「指針法」正確な認識で議論を

   西川伸一  * 執筆日1999年5月26日/読売新聞「気流」に投稿→不採用

 二十五日付本紙「論点」掲載の村田晃嗣氏「『指針法』日米に認識差」を、氏と同世代の者として興味深く拝読した。

 村田氏と異なり、私は「指針法」成立を「何よりである」とは考えていない。しかしここでは、そうした議論をする以前の問題として、氏の不正確な記述を二点のみ指摘しておきたい。

 第一に、同文には「自衛隊の『後方支援』(中略)をめぐる国会承認」とあるが、これは「後方地域支援」の誤りである。

 紛らわしい用語であるが、前者は日米安保条約五条が想定する日本有事の際の米軍への支援活動(補給、輸送、整備など兵たん)を意味する。一方、後者は新ガイドラインで設けられた新語であり、日本周辺有事における米軍への支援活動をさす。

 すなわち、「周辺事態」にあたって自衛隊が「後方地域」に出動して行う対米兵たん活動のことであり、「後方支援」とは区別される新概念である。これを混同することは、ケアレスミスの範囲を超えていないか。

 第二に村田氏は、「反対派の一部が用いる『戦争マニュアル』(中略)とかいう大袈裟なレトリック」としている。しかし、そもそも「ウォー・マニュアル」という呼び方を用いたのはアメリカ側であり、反対派が意図的に発明したスローガンではない。

 さらに、今月発売の月刊誌上では、「指針法」提案側の党首が新ガイドラインについて、「戦争に参加する話」だと語っている。とすれば、「戦争マニュアル」という言い方は決して誇張ではなかろう。

 議論が上滑りしないためには、正確な認識が不可欠である。自戒もこめて申し添えたい。


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