訟の数としては、刑事訴訟の方が多いことになります。しかしながら、よく考えてみると、被告が多数になる可能性のある民事訴訟の新受件数と起訴の人員数とでは、おなじ訴訟だからといって、単純に数を比較できない部分があります。また、仮処分事件なども含めたより広い意味での「民事手続」と各種のダイバージョンがある「刑事手続」とを単純に比較はできないともいえ、結局のところ、両者の数だけ比較してもあまり意味がないという考えに行き着くかもしれません。

最近の司法統計によると2006年から2010年の間、刑事訴訟の事件は全体として減少傾向を示しています。これに対して、著作権法違反の事件も2006年から2009年まではその傾向に沿っていたようですが、2010年については起訴された人員ベースでは前年比20%程度の増加を示しています。また、警察庁が発表している著作権法違反の検挙数をみても、2008年は若干の減少したものの、2009年から2011年は増加傾向にあり、特に2010年は前年比で約95%増の著しい増加がありました(図3)。

 

 

図1【著作権法違反人員数】

年度

受理

既済

未済

総数

旧受

新受

総数

起訴

不起訴

中止

他の検察庁に送致

家庭裁判所に送致

通常受理

他の検察庁から

家庭裁判所から

再起

公判請求

略式命令請求

起訴猶予

嫌疑不十分

嫌疑なし

罪とならず

刑事未成年

心神喪失

親告罪の告訴・告発・請求の欠如・無効・取消し

 確定判決・大赦・刑の廃止・刑の免除

時効完成

その他

検察官認知・直受

通常司法警察 員 か ら

特別司法警察員から

少年法第20

その他

2006

 450

  4

 446

 362

  11

 351

   -

 83

  -

 1

  -

437

261

193

68

 71

40

 7

 -

 -

 -

 -

    23

    -

 -

 1

  3

  85

 17

 12

2007

 435

 12

 423

 311

  11

 300

   -

109

  -

 1

  2

416

232

147

85

 64

36

10

 3

 5

 -

 -

    10

    -

 -

 -

  -

 105

 15

 16

2008

358

16

342

253

9

244

-

88

-

-

1

344

192

130

62

60

32

9

-

-

-

-

19

-

-

-

1

87

4

14

2009

355

14

341

245

5

239

1

94

-

1

1

335

177

102

75

53

29

15

-

-

-

-

9

-

-

-

-

95

10

20

2010

482

20

462

350

19

331

-

110

-

2

-

461

213

125

88

127

91

6

3

12

-

-

11

-

1

3

-

110

11

21

出典:法務省「検察統計年報」各年版に基づいて整理

http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_kensatsu.html (accessed on 17 July 2012)

 

図2 著作権関係民事通常訴訟事件新受件数【全国地裁及び東京地裁】および著作権法違反による起訴数(2006年から2008年)

 

民事訴訟の新受件数(全国地裁)

民事訴訟の新受件数(東京地裁)

起訴数

年度

著作権

著作権

プログラム著作権

著作権法違反

2006

156

114

12

261

2007

129

78

7

232

2008

119

73

9

192

 

出典:@民事訴訟の新受件数(全国地裁)について、久貝卓「知的財産戦略の評価と今後の方向−新たな知財政策の開始を−」(経済産業研究所、20108月)50頁に掲載されている平成1120年度「知的財産権関係民事・行政事件の概況」(法曹時報 第526112号)より作成のデータ、A民事訴訟の新受件数(東京地裁)について、民事訴訟の新受件数(東京地裁):清水節・國分隆文「東京地方裁判所知的財産専門部と日本弁護士連合会知的財産制度委員会との意見交換会」の協議事項に関連する諸問題について」判例タイムズ1301号に掲載されていた最高裁事務総局行政局調べのデータ、B起訴数について、上記の検察統計年報のデータに基づいて作成。

 

図3【著作権法違反の検挙件数】

年度

件数

増減(前年比)

2007

165

2008

144

- 21 (-13.8%)

2009

188

+ 44 (+30.5%)

2010

368

+ 180 (+95.7%)

2011

409

41 ( 11.1% )

 

出典:警察庁『平成23年中のサイバー犯罪の検挙状況等について[H24.3.15掲載]』に基づき作成

http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h23/pdf01.pdf (accessed on 17 July 2012)

 

 

注1なお、民事訴訟の件数について、知的財産高等裁判所のウェブサイトに掲載されている統計データでは、「知的財産権関係民事事件」とまとめられており、著作権関係の訴訟の割合が明確ではなく、また、ウェブで公開されている司法統計の検索画面でも「知的財産権に関する訴え」としてまとめられているようで、著作権事件の数だけを抽出することができませんでした。ただし、こうした細かなデータは、知的財産高等裁判所の裁判官によって定期的に論文等で情報提供されているようでありNBL判例タイムズや(特に)法曹時報など各種の法律雑誌を購入すれば知ることができるようです。

 

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