プロジェクトの構想

  本研究では、日本列島の文明化を研究対象とする「日本古代学」の構築をめざす。ここでいう古代とは、おもに弥生時代から平安時代までをさす。従来、この時期の研究は、文献史料・文学作品・モノ・伝承といった史・資料の性質ごとに研究・調査が行われてきた。そのため、各史・資料に則した分析方法によって研究の精緻化が進められた一方、それぞれの研究分野によって分断され、研究が断片化されるという弊害を生み出した。たとえば、『風土記』に記載された同一地域の研究でも歴史学・考古学・文学の研究がバラバラで、その成果や結論に齟齬をきたすケースも生じている。しかし、これらの問題は分野の相違ということで放置されている。
  学問領域やディシプリンの違いによる多様なアプローチは今後も継承していく必要がある。しかし、研究の個別分散化が進展した結果、学問相互の関連や比較研究が困難になってきた。蛸壺化した研究によって、多面的な古代像を提示・記述することが出来なくなってきたのである。そのため、歴史学・考古学・古代文学の研究者で古代学研究所を組織し、学術フロンティア推進事業「日本古代文化における文字・図像・伝承の総合的研究」(平成16~20年度)を展開してきた。この研究プロジェクトの特徴は、共同研究が比較的容易であった歴史学と考古学に古代文学を加え、古代文化に対する総合的研究を実践してきたことである。本研究プロジェクトは、この総合的研究を飛躍的に発展させ「日本古代学」として学問的総合化と学際性を強め、列島文明化の究明に対する今日的課題に応える研究目的を持つ。
 歴史学・考古学・文学を総合化するため、新たに「資源」の用語を文芸等の文化を含めた概念として定義し直し、研究対象の分析手法として三分野の架橋をはかる。この「資源」を利用した物資生産から、その生産を可能にした社会組織と社会構造、そして当該社会の文化的到達度、というように三学問分野が円環のような構造で結びつく。この文化的到達度は、次の時代の「資源」として現れる。こうした研究手法は、すでに古代学研究所の活動で研究蓄積がある。このほか、「中心と周縁」という分析方法も中心から周縁へという一方向ではなく、逆方向を含めた双方向性を重視し、相互の歴史的基層を明確にする。具体的には、周縁地域の沖縄・南九州と東北・北海道の歴史社会との比較研究を実践したい。さらに、異文化圏である中国・韓国とアメリカの研究者と積極的に共同研究を行い、研究成果を国際的に発信していきたい。すでに大学院教育の実質化は文部科学省・大学院教育改革支援プログラム「複眼的日本古代学研究の人材育成プログラム」(平成20~22年度)を通じて実現しつつある。本事業では研究面の活動を強化し、日本古代学研究の世界的な研究拠点を構築していきたい。

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研究体制

  学際的な日本古代学研究を推進するため、2領域から構成されるサブユニットを3つ組織し、学外からも必要な人員を配置する。①列島文化の中心と周縁(考古学と文学)、② 支配・統治と文字使用(歴史学と考古学)、③ 物語りと伝承(文学と歴史学)である。この3ユニットを通底する新たな分析手法として、文化を含めた「資源」概念を用いる。この「資源」をキーワードに、①「資源の利用と生産・文化」、②「資源と社会組織・文字利用」、③「物語文芸と文化資源」を課題として研究する体制を構築する。3ユニットの連携として、 ①では、列島中心地域の文明と周縁の琉球文化等に焦点を定める。②では、①の首長制から発展した律令制社会の意思伝達方法とその地域実態を、研究所が作成したデータベースを活用して解明する。③では源氏物語、平家物語を中心として、当時の家族・社会構造や儀礼・宗教にアプローチして、①・②の研究成果と関連づける。これらサブユニット間の連携を通じて、新たな日本古代学の枠組みと方法論を提示できる研究体制とする。
 研究代表者(吉村武彦)が、古代学研究所の代表者(所長)を兼ね、本プロジェクトに組織した3サブユニットの研究総括者(石川日出志、日向一雅)とともに、プロジェクト委員会を組織し、共同研究に関係するすべての事項について、協議するとともに、研究所の基本的業務の管理を行なっている。
 古代学研究所長(研究代表者)    吉村武彦
     副所長(サブリーダー)   石川日出志、日向一雅
  また、本研究所には、研究推進員及び大学院博士後期課程院生からRAが数名参加し、各サブユニットの業務に従事する。各RAは、史・資料と作品研究をとともに、国内外にわたるフィールド研究・調査に従事している。そのほか、博士前期課程の院生らが、アルバイトのかたちで業務に参加しているので、明治大学における古代学関係の一大研究・教育拠点になっている
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各サブユニットの特徴

 研究は、3つのサブユニットを中心にして、研究する態勢をつくっている。各サブユニットには、研究分担者がRAとともに研究するが、サブユニット別の研究課題は次のようになる。 詳しくは

サブユニット①:列島文化の中心と周縁

サブユニット②:支配・統治と文字使用

サブユニット③:物語りと伝承


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研究により期待される効果

  本研究は、これまで総合化が困難とされてきた日本列島古代における歴史学・考古学と文学を「日本古代学」として構成し、列島文明化の歴史・文化像を新しいレベルで提示する。この研究成果は、従来の歴史学・考古学・文学における個別分散的研究に対し、学問の革新を強く迫るものとなる。また、「資源」の用語を文化を含めた広汎な概念として定義し直し、歴史学・考古学・文学を通底する分析方法として活用する。その際、「中心-周縁」関係の相互作用を重視する。こうした研究の前提として、モノ・文字・文芸等の各史・資料を電子媒体化するが、その集成自体が既存の学問の活性化に大きな効果がある。これまで、物質資源の利用と生産は考古学の主要分野であったが、文化を含む資源概念の新たな活用により、社会組織を得意とする歴史学のほか、文化資源を通じて文学との架橋が方法論的に容易になる。このように新しい手法によって、歴史学・考古学・文学が対象とする資源を縦横に利用するため、従来の古代研究に大きな転換をもたらす効果となる。

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研究分担者

研究者名
所属・職名

研究プロジェクトにおける
研究課題

共同研究プロジェクトに果たす役割

石川日出志

明治大学文学部・教授日本列島初期農耕社会の地域的差異。 分節的社会構造の解明。サブユニット①担当。

高瀬克範

北海道大学大学院文学研究科・文学部・准教授 日本列島初期農耕社会の地域的差異。 古代における穀物利用の解明。サブユニット①担当。
永藤  靖 前明治大学文学部・教授 琉球史における祭祀と伝承。 非文字資料・文字史料からみた琉球の宗教
と社会。サブユニット①担当。
居駒永幸 明治大学経営学部・教授 万葉集と南西諸島の伝承。 文学にみる周縁社会。サブユニット①担当。
吉村武彦 明治大学文学部・教授 律令制社会の意思伝達と文字。

支配・統治と文字の使用。サブユニット②担当。
氣賀澤保規 明治大学文学部・教授 石刻文物からみた東アジア古代。 日本列島と中国大陸の関係史,歴史史料としての石刻文物の評価。サブユニット②担当。
小笠原好彦 前明治大学大学院文学研究科・特任教授 律令制と都城の形成。 支配・統治における都城の役割の解明。サブユニット②担当。
日向一雅 前明治大学文学部・教授 歴史としての源氏物語。
物語を通した宗教・儀礼体系の解明と比較。サブユニット③担当。
上杉和彦 明治大学文学部・教授 物語伝承と摂関・院政時代。 寝殿・作庭からみた権力・制度・組織論。サブユニット③担当。
牧野淳司 明治大学文学部・准教授 いくさの伝承と平家物語。 物語を通した宗教・儀礼体系の解明。サブユニット③担当。
加藤友康 明治大学大学院文学研究科・特任教授 令集解データベースの構築。

令集解を通した律令法体系の解明。サブユニット②担当。
川尻秋生 早稲田大学文学学術院・教授 古代における地方支配。

物質資料・文字史料を駆使した房総の実態解明。サブユニット②担当。
山路直充 市立市川考古博物館・学芸員 寺院からみた古代の支配。 宗教的拠点形成過程とその役割の解明。サブユニット②担当。
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研究施設等

 古代学研究所の共同研究室(現在は、11号館地下1階)は、本プロジェクトの研究推進に関して本部事務室としての役割を持つ。また、外部の共同研究者が利用できる施設でもある。
 古代学研究所は、毎週月曜日~金曜日の10時~17時に常時開室するようにし、毎日、嘱託職員が勤務して、会計を含む日常的な業務を担う。そして、RAが数人勤務し、業務に従事する。土曜・日曜日も使用することが可能である。
 また、墨書土器データベースの作成をはじめとする、各種アルバイト(大学院生)の作業は研究所を使用して行なっている。こうして作成された諸資料や、各地で収集した史・資料の保管庫にもなっている。

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