明治大学知的財産法政策研究所

Intellectual Property Law and Policy Institute (IPLPI) at Meiji University

情報財の多元的価値と、創作・利用主体の役割を考慮した知的財産法体系の再構築

文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(平成23~27年度)

研究代表者:中山信弘

概要



 本研究は、情報財に関わる多様な価値と創作・利用主体の役割の検討を通じて、知的財産法体系の再構築、法体系全体における知的財産権の再定位を試みるものである。
 従来、表現の自由・文化政策や公共政策と知的財産権の関係、クリエイティブ・コモンズの活動やオープンソース等について、個別具体的な検討は散発的になされてきたが、各論的検討を超えた法体系全体の再構成を試みる点に本研究の意義がある。
 また、上記の研究目的の達成のためには、学際的なアプローチが不可欠である。本研究は、バックグラウンドの異なる研究者・実務家が参加し、産業界・NPO等との意見交換により研究を進めることで、法学研究における共同研究のあり方を示し、今後の議論の基軸となる人的ネットワークの形成を目指す点にも意義を有する。

目的


 知的財産法の基本的な法目的は、情報財(著作物、特許発明、業務上の信用等)の創作と利用の最大化を図ることにある。しかし、情報財の利用を巡る個別の問題では、上記の法目的とはやや異質な価値、考慮要素(表現の自由、文化・公衆衛生・産業政策、情報通信技術の発展、地域振興等)が関わってくる。これらの価値については、個別具体的な問題について意識されることはあっても、法の目的・体系全体との関係はいまだ明らかにされていない。
 さらに近年情報財の創作環境・流通形態が大きく変化しつつある。コミックマーケットやクリエイティブ・コモンズの活動、いわゆるgoogle訴訟、企業側による環境技術パッケージの提供等はその変化の具体例である。従来の知的財産法は独占権の付与とその制限を主たる内容とし、実際の情報財がどのように創作され独占権がどのように利用されるかについては、集中管理団体を巡る問題等を例外として十分な検討を行ってこなかった。そこで、情報財の創作と利用の実態とこれに関わる主体を法体系の中でどのように位置づけるか、が非常に重要な課題となっている。

 本研究は、情報財の多元的な価値とその創作・利用の実態を知的財産法の中でどのように扱うか、あるいは他の法制や法律外の問題として取引等に委ねるべきか、その理論的基準を明らかにし、もって知的財産法体系の再構築と法体系全体における知的財産権の再定位を試みるものである。
 情報財の多元的価値、利用主体の役割等を巡っては、個別具体的な問題につき従来から一定の議論の蓄積がある。これに対し本研究は、各論的な検討を超えた知的財産法体系全体の再構成を行う点に特色がある。本研究により、情報財の多元的価値や創作・利用主体の役割法体系全体の中で保護、規制し調整する基準となる新たな基礎理論が構築される。これまで明治大学知的財産法政策研究所では特許と公共政策等との関係を中心に一定の検討を行っているが、今回の研究では、創作・利用主体の役割の検討の視点を加え、知的財産法全体(商標、パブリシティ等も含む)に対象を広げる。

 このような広範囲で多面的な研究は、従来の個人を中心とした研究手法によっては達成不可能である。そこで本研究では、知的財産法・情報法研究者が多数所属する明治大学での日常的な議論を基軸として、バックグラウンド・問題関心の異なる学内外の研究者・実務家、北海道大学情報法政策学研究センター等の研究機関との連携により研究を進める。本研究は、法学における共同研究の在り方を示す点でも意義を有し、また今後の知的財産法を巡る議論のための人的なネットワークの形成という点で、社会科学における研究基盤の形成を目指すものである。

研究成果