明治大学 非営利・公共経営研究所

研究概要

 本研究プロジェクトの目的は、ソーシャル・キャピタル活用型地域再生モデルとしてのソーシャル・ビジネスの振興についての研究である。
 「ソーシャル・キャピタル」(social capital:社会的資本)は、「社会的ネットワークや信頼」などと理解されるが、経済的資本とは区別され、社会的ネットワークそれ自体の価値に注目する資本概念である。
 行政主導による地域再生の限界が露呈するなか、今日の地域再生には多様な組織の連携や市民参加など、ソーシャル・キャピタル的な社会資源の活用が重視される。
 これまでパットナム(R.D.Putnam)ら政治学者らの先駆的研究を端緒に、ソーシャル・キャピタルが地域再生や社会課題の解決に果たす役割についての研究がなされてきた。このソーシャル・キャピタルの形成の担い手として注目されているのが非営利組織やソーシャル・エンタープライズ(social enterprise:社会的企業)である。

 ソーシャル・エンタープライズは、社会課題の解決にビジネス手法を用いて取り組むハイブリッド型の事業体の総称であり、寄付・ボランティア中心の伝統的非営利組織と異なるのは、ディーズ(J.G.Dees)らが指摘するように、それが組織の持続性強化のために収益事業を重視する点、「ソーシャル・アントレプレナーシップ」(社会的企業家精神)と表現されるような「ソーシャル・イノベーション」(社会システムの刷新)の担い手である点である。
 日本では「ソーシャル・エンタープライズ」を「ソーシャル・ビジネス」という概念で表現する傾向にあり、経済産業省などを中心にソーシャル・ビジネスの振興策が展開されている。国内外においてソーシャル・ビジネスの研究は活発化しており、学際的領域で扱われている。
 エバース(E.Evers)らもソーシャル・ビジネスをソーシャル・キャピタルという社会資源とビジネス手法とを組み合わせて、「社会的排除」(social exclusion:失業、若年無業、麻薬依存など、社会的なつながりから排除された状況)等、社会課題の解決に取り組む組織としてとらえている。

 しかしながら、エバースらがソーシャル・キャピタル形成をソーシャル・ビジネスの所与の属性としてとらえるのに対して、ソーシャル・ビジネスがソーシャル・キャピタルを活用し形成する能力は、ソーシャル・ビジネスが取り結ぶ組織間ネットワークのありかたによって規定される、という仮説をとる点で本研究は異なる。制度学派的組織論やネットワーク理論も活用しながら理論的・実証的にソーシャル・ビジネスの発展を規定する制度的環境である組織間ネットワークにおける課題を明らかにする点で、従来のリーダーシップ中心のソーシャル・ビジネス研究とは異なる学術的特色を有する。
 また組織間ネットワークを通じた知識・ノウハウ移転における大学の役割に注目する点でも先駆的・実践的研究である。
 日本・韓国・イギリス・アメリカの国際共同研究、研究と実践との連携を重視する点も本研究の特色である。

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