書評:マティ・ドガン著・桜井陽二訳『ヨーロッパの民主政治』 (芦書房)

   西川伸一  * 『明治大学広報』389号(1995年10月15日)「本棚」欄に掲載

 本書はフランスの政治学者マティ・ドガンによる9篇の論文を編訳したもの。「これでもか」と言わんばかりの膨大なデータを根拠に、ヨーロッパの政治に興味深い診断が下される。

 たとえば、西欧で頻繁な内閣の交代は政治の不安定を意味すると考えられてきた。だが、丹念に調べてみると、各国とも内閣は交代しても、中心的閣僚は常に内閣に留まり、政府に安定感を与えてきたことがわかる。彼らが「政府中枢」である、と。また、女性の投票行動分析では、皮肉にもその票が普選実現に努力した勢力に向かわず、保守的に作用したと結論される。東欧の現状を時間軸で捉えるのも示唆に富む。ナショナリズム燃え盛る東欧と正反対の西欧。その相違を「年齢」から説明する。東は西より数世代「若い」と。

 高齢社会への提言は辛口だ。各国の年金基金の逼迫は必至。将来、1人の年金受給者のために3人で1年のうち数ヶ月働くことにもなる。福祉国家の高福祉高負担はもはや理解を得られまい。国家肥大を続けるのか、舵を逆に切るのか。

 留保なしでは受け入れがたい指摘もあるが、ヨーロッパ民主政治の問題状況を的確に示しつつ、その座標軸を日本に当てはめたくなる誘惑に駆られる一書だ。


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