共産党は「成田送迎」の虚礼を廃止せよ

   西川伸一  * 『QUEST』第27号(2003年9月)掲載

 さる6月6日に、私の政治学ゼミの活動の一環として、共産党の新しい本部ビ ルの見学を行った。同ビル建設委員会事務長の方に、最上階の12階から順次1階 まで丁寧に案内していただいた。震災と環境に配慮した建設コンセプトが随所に 活かされているのが印象的だった。

 途中、書記局長の執務室や国際局のオフィスにもお邪魔し、市田忠義書記局長 や緒方靖夫国際局長といったテレビでおなじみのお歴々に面会することもできた 。さらに、ある階の階段の出口付近で待機していると、上階からラフなスタイル の志位和夫委員長が降りてきて遭遇するという「幸運」にも恵まれた。ある女子 学生がすかさず記念撮影を求めて、パチリと数枚撮らせていただいた。

 いずれにせよ、学生たちの共産党に対するイメージは一新されたのではないか と思う。

 さて、見学終了後、礼 状を書こうと思って、データの確認のために共産党のホームページを開いてみた 。何気なく、あちこちクリックしているうちに、「こんなむだなことをやってい るのか!」と仰天するページにぶつかった。

 そのページというのは、2002年8月27日の「しんぶん赤旗」からの転載記事(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik/2002-08-27/02_0102.html )で、不破哲三議長の中国訪問を報じたものである。私が目を疑ったのは、この 不破訪中団を見送るのに、志位委員長、市田書記局長がわざわざ成田空港まで同 道していることだった。ホームページには、訪中団と見送りの幹部たちがずらり と並んだ、成田空港での記念写真も掲載されている。

 やはり、というか、不破訪中団が帰国した際にも、志位、市田両氏らが成田に 出迎えている(「しんぶん赤旗」2002年8月31日)。帰国時の記念撮影では、不 破氏が中央である以外、人物の並び方を序列を崩さずに出国時とは変えていると ころが、心ニクイ配慮である。

 1999 年1月1日からの「しんぶん赤旗」の記事は、ウェブ上でデータベース検索がで きる。これによって、共産党トップの外遊の見送り、出迎えを調べてみた。

●1999年9月17日 不破委員長ら党代表団、マレーシア・シンガポール・ベトナ ム・香港歴訪に出発

《見送り》 志位書記局長、上田耕一郎、金子満広、立木洋の各副委員長ら

○1999年9月26日 同 帰国

《 出迎え》志位書記局長、上田、金子、立木の各副委員長ら

●2002年12月15日 志位委員長ら党代表団、インド、スリランカ、パキスタン歴 訪に出発

《見送り》市田書記局 長、筆坂秀世政策委員長ら

○2002 年12月25日 同 帰国

《出迎え 》浜野忠夫副委員長、筆坂書記局長代行ら

●2003年7月26日 不破議長、チュニジアへ出発

《見送り》志位委員長、市田書記局長、浜野副委員長ら

○2003年8月4日 同 帰国

《 出迎え》市田書記局長、浜野副委員長ら

 このように、2002年の不破訪中団を含めて、1999年以降の共産党トップの外遊 は4回あり、いずれも幹部が成田まで見送り、出迎えている。これはずっと以前 からの慣行なのだと容易に想像がつく。

 まさか首相の外遊を真似たわけではあるまい。ちなみに、佐藤政権まで、首相 外遊には国会議員、党職員が「大挙して」羽田空港に見送りに出向き、そのあと は大森付近の料亭で慰労会をしたという。しかし、田中政権になると首相自らの 提案で見送りは大幅に簡素化された。角栄は「無駄なこと、不必要なこと」は極 力排除した。(奥島貞雄『自民党幹事長室の30年』中央公論新社、2002年、19-20 頁)。

 また、中国の胡錦濤国家 主席は、今年5月のロシアなど3カ国公式訪問とエビアン・サミット出席に際し て、人民大会堂での見送り行事を廃止した。それまで国家主席の外遊には、人民 大会堂で党と政府の要人がそろって見送り、出迎えるのが恒例だった。

 共産党はこれらを見習うべきではないか。成田空港まで出向くとなれば、確実 に半日はつぶれる。時間とお金の浪費である。委員長や書記局長の職務は激職に 違いない。時間はいくらあっても足りないはずだ。「からだに気をつけて、がん ばってください」(2002年12月15日・代表団への市田書記局長の歓送の辞)程度 のあいさつをするだけなら、あの立派な党本部でやれば十分だろう。

 こうした虚礼を写真つきで報道することが、党幹部の存在感のアピールだと考 えているとすれば、おおいなる勘違いである。私には形式主義、権威主義としか 映らない。

 なお、この2002年の 志位代表団に対しては、出発の前々日に、党本部で不破議長らが激励・歓送して いる。どうしても、必要ならば、これだけにすべきだ。

 確かに、組織を円滑に運営するには前例踏襲による物事の処理が便利だし必要 ですらある。しかしその行為のむだが明らかになったとき、果たしてそれをやめ られるか。これで、組織が動脈硬化症に冒されていなかどうかはわかる。むだが 制度化された組織に未来はない。


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