知的財産関連法と刑事事件

 

図1【特許法違反人員数】

図2【実用新案法違反人員数】

図3【意匠法違反人員数】

図4【商標法違反人員数】

図5【不正競争防止法違反人員数】

図6【著作権法違反人員数】

図7 起訴率、不起訴率、公判請求率および不起訴理由の各割合

 

コメント:

○過去5年間(2006から2010年。以下過去5年間という場合には同じ期間を示す。)において、知的財産関連法の違反人員数として最も多いのは商標法である。2番目に多いのは著作権法、3番目に多いのは不正競争防止法である。ただし、不正競争防止法違反については、知的財産関係とはいい難い事案も多く含まれる可能性がある。

○特許法、実用新案法および意匠法については、過去5年間で違反人員が1件も存在しない年度がある。

○特許法と実用新案法については、過去5年間の違反人員は存在するものの、起訴猶予や嫌疑不十分などの理由で不起訴になっており、起訴に至った事例は1件も存在しない。

○知的財産関連法のなかで起訴の比率が最も高いのは、商標法違反の場合であり、過去5年間の平均で74.6%である。次に高いのは、著作権法違反の場合であり、同期間の平均で74.1%である。2009年における「一般刑法犯(刑法犯全体から交通関係業過を除いたもの)」の起訴率が43.9%、知的財産関連法違反も含まれる「道交違反を除く特別法違反」の起訴率が55.9%であることと比較すると、商標法・著作権法違反の起訴率は相対的に高いということができる。

○起訴された人員のうち、公判請求の割合を比較すると、著作権法違反の場合が最も高く、過去5年間の平均で48.1%である。商標法違反の場合、同期間の平均で44.4%である。

○過去5年間でみた場合、不起訴の理由は起訴猶予が最も多いようであるが、知的財産法の類型によってその比率には相違がある。著作権法違反の場合には起訴猶予が60.8%、嫌疑不十分が12.5%であるのに対して、商標法違反の場合にはそれぞれ82.2%と16.9%であり、商標法違反の場合の起訴猶予率の方が高い。両者の起訴率の過去5年間の平均が約74%でほぼ同じであるのに対し、起訴猶予の比率に21.4%のひらきがあるのは、それぞれが非親告罪かどうかの違いによるものであると考えられる。商標法権侵害は非親告罪であるため、親告罪の告訴等の取消等による不起訴は皆無であるのに対して、親告罪である著作権法違反の場合、過去5年間における親告罪の告訴等の取消等も19.2%と相当な比率で存在しており、そのためか相対的に起訴猶予率が低くなっている。

○なお、2009年における一般刑法犯及び道交違反を除く特別法違反の場合の起訴猶予、嫌疑不十分の比率はそれぞれ67.6%、23.6%である。

○嫌疑不十分による不起訴の比率について商標法が過去5年間の平均で16.9%、著作権法が12.5%であり大差ないことや、親告罪の告訴等の取消等以外の不起訴理由に該当する場合はあまりないことなどにかんがみると、かりに著作権侵害が非親告罪化された場合、(そもそも同じ知的財産とはいえ犯罪類型が違うので比較の対象にならない、ということはとりあえず措くとして)その起訴猶予の割合は商標法違反の場合と類似の傾向をたどるともいえそうであるが、商標権侵害に比してその潜在的な数が多いと推察される著作権侵害を非親告罪にしたときには、いかなる程度の著作権侵害を検挙するのかという実務にも変更があると思われるので、そのときまで確かなことはいえないであろう。

 

図1【特許法違反人員数】2006-2010

年度

受理

既済

未済

総数

旧受

新受

総数

起訴

不起訴

中止

他の検察庁に送致

家庭裁判所に送致

通常受理

他の検察庁から

家庭裁判所から

再起

公判請求

略式命令請求

起訴猶予

嫌疑不十分

嫌疑なし

罪とならず

刑事未成年

心神喪失

親告罪の告訴・告発・請求の欠如・無効・取消し

確定判決・大赦・刑の廃止・刑の免除

時効完成

その他

検察官認知・直受

通常司法警察員から

特別司法警察員から

少年法第20

その他

2006

7

4

3

3

-

3

-

-

-

-

-

6

-

-

-

6

-

6

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

1

2007

2

1

1

1

1

-

-

-

-

-

-

1

-

-

-

1

-

1

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

2008

8

-

8

8

2

6

-

-

-

-

-

8

-

-

-

8

4

-

1

1

-

-

-

-

1

1

-

-

-

-

2009

4

-

4

4

2

2

-

-

-

-

-

4

-

-

-

4

2

-

1

-

-

-

-

-

1

-

-

-

-

-

2010

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

 

図2【実用新案法違反人員数】2006-2010

年度

受理

既済

未済

総数

旧受

新受

総数

起訴

不起訴

中止

他の検察庁に送致

家庭裁判所に送致

通常受理

他の検察庁から

家庭裁判所から

再起

公判請求

略式命令請求

起訴猶予

嫌疑不十分

嫌疑なし

罪とならず

刑事未成年

心神喪失

親告罪の告訴・告発・請求の欠如・無効・取消し

確定判決・大赦・刑の廃止・刑の免除

時効完成

その他

検察官認知・直受

通常司法警察員から

特別司法警察員から

少年法第20

その他

2006

1

-

1

1

1

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

1

2007

2

1

1

1

1

-

-

-

-

-

-

2

-

-

-

2

-

2

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

2008

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

2009

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

2010

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

 

図3【意匠法違反人員数】2006-2010

年度

受理

既済

未済

総数

旧受

新受

総数

起訴

不起訴

中止

他の検察庁に送致

家庭裁判所に送致

通常受理

他の検察庁から

家庭裁判所から

再起

公判請求

略式命令請求

起訴猶予

嫌疑不十分

嫌疑なし

罪とならず

刑事未成年

心神喪失

親告罪の告訴・告発・請求の欠如・無効・取消し

確定判決・大赦・刑の廃止・刑の免除

時効完成

その他

検察官認知・直受

通常司法警察員から

特別司法警察員から

少年法第20

その他

2006

5

-

5

5

-

5

-

-

-

-

-

6

-

-

-

6

6

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

2007

9

-

9

5

1

4

-

4

-

-

-

9

4

-

4

1

-

1

-

-

-

-

-

-

-

-

-

4

-

-

2008

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

2009

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

2010

11

-

11

7

-

7

-

4

-

-

-

11

4

-

4

3

3

-

-

-

-

-

-

-

-

-

-

4

-

-

 

図4【商標法違反人員数】2006-2010

年度

受理

既済

未済

総数

旧受

新受

総数

起訴

不起訴

中止

他の検察庁に送致

家庭裁判所に送致

通常受理

他の検察庁から

家庭裁判所から

再起

公判請求

略式命令請求

起訴猶予

嫌疑不十分

嫌疑なし

罪とならず

刑事未成年

心神喪失

親告罪の告訴・告発・請求の欠如・無効・取消し

確定判決・大赦・刑の廃止・刑の免除

時効完成

その他

検察官認知・直受

通常司法警察員から

特別司法警察員から

少年法第20

その他

2006

1,130

20

1,110

820

4

816

-

287

1

-

2

1,123

669

399

270

148

134

14

-

-

-

-

-

-

-

-

-

292

14

8

2007

1,038

8

1,030

748

6

742

-

278

3

1

-

1,034

591

347

244

164

144

18

-

-

-

-

-

-

1

1

-

271

8

8

2008

919

8

911

683

8

675

-

227

-

-

1

894

458

253

205

206

151

53

1

-

-

-

-

1

-

-

3

222

5

21

2009

791

21

770

601

20

581

-

166

-

1

2

769

438

287

151

167

134

30

-

-

-

-

-

-

2

1

-

157

7

16

2010

621

16

605

454

5

449

-

149

-

1

1

599

301

176

125

153

126

27

-

-

-

-

-

-

-

-

-

139

6

26

 

 

図5【不正競争防止法違反人員数】2006-2010

年度

受理

既済

未済

総数

旧受

新受

総数

起訴

不起訴

中止

他の検察庁に送致

家庭裁判所に送致

通常受理

他の検察庁から

家庭裁判所から

再起

公判請求

略式命令請求

起訴猶予

嫌疑不十分

嫌疑なし

罪とならず

刑事未成年

心神喪失

親告罪の告訴・告発・請求の欠如・無効・取消し

確定判決・大赦・刑の廃止・刑の免除

時効完成

その他

検察官認知・直受

通常司法警察員から

特別司法警察員から

少年法第20

その他

2006

59

7

52

45

8

37

-

7

-

-

-

51

20

17

3

24

20

4

-

-

-

-

-

-

-

-

-

7

-

6

2007

119

6

113

100

5

95

-

12

-

-

1

103

38

28

10

48

38

9

-

-

-

-

1

-

-

-

-

17

-

9

2008

114

9

105

89

9

80

-

16

-

-

-

103

47

33

14

41

35

3

2

-

-

-

-

-

1

-

-

15

-

9

2009

253

9

244

203

3

200

-

40

-

-

1

253

123

86

37

91

79

9

-

1

-

-

2

-

-

-

1

38

-

5

2010

51

5

46

37

-

37

-

9

-

-

-

44

19

10

9

17

10

4

-

2

-

-

-

-

1

-

-

8

-

3

 

図6【著作権法違反人員数】

年度

受理

既済

未済

総数

旧受

新受

総数

起訴

不起訴

中止

他の検察庁に送致

家庭裁判所に送致

通常受理

他の検察庁から

家庭裁判所から

再起

公判請求

略式命令請求

起訴猶予

嫌疑不十分

嫌疑なし

罪とならず

刑事未成年

心神喪失

親告罪の告訴・告発・請求の欠如・無効・取消し

確定判決・大赦・刑の廃止・刑の免除

時効完成

その他

検察官認知・直受

通常司法警察員から

特別司法警察員から

少年法第20

その他

2006

450

4

446

362

11

351

-

83

-

1

-

437

261

193

68

71

40

7

-

-

-

-

23

-

-

1

3

85

17

12

2007

435

12

423

311

11

300

-

109

-

1

2

416

232

147

85

64

36

10

3

5

-

-

10

-

-

-

-

105

15

16

2008

358

16

342

253

9

244

-

88

-

-

1

344

192

130

62

60

32

9

-

-

-

-

19

-

-

-

1

87

4

14

2009

355

14

341

245

5

239

1

94

-

1

1

335

177

102

75

53

29

15

-

-

-

-

9

-

-

-

-

95

10

20

2010

482

20

462

350

19

331

-

110

-

2

-

461

213

125

88

127

91

6

3

12

-

-

11

-

1

3

-

110

11

21

 

図7 起訴率、不起訴率、公判請求率および不起訴理由の各割合

 

特許法

不起訴のうち

 

起訴

公判請求

略式

不起訴

起訴率

不起訴率

公判請求率

起訴猶予の割合

嫌疑不十分の割合

2006

0

0

0

6

0.0%

100.0%

-

-

100.0%

2007

0

0

0

1

0.0%

100.0%

-

-

100.0%

2008

0

0

0

8

0.0%

100.0%

-

50.0%

-

2009

0

0

0

4

0.0%

100.0%

-

50.0%

-

2010

0

0

0

0

-

-

-

-

-

0

0

0

19

0.0%

100.0%

-

31.6%

36.8%

実用新案法

不起訴のうち

 

起訴

公判請求

略式

不起訴

起訴率

不起訴率

公判請求率

起訴猶予の割合

嫌疑不十分の割合

2006

0

0

0

0

-

-

-

-

-

2007

0

0

0

2

0.0%

100.0%

-

-

100.0%

2008

0

0

0

0

-

-

-

-

-

2009

0

0

0

0

-

-

-

-

-

2010

0

0

0

0

-

-

-

-

-

0

0

0

2

0.0%

100.0%

-

0.0%

100.0%

意匠法

不起訴のうち

 

起訴

公判請求

略式

不起訴

起訴率

不起訴率

公判請求率

起訴猶予の割合

嫌疑不十分の割合

2006

0

0

0

6

0.0%

100.0%

-

100.0%

-

2007

4

0

4

1

80.0%

20.0%

0%

-

100.0%

2008

0

0

0

0

-

-

-

-

-

2009

0

0

0

0

-

-

-

-

-

2010

4

0

4

3

57.1%

42.9%

0%

100.0%

-

8

0

8

10

44.4%

55.6%

0%

90.0%

10.0%

商標法

不起訴のうち

 

起訴

公判請求

略式

不起訴

起訴率

不起訴率

公判請求率

起訴猶予の割合

嫌疑不十分の割合

2006

669

399

270

148

81.9%

18.1%

48.8%

90.5%

9.5%

2007

591

347

244

164

78.3%

21.7%

46.0%

87.8%

11.0%

2008

458

253

205

206

69.0%

31.0%

38.1%

73.3%

25.7%

2009

438

287

151

167

72.4%

27.6%

47.4%

80.2%

18.0%

2010

301

176

125

153

66.3%

33.7%

38.8%

82.4%

17.6%

2457

1462

995

838

74.6%

25.4%

44.4%

82.2%

16.9%

不正競争防止法

不起訴のうち

 

起訴

公判請求

略式

不起訴

起訴率

不起訴率

公判請求率

起訴猶予の割合

嫌疑不十分の割合

2006

20

17

3

24

45.5%

54.5%

38.6%

83.3%

16.7%

2007

38

28

10

48

44.2%

55.8%

32.6%

79.2%

18.8%

2008

47

33

14

41

53.4%

46.6%

37.5%

85.4%

7.3%

2009

123

86

37

91

57.5%

42.5%

40.2%

86.8%

9.9%

2010

19

10

9

17

52.8%

47.2%

27.8%

58.8%

23.5%

247

174

73

221

52.8%

47.2%

37.2%

82.4%

13.1%

著作権法

不起訴のうち

 

起訴

公判請求

略式

不起訴

起訴率

不起訴率

公判請求率

起訴猶予の割合

嫌疑不十分の割合

2006

261

193

68

71

78.6%

21.4%

58.1%

56.3%

9.9%

2007

232

147

85

64

78.4%

21.6%

49.7%

56.3%

15.6%

2008

192

130

62

60

76.2%

23.8%

51.6%

53.3%

15.0%

2009

177

102

75

53

77.0%

23.0%

44.3%

54.7%

28.3%

2010

213

125

88

127

62.6%

37.4%

36.8%

71.7%

4.7%

1075

697

378

375

74.1%

25.9%

48.1%

60.8%

12.5%

 

出典:法務省「検察統計年報」各年版に基づいて整理

http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_kensatsu.html (accessed on 21 July 2012)

 

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