経営情報システム論A(春学期開講)

《講義概要》

 本講義では、経営情報学の中核的テーマである、コンピュータを中心とする情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)を用いて構築される経営情報システム(MIS:Management Information Systems)を活用した企業の「情報経営」の現状とあるべき姿について考察する。
 激しい変化を続け、不確実性の高いビジネス環境の中で活動する現代の企業にとって、効率的で有効な情報処理とコミュニケーションの仕組み、すなわちMISを適切に開発し、運用・管理することは、企業経営上の重要な課題である。ビッグデータやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、ロボット、人工知能などに見られるように、現代のICTは目覚しい発展を続けており、多様で柔軟な企業ビジネスのあり方を実現するMISの構築を可能にしている。しかしその一方で、MISにとってICTは不可欠の要素であるものの、ICTばかりに目を奪われ、組織づくりや人づくりをおろそかにすればMISは機能せず、情報投資は無駄なものとなってしまう。
 こうした理解に基づき、本講義ではMISを企業の戦略と組織、理念や文化、さらにはガバナンスと関連づけながら論じていく。本講義において受講生は、経営学、システム論、情報科学、情報工学など、学際的研究分野としての経営情報学に関連する項目の基礎を学び、その上で現代的な企業の情報経営について学習することとなる。


《講義の到達目標》

 本講義を受講することで学生は、まずMISならびに経営情報学を理解するための基礎理論として、経営組織論、経営戦略論、システム理論ならびに情報科学、情報工学における関連知識を身につけることが期待される。そしてこれらの知識の習得に基づき、MISの開発・管理・運用、ICTを活用した現代的なビジネスモデルの構築・運用と組織変革、ネットビジネス/モバイルビジネス、ロボットや人工知能などの先端的ICTが拓く近未来の企業経営のあり方などに関する知識を得ることができ、さらに企業における人間、組織、環境、技術の相互作用としての情報現象の本質について理解することが目指される。


《講義の内容》

第1回:「情報社会と企業経営」
 本講義への導入として、現代情報社会における企業経営が主として情報通信技術との関連においてどのような課題を有しているのかについて解説する。
第2回:「経営情報システム論の基礎理論-経営戦略論」
 経営情報システムを理解するための基礎として、経営戦略論の関連する項目について解説する。
第3回:「経営情報システム論の基礎理論―経営組織論とシステム論」
 経営情報システムを理解するための基礎として、経営組織論とシステム論の関連する項目について解説する。
第4回:「経営情報システムの変遷と役割期待」
 企業経営の中で、これまで経営情報システムがどのような役割期待を担ってきたのかについて、1950年代から現在までの流れを解説する。
第5回:「情報通信技術の発展-情報通信技術の特質」
 情報通信技術とはどのような特質を持つ技術なのかについて解説し、続けてその企業における利用と発展の方向性に関して確認した上で、データベースとネットワーク技術について解説を行う。
第6回:「情報通信技術の発展-先端的情報通信技術」
 ビッグデータ、IoT、人工知能、ロボットなどの先端的情報通信技術の動向と、それが企業経営にもたらす影響ならびに可能性について解説する。
第7回:「経営情報システムの設計と開発」
 経営情報システムの設計と開発の手法について解説し、それが企業経営にとってどのような課題を有しているのかについて議論する。
第8回:「経営情報システムの管理」
 経営情報システムの管理上の課題とその解決策について、企業の組織とガバナンスとの関連性を明確にしながら解説する。
第9回:「ビジネスプロセス革新」
 ICTを用いたビジネスモデルの構築について、実例をあげながら、その本質と課題について解説する。
第10回:「ネットビジネス/モバイルビジネス」
 ネットビジネスあるいはモバイルビジネスという企業の事業活動のあり方について、ネット起業の事例も含めて解説する。
第11回:「情報通信技術と組織変革」
 情報通信技術を用いた企業の現代的組織変革について解説する。
第12回:「情報通信技術と組織コミュニケーション」
 情報通信技術を用いた、企業内、企業間、企業‐顧客間コミュニケーションと情報共有のあり方について解説する。
第13回:「ユビキタスコンピューティングとSociety 5.0」
 国によって主導される情報通信技術政策と企業経営の関連性について解説する。
第14回:「経営情報システム論の今後の課題」
 経営情報学・経営情報システム論における学術的・実務的課題について解説する。



経営情報システム論B(秋学期開講)

《講義概要》


 今日の情報社会・ネットワーク社会において、さまざまな組織(企業、政府機関、自治体、医療機関、教育機関など)がそれぞれの組織目的に合わせて情報システムを構築・運用している。組織活動の情報システムへの依存度が高まるにつれて、情報システムの品質は、組織が提供するサービスの品質を定める要因となってきており、その結果、直接・間接に社会の広い範囲にわたる人々の生活の質(QOL:Quality of Life)への強い影響力を持つに至っている。この点で情報システムの構築と利用に関わる人や組織には社会的責任が問われることになる。また、質の高いパーソナライズドサービスを提供するために多くの情報システムで個人情報が取り扱われている。そして個人情報データベースを最新のものに維持するためにリアルタイムの「監視と管理」のためのシステムが稼働しており、このことはプライバシーや個人の自由と自律の侵害に大きく関わっている。こうしたことから、情報通信技術の開発と利用に関わる倫理問題・社会問題に積極的に取り組み、情報システムの「社会的品質」を確保することが現代情報社会における課題となっている。
本講義では、ケースメソッドやグループディスカッションを通じ、社会的品質の高い情報システムをどのように実現するのかについて、学生と議論しながら理解を深めていく。


《講義の到達目標》

 本講義を受講することで学生は、現代の情報通信技術ならびに情報通信技術を利用した情報システムの開発と利用に関わる倫理問題・社会問題の特質への理解を深め、情報システムを開発・運用する人と組織がどのような形でそうした倫理問題・社会問題に対処し、その社会的責任を全うしなければならないのかについて具体的な提案をできる能力を身につけることが期待される。


《講義の内容》

第1回:「情報通信技術と社会」
 本講義への導入として、情報通信技術と倫理問題・社会問題との関連について概説する。
第2回:「監視と管理」
 さまざまな組織における、現代的な情報通信技術の活用の方向性が「監視と管理」、より正確に言えば情報通信技術を利用した情報システムによる常時監視とリアルタイム管理にあることを解説する。
第3回:「サーチエコノミー」
 サイバースペースにおいて検索エンジンの機能を通じて「見つけてもらうこと」が営利組織の業績向上にとって重要性を増している一方で、検索という行為そのものが監視の対象となり、ビッグデータを構成する重要な要素となっていることを解説する。
第4回:「監視カメラ」
 防犯や治安に役立つと考えられている監視カメラが、今日どのような機能を持ち、どのような目的で使用されているのかについて解説する。
第5回:
a「参加型監視環境」
 多くの組織や個人に対して何らかの形で「監視」への参加を促している今日の参加型監視環境が持つ、社会的・経済的意味について解説する。
b:「現代的監視とは何か―グループディスカッション」
 情報通信技術が浸透する現在の社会・経済環境における監視の特徴についてグループディスカッションを行う。
第6回:「現代的監視―グループディスカッション報告」
 前回講義時間中に行われたグループディスカッションの内容について、各グループの代表者がプレゼンテーションを行い、またそれに対する質疑応答を行う。
第7回:「ソシアルメディア」
 ソシアルメディアのビジネスモデルと、ソシアルメディアの普及がもたらしている社会的課題について解説する。
第8回:「デジタルアイデンティティ」
 インターネットに公開される個人に関する情報に基づいて他人がその個人をどのように認識(アイデンティファイ)するのかが、個人に与える影響について解説する。
第9回:
a「デジタルアイデンティティをどのように保全するか―ケースメソッド」
 前回の講義で開設したデジタルアイデンティティの保全についてケースメソッドに基づいて理解を向上させる。
b:「デジタルアイデンティティをどのように保全するか―グループディスカッション」
 現代情報社会において、特に若者のデジタルアイデンティティを保全するために、どのような方策をとることが有効なのかについてグループディスカッションを行う。
第10回:「デジタルアイデンティティの保全―グループディスカッション報告」
 前回講義時間中に行われたグループディスカッションの内容について、各グループの代表者がプレゼンテーションを行い、またそれに対する質疑応答を行う。
第11回:「個人番号制度」
 マイナンバーのような個人番号制度が導入される背景・目的と、その社会的・経済的効用ならびにリスクについて、国際比較を行いながら解説する。
第12回:「国による監視」
 国の機関が行う情報通信技術を使った監視の社会的効用とリスクについて、実例を取り上げながら解説する。
第13回:「プライバシー」
 プライバシーの概念を解説し、プライバシー保護がなぜ重要なのかについて議論する。
第14回:「情報通信技術に関わる社会的責任」
 情報通信技術の開発と利用に伴う社会的責任について解説し、個人や組織がその責任を全うするためにはどのようなことをしなければならないのかについて議論する。