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研究成果の公開 | Disclosure of research results

科研費・基盤研究(B) | Grant-in-Aid for Scientific Research (B)

研究課題:日本に住む外国人に対する金融包摂の方策

(科学研究費補助金・基盤研究B 研究代表者:小関隆志、2021〜2024年度)

研究計画書(科研費申請時:2020年10月)
基本構想図(研究開始時:2021年4月)
科研費サイト

■本研究の目的
 本研究は、日本に住んでいる外国人(移民)銀行口座の開設・利用、預金や借り入れ、保険、送金など適切なの金融サービスを充分に利用できない、あるいはそのために生活困窮におちいってしまうという問題を取り上げ、その実態解明と、必要な対策を検証することを目的としています。

■研究分担者
佐藤 順子(さとう・じゅんこ)佛教大学 専門職キャリアサポートセンター 専任講師(*2022年度まで)
角崎 洋平(かどさき・ようへい)日本福祉大学 社会福祉学部 准教授
野田 博也(のだ・ひろや)愛知県立大学 教育福祉学部 社会福祉学科  准教授
吉中 季子(よしなか・としこ) 神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 社会福祉学科 准教授
南野 奈津子(みなみの・なつこ)東洋大学 ライフデザイン学部生活支援学科 教授(*2023年度から)



■調査プロジェクト
(1)日本に住む外国人労働者・留学生への意識調査
日本に住む外国人(移民)は、銀行口座の開設やクレジットカードの取得、借り入れ、送金、保険などの金融サービス利用の際に、どのような困難や不便に直面しているのかを探るため、半年ごとに意識調査を行っています。
外国人を対象に携帯電話、部屋探し、家賃保証、生活相談などのサービスを幅広く展開するグローバルトラストネットワークス(GTN)にご協力いただき、GTNの利用者を対象として、毎回250名へのオンライン・アンケートと、25名への追加的な電話インタビューを実施しています。
このほか、第一勧業信用組合(DKC)CE Human Resourcesなどのご協力を得て、在日ネパール人労働者・留学生へのインタビューを行いました(2021年)。

社会政策学会大会で2022年10月に行った発表「外国人労働者・留学生に対する金融排除の現状」は、その研究成果です。また、「外国人労働者・留学生に対する金融排除の現状」と題して、明治大学の「経営論集」71号(2024年1月)に論稿を執筆しました。2024年度以降も、学会発表や論文執筆などを通して研究成果を発表する予定です。

(2)生活困窮外国人による借り入れに関する調査
新型コロナウィルス感染症の急激な拡大に伴い、日本で暮らす外国人の生活も大きな打撃を受けました。生活福祉資金のコロナ特例貸付は、公的福祉貸付としては初めて外国人を対象に含め、短期間で多くの外国人に貸付を行いました。
コロナ特例貸付は、生活困窮に直面した外国人にとって当面の苦境を乗り切る助けになったものと思われますが、生活福祉資金制度はもともと外国人を対象として想定していなかったこと、言語の壁があったことなどから、運用面では課題が残ったのではないかと思われます。
今後の制度運営の参考にするためにも、現場の第一線で現状を最もよく把握している市区町村社会福祉協議会にご協力をいただき、調査を行いました。
調査結果は、貧困研究会第16回研究大会(札幌市)にて発表しました。また、『貧困研究』誌(31号、2023年12月)に論稿が掲載される予定です。

(3)母子生活支援施設における外国人母子世帯の家計管理に関する調査
母子世帯は相対的貧困率が高く、経済的自立が課題となっていますが、その中でも外国人母子世帯は言語や文化の壁があり、就職も不利で、厳しい状況に置かれています。日本の社会保障制度を理解し、利用するには周囲の支援が重要です。
本研究では母子生活支援施設の入所者に着目します。母子世帯が入所中および退所後に家計管理のリテラシーやスキルを身につけ、将来に備えて貯蓄や保険などを利用して経済的に自立できるようにするため、施設職員やNGOなどの支援者がどのような支援体制を構築すべきかを考察します。
2021年〜2022年にかけて、全国母子生活支援施設協議会(全母協)のご協力を得て、全国の施設にアンケートとインタビューを行いました。
2022年10月の貧困研究会研究大会と、2022年11月のシンポジウムは、その研究成果です。
2023年には、これまでの調査結果を踏まえ、東京都内の母子生活支援施設の職員に対する、家計改善支援に関する研修会を開催することとなりました。
この職員研修には、グリーンコープ生協ふくおか東京都社会福祉協議会母子福祉部会のご協力を得て実現する運びとなり、10月から翌年1月までの計4回の計画で実施しています。2024年2月に成果報告会を明治大学で開く予定です。関係者の皆様のご協力に感謝申し上げます。

(4)来日前の外国人労働者への金融教育
来日してすぐの外国人にとって、日本の金融制度や社会生活はなじみがなく、戸惑いや失敗があるでしょう。単に日本語の能力があるかどうかというだけでなく、日本の制度や生活に関する知識が充分なければ、容易に金融排除につながる恐れがあります。
日本に特有の知識・スキルだけでなく、日本で短期間労働に従事する人にとって事前に考えておくべきこと(何のためにお金を稼ぐのかなど)も少なくありません。
来日してすぐに必要となる知識やスキル、来日前に知っておくべき情報を伝え、ディスカッションする教育の場が必要だと考ました。 途上国で様々な調査事業を展開している、かいはつマネジメント・コンサルティング(KMC)に委託し、アジア諸国における金融教育・渡航前教育の現状に関する情報収集を行うとともに、渡航前労働者を対象とする独自のモデル教材を開発しました。 近年、労働者を多く日本に送り出しているインドネシアにて、モデル教材を使用した研修を試験実施し、その効果を検証するという実証的な研究を2022年に行いました。日本消費者教育学会第43回全国大会(2023年10月)で発表を行いました。

(5)フランスにおける家庭経済ソーシャルワーカーの視察調査
フランスは低所得世帯に対する家計改善支援の国家資格として「家庭経済ソーシャルワーカー」(CESF)を定めています。佐藤順子先生によれば、CESF は生活困窮者または収支困難者・住居の確保・多重債務・失業などの問題を抱える者の支援活動を行ない,ソーシャルワーカーとして倫理を重視し,クライアントとの協働作業において介入を行なう」(佐藤順子「フランスにおける家庭経済ソーシャルワーカーの成立とその養成課程―― 日本に示唆するもの ――」佛教大学社会福祉学部論集 第9号、2013年)という存在です。
日本でも、生活困窮者自立支援事業の一環として「家計改善支援事業」があり、自治体2018年度以降、この事業の実施を努力義務とされています。コロナ禍以降は家計が窮迫した世帯が増えたことから、家計改善支援事業の利用も大幅に増加しました(厚生労働省「家計改善支援事業のあり方等について」2021年12月)。家計改善支援事業は今後、必須事業化が予定されています。
しかし、家計改善支援の支援を行う人材はそれに見合った資格がなく、他の業務と兼務をしている職員も少なくありません。家計改善支援の質を高めるためにも、フランスの家庭経済ソーシャルワーカーという資格は参考になるでしょう。
佐藤監訳『困窮者に伴走する 家庭経済ソーシャルワーク――フランス「社会・家庭経済アドバイザー」の理念と実務』(明石書店、2022年)を手がかりとして、2023年度には南野奈津子先生を新たに共同研究者に迎え、フランスに視察に行く計画を立てています。

(6)その他
移住連(特定非営利活動法人移住者と連帯するネットワーク)責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)をはじめ、外国人を支援・救済する諸団体と幅広く連携しながら、現場に立って外国人の金融排除の実態を解明し、金融包摂の方策を考えていきます。
「外国人の金融排除」というテーマは、各方面から多くの関心を呼びました。
JP-MIRAIのセミナーで「外国人労働者への金融サービス・金融教育を考える」をテーマに話をさせていただきましたが(2023年10月)、50人以上の参加者がありました。
また、移住連のシンポジウム(2023年11月)で同様のテーマの報告をした際に参加者から感想・質問などの反響をいただきましたし、『いのちとくらし』『金融ジャーナル』などの雑誌から、外国人の金融排除をテーマに記事を執筆する依頼をいただきました。
『金融時事用語集』2024年版では、2023年の10大時事用語の一つに「増加する外国人と金融包摂」が選ばれました。これは私にとって大きな驚きでした。

■予備的考察(2021年3月)
小関隆志「外国人(移民)の金融排除・金融包摂に関する予備的考察」『経営論集』(明治大学経営学研究所) 68(4): 173-195
(紹介記事:フィナンシャル・インクルージョン研究会公式サイト




■フランスの家庭経済ソーシャルワークの本を刊行(2022年7月)
研究分担者の佐藤順子先生(佛教大学)がこのたび、監訳本『困窮者に伴走する 家庭経済ソーシャルワーク――フランス「社会・家庭経済アドバイザー」の理念と実務』を明石書店から刊行されました。本書の刊行にあたっては、翻訳等の経費の一部を本科研から支出しましたので、本科研の成果として紹介させていただく次第です。> 内容紹介:フランスの「社会・家庭経済アドバイザー」は生活困窮者の住居確保・多重債務・失業等の問題に対して、家計運営に関する相談支援を行う独自の国家資格である。今後の日本の政策への示唆となるこの制度について詳しく解説した、初学者向けの入門書。

■社会政策学会 第145回(2022年度秋季)大会(2022年10月)
2022年10月8日(土)、愛知県東海市の日本福祉大学東海キャンパスにて開催された社会政策学会第145回大会の自由論題にて、「外国人労働者・留学生に対する金融排除の現状――アンケート・インタビュー調査結果をもとに」というテーマで報告をしました。
グローバルトラストネットワークス(GTN)にご協力いただいて外国人労働者・留学生にアンケートとインタビューを3回実施し、その調査結果をまとめたものです。
報告に際しては、参加者の皆様から多くのご質問・ご意見を頂戴し、たいへん参考になりました。ありがとうございました。

小関隆志「外国人労働者・留学生に対する金融排除の現状――アンケート・インタビュー調査結果をもとに」(スライド資料・PDF版)


■貧困研究会 第15回研究大会(2022年10月)
2022年10月30日(日)、長野県佐久市の佐久大学にて開催された貧困研究会第15回大会の自由論題にて、「母子生活支援施設における、外国にルーツのある母親への家計相談支援」というテーマで報告をしました。研究分担者である佐藤順子先生(佛教大学)との共同研究・発表によるものです。
全国母子支援施設連絡協議会(全母協)にご協力いただいて母子生活支援施設にアンケートとインタビューを実施し、その調査結果をまとめたものです。
報告に際しては、参加者の皆様から多くのご質問・ご意見を頂戴し、たいへん参考になりました。ありがとうございました。

小関隆志・佐藤順子「母子生活支援施設における、外国にルーツのある母親への家計相談支援」(スライド資料・PDF版)


■シンポジウム「外国のルーツを持つ母子の支援課題と母子生活支援施設」(2022年11月)
2022年11月20日(日)、明治大学駿河台キャンパスにて、「外国のルーツを持つ母子の支援課題と母子生活支援施設」というテーマで、公開シンポジウムを開きました。
近年は母子生活支援施設の入所者に占める外国人母子世帯の割合が徐々に増えていますが、日本人母子世帯に比べて外国人母子世帯は言葉や文化の面で課題を抱え、就職や社会保障、家計管理などの面で困難に直面しています。
今回のシンポジウムは、特に家計管理や金融の側面に注目し、施設入所中の世帯や退所後の世帯への支援のあり方を考える機会としました。
母子生活支援施設「リフレここのえ」施設長の横井義広氏、NGO神戸外国人救援ネット事務局の村西優季氏、東洋大学教授の南野奈津子先生をゲストにお迎えしました。研究分担者である吉中季子先生(神奈川県立保健福祉大学)には司会を務めていただきました。
横井氏からは、母子生活支援施設における外国人母子世帯が抱える課題と、外国人母子世帯への支援のあり方についてお話しいただきました。
研究分担者である佐藤順子先生(佛教大学)には、貧困研究会研究大会での発表をもとに、母子生活支援施設の調査結果を紹介していただきました。
村西氏には、在留外国人を支援するNGOの立場から、外国人母子世帯への支援の現状と課題をご報告いただきました。
南野先生には、3名の報告を受けて、コメントを寄せていただきました。
オンラインと対面のハイブリッドで開催し、資料請求を合わせると54名の方から参加申し込みをいただきました(うち対面11、オンライン34、資料請求9)。なかでも母子生活支援施設の関係者の方々には熱心にご参加いただき、活発な質問・感想を頂戴しました。
ご登壇いただいた皆様、ご参加いただいた皆様に深く感謝申し上げます。

シンポジウム チラシ

シンポジウム会場
佛教大学 佐藤順子先生
NGO神戸外国人救援ネット事務局 村西優季氏
神奈川県立保健福祉大学 吉中季子先生
オンライン参加


■日本消費者教育学会 関東支部研究会(2023年6月)
2023年6月4日(日)、東京都千代田区の法政大学にて開催された、日本消費者教育学会関東支部研究会にて、「来日前の労働者への金融教育」というテーマで 報告をしました。
2021〜2022年度にかけて、かいはつマネジメント・コンサルティング社に委託して実施した、来日前の労働者に対する金融教育に関する調査と、インドネシア にて2022年末に実施した金融教育の試行の結果をまとめました。外国人労働者が直面する課題に対して、関心を持ってくださる参加者の方がいて嬉しく思いました。

小関隆志「来日前の労働者への金融教育」