「ついに手にした生き字引?」

   西川伸一  * 西川ゼミ機関誌『Beyond the State』第2号(2001年)「巻頭言」

 1998年3月に本誌『BEYOND THE STATE』第1号を刊行してから、はや3年が経った。これをつくった4期生との卒業コンパ(追いコンといいたいところだが、このときは3年生を募集しておらず、ぼく自身もイギリスへ追い出される身だった)で、ゼミの伝統として定刻主義とこの機関誌だけは受け継いでいくから、と堅く約束した。それを破らずにすみ、ほっと胸をなで下ろしている。

 第1号は4年生の卒論をノーカットで採録した。第2号ではそれに加えて、3年生のエッセイとOB・OGの近況点描も載せることができた。現在、OB・OGは4期生までいる。メールアドレスのわかっているOB・OGに今回の原稿を依頼したところ、各期のOB・OGがそれぞれエッセイを寄せてくれた。卒業後もゼミのことを大事に思っていてくれていることがわかり、たいへんうれしかった。

 さて、この3年間に世の中も大学も、そしてぼくの身の回りも大きく変わった。大学には驚天動地のリバティタワーがそびえ立ち、明大のイメージを一新した。インターネットを見せながら授業をしていると、妙な陶酔感にとらわれることがある。昔は・・などという話はしたくないが、明大生の学習環境は飛躍的に向上したといっていいだろう。

 学生といえば、彼らの必須アイテム・携帯電話の進化もすごい。この威力は革命的ですらある。ある授業で「論功行賞」ということばを使った。学生から、意味はわかったがどうして「論功行賞」でそういう意味になるのかと問われ、返答につまった。「しまった」と視線を宙にさまよわせていると、別の学生が携帯電話からインターネットに接続して、あっというまに調べてくれた。「もう、教員なんていらないね」とぼくは苦笑するしかなかった。もはやこれは電話のカテゴリーをはるかに超えている。人類はついにホンモノのWALKING DICTIONARYを手にしたのだろうか。

 携帯電話しかり、コンビニしかり。そこに共通する思想は「便利さ、快適さ、気軽さ」である。そして、それに立脚した「早い、できる、勝つ」が至上の価値として尊重される。しかし、とぼくは思う。「早くてうまい」のは牛丼だけでいいのではないか。やはり勉強の基本は机に向かって本を読み、辞書を引きながら外国語と格闘することだろう。授業は黒板と白墨のスタイルが好きだ。「やっている」という実感がそこにはある。

 そうした愚直さを大切にしたゼミに今後もしていきたい。

 最後に、この第2号作成に骨を折ってくれた編集担当の3年生諸君に、深く感謝する次第である。

2001年2月14日


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