明治大学・労働講座企画委員会寄附講座「未来の自分をつかめ〜先輩たちの働き方に学ぶ」





今回の講座は、20代から30代の社会人グループの企画です。

講座の初回でドキュメンタリー映画『遭難フリーター』(67分)を上映し、その翌週9月28日には監督の岩淵弘樹さんを招いて、「働く」について考えました。この映画を選んだのは、明治大学OB・OGなど20〜30代の社会人のグループです。


講座後半の座談会では、その社会人グループのひとりで明治大学OBの平野太一さんと、監督の岩淵さんのふたりが、『遭難フリーター』を観た学生からの質問や感想に応えながら、「働く」について考えました。
(司会・明治大学経営学部兼任講師 石川 公彦)

ドキュメンタリー映画『遭難フリーター』とは・・・
就活につまずき、気がついたら派遣社員になっていた——。大学卒業後、岩淵監督にとって予想もしなかった過酷な労働の日々が始まった。終わりの見えない工場労働者としての暮らしのなかで、表現する仕事をめざしていた監督の葛藤は日々募っていく。いつしかその葛藤は、自らの姿を写し出すセルフ・ドキュメンタリー作品『遭難フリーター』を生み出した。監督自らの体験をありのままに記録したこの作品は、私たちに働くことの意味を問いかける。

映画『遭難フリーター』を撮った理由(12分)
映画監督 岩淵 弘樹



●岩淵 弘樹(27歳)
2005年9月大学卒 情報デザイン専攻
2006年〜07年 工場の派遣社員
2007年 山形国際ドキュメンタリー映画祭などで『遭難フリーター』上映
現在 有料老人ホームに勤務

わたしの会社員としての3年間の出来事(11分)
明治大学OB 平野 太一



●平野 太一(27歳)
2007年 明治大学卒 政治学専攻
2007年 印刷会社勤務
2010年 長時間労働による過労から体調を崩して休職
     ユニオンに加盟して交渉の末、退職
現 在  一人でも入れる労働組合の組合員

座談会・「働く」を考える〜映画『遭難フリーター』を観て
進行 明治大学OG 石田 伸子
出演 映画監督 岩淵 弘樹 明治大学OB 平野 太一

座談会1(7分
「勝ち組・負け組」ってなに?

「勝ち」にはいろいろあって、ぼくにとっては、生活できる給料の仕事をして、その仕事が性に合っていて、余暇の時間で自分の好きなことをすること。いまメチャクチャ大変だけど、自分で選んだことなのでやっていきたい。(岩淵)


「勝ち組・負け組」の明確な線引きはないというか、ぼくは正社員だったので一応は「勝ち組」と言われたかもしれないけど、そこで病気になって体を壊して、いまは無職なんです。そういう思いも寄らない「落とし穴」がある。(平野)




座談会2(12分)
自己責任 それとも社会責任?

社会と個人の両方の責任を問うべきで、たとえば、努力をすれば全員が公務員試験に受かるという話ではないでしょう。どこかで割食うひとがいるはずで、そのひとに努力が足りない、と心の底から言えるのか?(平野)


映画を観たひとは思ったかもしれないけど、ぼくは努力が足りてなかったと思います。いま介護の仕事を始めて、この仕事はいいなあ、と素直に思える仕事に出会えたんですけど、これまではキャリア・アップしよう、という気持ちになれなかった。(岩淵)

派遣でも がんばれば変えられる?

最低賃金を下回る給料だったので、おじさんとぼくは派遣会社の社員に、派遣でも人間なんだから機械のように扱うな、と言ったら、翌日ぼくとおじさんだけに給料の入った封筒をもってきて、これは皆に言っちゃダメだよ、ってもらったことがある。(岩淵)


ひとりでは限界があるわけで、ひとりで会社の社長を相手にしても突っ返されるだけ。大事なのは皆で話し合って智恵を出すこと。これはめんどくさいし、厚苦しいけど、会社をかえるひとつの可能性だと思う。(平野)




座談会3(12分)
人生の迷い ほんとうにやりたい仕事なの?

いまぼくは27歳でまわりで結婚するひとが多いけど、家族のために働いている。家庭をもつことは、仕事をする強い動機になると思う。あまり頭でっかちになっても仕方ないかな、と最近ぼくは思っています。(岩淵)


どんなに楽しい仕事でも悩みは付きもので、そこで本を読んだりしても内(うち)に入ってしまうときついものがある。会社をどうしていこうか、と働く人たちが参加・主体的に動くことが大事かなと思う。(平野)

学生へのメッセージ

好きなことがあればいいんじゃないかな。生物って、2%くらいは途を外れて歩いていってしまうらしい。全員が隊列を組むのではなくて、そこから外れてしまうひともいるから、自分の生き方を社会に合わせる必要はないかな。(岩淵)


働くことや就活について悩むのはあたりまえで、努力が足りないからと自分を追い込むのではなく、内(うち)にこもるのでもなく、発散するのが大事かな。(平野)




学生からの質問と感想に応えて(15分)





Q 平野さんに質問です。残業代が出ずに労働基準監督署へ行かれましたが、そこでの対応はどうでしたか? 

Q 法学部で学んだ範囲では、残業120時間は致死量で、労働法の先生によれば、80時間以上は死んでもおかしくないという状況です。残業の問題を解決するために、労働基準監督署のような行政機関と労働組合以外にも、各都道府県には相談機関があると思いますが、そこについてはご存知だったのか、また相談する気があったのか、について知りたい。

Q 「負け組」を受容する人生があってもいいとぼくは思う。でも、勝ちたいと思ったときに、再チャレンジできないことが問題だ。

Q 日本ではどこに入社してもサービス残業するのは当然、という感覚ですが、これを無くすことはできないのでしょうか。

撮影・編集:青野恵美子

明治大学学部間共通総合講座
2010年度後期(半期)2単位
火曜日4限
駿河台校舎リバティタワー8階1083教室

コーディネーター 
LinkIcon経営学部 遠藤公嗣
連絡先:
endoxkosh@kisc.meiji.ac.jp (アドレスから、xを削除して送信してください)

支援組織(明治大学の特定課題研究ユニット)
LinkIcon明治大学労働教育メディア研究センター

本講座は労働組合や労働弁護団、労働NGO、個人で構成される労働講座企画委員会[代表:高橋 均(労働者福祉中央協議会事務局長)]の寄附による講座です。