量子の宇宙でからみあう心たち

■ 著者:ディーン・ラディン

■ 訳者:石川幹人

■ 監修:竹内薫

■ 出版社:徳間書店


訳者による注:

●解説

竹内解説では、藤教篤(ふじのりあつ)が故意に乾板を入れなかった可能性を、物理学のN線事件と対照して論じている。訳者の知るところでは新しい指摘であり、優れた歴史考察として注目されるだろう。

読者が誤解してはならないのは、郁子の実験は「失敗に終わった」とあるが、超能力発揮が失敗に終わったことを意味しない点である。『通史・日本の心理学』(北大路書房)という分厚い本の147ページでは、「(郁子)は精神統一を開始するが,やがて覚醒し,装置には乾板が入っていない,と告げた。・・・藤がセットし忘れてしまったと言い,過失を認めた」とある。『透視も念写も真実である』(草思社)はジャーナリズムの視点に立った新しい本だが、195−217ページに情報源がよく明示された状態での、詳細な同趣旨の記述がある。郁子は「カラクリがある」と首尾よく山川に指摘したので、念写はべつにして透視は成功と言える可能性がある。だが、それが不信感になり、以後物理学者山川の実験をしなくなっている(山川はまたその点について深く謝罪している)。また藤は「千里眼はインチキだとする本」を郁子の死後に発刊し、物理学の権威を守ったとされる(213ページ参照)。福来は,報知新聞に「私も今までは世間はもっと単純なものと思っていましたが,千鶴子,郁子の両婦人で千里眼の実験をやって以来,世間の非常に複雑なものであることを知りました(同216ページ)」と述べていて、この騒動については実験の成否という次元ではなく、社会現象の次元で語るべきことをあらためて感じさせる。

●謝辞

原著でラディンは、ノエティックサイエンス研究所の創始者ミッチェルをはじめとした新旧スタッフ14名に謝辞を述べている。またビアル財団、フェッツァー財団には資金援助の謝辞を、23名の友人・同僚(ほとんどが引用文献の著者たち)に研究上の議論についての謝辞を、出版に関してパラヴュー社の3名と研究所の6名、シリコンヴァレーの5名に謝辞を述べている。さらに、家族(妻と両親と兄、2匹の犬)に謝意を表している。妻はスージーと言って、冒頭にも「スージーにささげる」とある。

(2007年度PA大会における訳者とスージー)


●あとがき(以下全文)

 本書は、2006年4月にアメリカで発刊された、Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Realityの邦訳(一部抄訳)である。著者のディーン・ラディン(Dean Radin)は、イリノイ大学で電気工学の修士号と心理学の博士号をとった超心理学者である。AT&Tのベル研究所をへて、プリンストン大学、エジンバラ大学、ネバダ大学、米政府の超能力諜報プロジェクト「スターゲート」を請け負っていたSRIインターナショナル研究所などで超能力の実験的研究を続けてきた。現在、宇宙飛行士ミッチェルの設立したノエティックサイエンス研究所(カリフォルニア)の主任研究員であり、超心理学国際会議で最多の4回にわたって議長を務めるなど、緻密でかつ大胆な実験研究に定評のある、第一線の研究者として知られている。また、彼の小柄な身体から発せられるかん高い声には人々を魅了する不思議なパワーがあふれており、多くの研究者から厚い信頼が寄せられている。その抜きんでた知性とユーモアのセンスは、本書の内容からも推察できよう。
 ラディンには、研究論文や解説の執筆実績が数多くあるが、著書は本書で2冊目である。前作のThe Conscious Universe: The Scientific Truth of Psychic Phenomena (1997)は、フランス語・韓国語・トルコ語など8か国語に翻訳され、英語版は10刷をこえる世界的ベストセラーになっている。残念ながら邦訳はないが、前作の内容の主要な点は本書にもりこまれているし、年月もへた本書の方が、当然ながら完成度がより高くなっているので、ご安心いただきたい。
 じつは、訳者は8年ほど前に、前作のほうの翻訳を企画し、出版社を4社まわったのであるが、一様に内容が科学的すぎるし分量も多すぎると、翻訳出版を断られてしまった。結果として、ここ十数年の超心理学の進展は、日本では広く知られることがなかったように思う。本訳書の企画は、過去の失敗を反省し、サイエンス・ライターの竹内薫氏の協力も得ながら満を持して臨み、今回は首尾よく実現にこぎつけた。出版を快諾いただき、編集の任にあたっていただいた徳間書店の石井健資氏には、深く感謝申し上げる。
 内容が科学的すぎるし分量も多すぎるという点は前作と同様であったのだが、この点は訳出の過程で工夫した。本書の原書は、著者が第2部の冒頭で述べているように、一般読者から科学者までを広く対象とした内容であり、テーマごとに入門的な解説からこみいった議論までが書かれている。訳書のほうは、日本の実情をふまえて、対象を一般読者のほうへ少しシフトした。具体的には、専門的な部分を割愛したり要約記述に書きかえたりしている。また原書のイラストは、金内あゆみさんによって全面的に描きなおされて、ファンタジーの世界が築かれた。グラフが理解しやすくなったのは、最終の編集を担当された小林久美子さんの努力によるところが大きい。お二人にも心から感謝申し上げる。
 さらに、分量を削減するために、原書で多く現れているアメリカの歴史や文化を踏まえた記述も(日本では理解されにくいと判断する点については)省略した。原注、参考文献、索引、謝辞も削ってある(参考文献には、訳者が同僚の人類学者蛭川立氏と一緒に行なった研究の論文や、訳者の古くからの友人である小久保秀之氏や世一秀雄氏の研究論文が掲載されていたので、たいへん心残りではあったが)。ぎゃくに原注のうち重要と思われる点は、本文中に戻したところもある。結果として、訳者がふだん接している文科系の大学生の方々にとっては、本訳書は原書よりも飛躍的に読みやすくコンパクトになっていると自負している。専門家の方には不満もあるかもしれないが、原著は本訳書より安価に手に入るので、あわせて読んでほしい。
 なお、上述の訳出上の対処と原著の全参考文献は、ページごとの訳注というかたちで、訳者の主宰する「メタ超心理学研究室」のホームページに公開してある[本WEBページのこと]。ぜひそちらも閲覧して、本書の議論が膨大な文献に支えられているという事実を確認していただきたい。ビジネス上の問題で科学研究の単行本が邦訳されにくくなっている昨今、こうした形態もひとつの新しい試みとして意義があるだろう。それから「メタ超心理学研究室」には、訳者が2002年度に滞在したライン研究センターで見聞きしてつづった「超心理学講座」も公開してある。本書の内容と重なるところも一部あるが、また別の角度から超心理学の奥深さを実感できると思われる。一読いただければ幸いである。
 本書によって、科学的営みとしての超心理学の姿が広く理解され、これまでの誤解が解けることを、訳者は切に願うものである。また日本でも、超心理学に興味をもつ研究者が増えることを期待している。研究発表の代表的な場としては、1960年代からの伝統を誇る日本超心理学会があるので、著者が言うような「勇気をもつ」方は、学会のホームページをあたって挑戦してもらいたい。

2007年5月吉日 訳者 石川幹人


●訂正

[212] さらに許されならば⇒さらに許されるならば

[236] ローリン・マッカーシー⇒ローリン・マクラティー

[290] ふりがな:あさながしんいちろう⇒ともながしんいちろう

(さらに気づいた点があればどしどしご連絡ください)


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