本プログラムに参加する大学院生は日本文学専攻および史学専攻日本史学専修・アジア史専修・考古学専修の2専攻・3専修に所属する。それら大学院生が所属する専攻・専修学問分野を「主となる研究分野」として研究の深化を行うことは当然ながら,「副となる研究分野」として他の専攻・専修分野,もしくは横断的な学問領域の研究における課題と方法・成果を学び,「主となる研究分野」との関連付けを行う試みが,複眼的日本古代学研究における学際性である。
本プログラムにおいて学際性を獲得するカリキュラムとして,「文化継承学Ⅰ」を拡充し,「総合史学研究Ⅱ」・「総合地域(特殊)研究ⅠA・ⅠB・ⅡA・ⅡB・ⅡC」を新設した。「文化継承学Ⅰ」は,日本史学・日本文学・アジア史・考古学分野の専任教員・特任教授・客員教授が共同で授業担当し,博士学位取得者である研究支援員も参加して,2専攻・3専修の博士後期課程の大学院生が,それぞれ1研究者として研究発表を行い,それをもとに議論する。「総合史学研究Ⅱ」は,日本史学・日本文学・考古学分野の専任教員・特任教授・客員教授が担当して,博士前期および後期課程の大学院生が研究発表して各研究分野から議論が戦わされる。この2科目は,教員であれども異なる研究分野からの質問や批判,さらなる課題提示や展望などが出され,それぞれの研究分野ごとの個性があぶり出されると同時に,研究の架け橋を作るための議論も行われる。考古学分野では,伝統的な資料分析法だけでなく理化学的な研究法や研究成果が取り上げられ,また古代に関する考古学研究や近代考古学研究史の面では建築史学とも密接な関係をもっており,それらもこの2科目の中で繰り返し取り上げている。フィールドプログラム科目「総合地域(特殊)研究ⅠA・ⅠB・ⅡA・ⅡB・ⅡC」は,国内外にフィールドを設定して,日本史学・日本文学・アジア史・考古学各分野の地域研究の成果や方法を学ぶ。地域研究は総合人文学であり,各地の歴史・文化の蓄積や研究方法を体験的に学ぶことは,学際性を獲得する上で重要であり,いわば座学である上記2科目と対をなしている。
こうした3つの取組に参加することを通して,「主となる研究分野」が何であろうと,いずれも学際性を日常化した研究者としての道を歩むことになる。もちろん,時には研究分野ごとに乗り越え難い議論の壁が現れ,また研究方法自体が他の分野からは批判の対象になる場面も少なからずみられた。しかし,こうした壁や批判の存在を体感すること自体が,学際性への糸口であると考える。
そしてもう1点重要な事実が,2004年度から始まった「文化継承学」によって直ちに現われた。従来であれば,学部時代は学生が学科・専攻を横断して受講するために教員も学生も所属にかかわらず相互に認識し合っているのが,大学院に進学すると教員も学生も所属セクション内の科目を集中的に履修しながら研究活動を進めるために,相互交流が激減する傾向があった。しかし「文化継承学」の開始によって,教室の内・外にかかわらず教員も大学院生も所属にかかわらず日常会話から研究レヴェルまでのコミュニケーションが一気に盛んになったのである。これは一見ささやかな変化ではあるが,しかしこれは学際性を獲得する上でもっとも基礎となるべき環境であり,それが2008年度から本プログラムによって拡充されたことは評価すべきであろう。
本プログラムの「複眼的日本古代学研究」における「学際性」とは何か。日本における古代学研究は,近世~近代の国学・文学研究から近代における歴史学の確立,そして近・現代の古代史・古代文学・考古学の発展へと歩んできた。そして戦後における日本古代学研究の発展は,当然ながら研究の個別化・細分化をもたらしたが,同時に日本の近代化の過程のなかにあるために日本独自の視点・視角という色彩をもっているにもかかわらず,そのことが明確に意識されない場合がみられる。
ところが近年では,例えば日本における古代の律令法研究を進める場合,中国の法制や文字研究や朝鮮半島の新羅律令の研究も必須となっており,中国や韓国の資料をじかに研究するだけでなく中国・韓国の研究方法と蓄積を吸収する必要がある。同様のことは古代文学・考古学でもまったく同様の状況が現われており,日本・韓国・中国の研究交流が盛んになっている。さらにそこに欧米の研究者が参画して,東アジア圏とは異なる視点や問題設定による問いかけも顕著になっている。
これからの日本古代学研究の担い手は,当然ながらこうした学問潮流を受けとめなければならない。これが本プログラムにおける学際性の獲得であり,そのためのカリキュラムが,フィールドプログラム科目「総合地域(特殊)研究ⅡA・ⅡB・ⅡC」である。「総合地域(特殊)研究ⅡA」は,韓国・慶北大学校と,「総合地域(特殊)研究ⅡB」は韓国・高麗大学校,「総合地域(特殊)研究ⅡC」はアメリカ合衆国・南カリフォルニア大学とそれぞれ連携して,各大学の専任教員による講義や,専任教員・大学院生と共同でフィールドワークや学術交流(研究発表)を行った。事前に,明治大学の韓国籍研究者や大学院生によるハングル講座や専任教員と研究支援員による英語講座や文献読解などの語学トレーニングも行い,研究発表では現地校教員や大学院生とディスカッションを重ねた。
こうしたフィールドワークとは別に,特別講義や総括シンポジウムにおいて,韓国・中国・アメリカ合衆国・オーストラリア・ベルギー・ドイツの日本古代学研究者による講義や研究発表を行った。特に総括シンポジウムでは本学大学院生によるセッションを設定して海外の研究者からコメントや意見を頂くこともできた。
こうした取組を通して,自らの研究成果を海外に発信すると同時に,海外の研究者・大学院生と共同でフィールドワークや学術交流会を行うことを日常のことと認識できるようになったと確信する。
なお,こうした取組の成果が具体化するにあたって,本学大学院文学研究科日本文学専攻・史学専攻に,韓国・中国・アメリカ合衆国・ロシアなどからの留学生が在籍していることが重要な基礎となっていることを実感することを,特に付記しておきたい。
(『複眼的日本古代学研究の人材育成プログラム 2008年度~2010年度 取組報告書』総括より)