書評・三宅正樹『日独政治外交史研究』(河出書房新社、1996年)

   西川伸一  *『明治大学広報』402号(1996年7月1日)「本棚」欄に掲載

 長年の労作に新稿を加えた重厚な学術書。精密な註が叙述の迫力を裏打ちする。

 第一部では、政軍関係という本書のキー概念がドイツ第二帝制の検討から示される。クラウゼヴィッツの説く政軍関係、政治への軍の絶対服従は果たされたのか。「予防戦争」をめぐるビスマルクと参謀本部の綱引きがその現実を示唆する。時の参謀次長は軍への政の従属を考えていたのだ。この関係を制度的に支えたものが、統帥権の独立である。

 第二部は政軍関係から一九三〇年代日本をみる。議論の多いファシズム論に代え、どこにでもある政軍関係を作業仮説に、との主張は説得的。ドイツ式軍制採用から、その最大病理の統帥権独立が日本で極大化される様が描かれる。かくて日中和平唯一の好機「トラウトマン工作」はついえた。統帥権は化け物であった。

 そして第三部では、戦後日独の歩みを比較考察。敗戦の時差と戦後処理の相違。アデナウアーとエアハルトの確執。日本の社会党が方向転換に時間を要したわけ。旧敵国条項を盾にしたソ連の威嚇。二つあるナイセ河をあいまいにしたテヘラン会談など、興味は尽きない。

 あらゆる予断を排し、史料に忠実に歴史を究める冷徹な視点。その至当さを諄々と諭されるような一書だ。


back