「「動く地雷」にも目を」

   西川伸一  * 執筆日1997.8.21 朝日新聞「声」欄に投書→不採用

 十二日の本紙論壇「対人地雷禁止へ政府は言行一致を」を読んだ。世界には一億一千万個の地雷があり、被害による身障者は二十五万人にのぼる。その対策を協議する国際会議が、橋本首相の提唱で、今年三月、東京で開かれた、とある。党派を超えて、国会議員も動いているようだ。
 結構なことだと思う。確かに地雷は卑劣な兵器だ。手足のもがれた被害者の姿を見て、心を痛めない人はいまい。しかし、である。身の回りには地雷の何倍もの規模で、人々をほぼ無差別に殺傷する「利器」が存在するのではないか。
 死傷者の数を比較するという禁をあえて犯せば、地雷は世界中で一日に七十人を死傷させるという。一方、クルマは日本国内だけで一日に三十人を死に追いやっているのだ。「動く地雷」といえよう。
 同記事には、対人地雷被害を「世界最大の人道問題」とみるアナン国連事務総長の言葉が紹介されている。しかし、生命の損傷という意味では、クルマ被害も地雷に劣らぬ「世界最大の人道問題」ではないのか。
 ところで、同日の本紙社会面には、福島で妊婦が交通死したという痛ましい記事が載っている。地雷の犠牲に義憤を感じた議員ならば、この記事にも目を向けてほしい。毎日三十人が死んでいる現実が政治と無縁でいいはずはあるまい。


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