0. まえがき:RRCとSSP

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

<1> ライン研究センター(Rhine Research Center)

 ライン研究センター(RRC)は,1930年代に超心理学の実験的方法を確立したJ・B・ライン博士が,在籍していたデューク大学(ノースキャロライナ州ダーラムにある名門私立大学)心理学部を退官するに際し,その3年前の1962年に設立した。設立当時はFRNM(人間本性研究所)と称していたが,1995年にライン博士生誕100周年を期して,RRCと名称を改めた(ライン博士自身は1980年に死去)。2002年5月には,創設以来使用してきたデューク大学東キャンパス隣接の建物から,西キャンパス付近のキャンパスウォーク通りに建物を新築して移転した。
 現在のセンター所長はライン夫妻の娘であるサリー・フェザー博士,研究所長はジョン・パーマー博士である(他に常勤スタッフが5名いる)。センターの運営は主に個人レベルの寄付によって賄われ,『JP(超心理学誌)』の発行を中心的活動としているほか,毎週の公開研究ミーティングや不定期の講演会を開催している。また,研究費(グラント)の獲得に応じて複数の研究が随時進行している。センター内には超心理学研究所が設置されており,一部の仕事はその研究所の仕事とされている。ラインは当初,センター内に複数の研究所を設置する構想であったが,1つしか設置されずに今日に至っている。
 歴代のセンター所長は次の通り。

RRCのホームページ:http://www.rhine.org/

<2>夏期研修プログラム(Summer Study Program)

 筆者は,2002年度にデューク大学コンピュータ工学部(ウィリアム・ジョインズ研究室)に客員研究員として在籍する機会を得たので,同年のRRC主催の夏期研修プログラム(SSP)に参加した。SSPとは,RRCが超心理学の第一線の研究者を養成することを目的に,1970年代から始めた研修プログラムである。世界で唯一の本格的な超心理学のコースであることから,全世界からの参加者がある。2002年のSSPは6月3日から7月26日までの8週間であったが,RRCの移転直後の開催となったため,参加者が移転記念式典に出席できるという利点があった一方,新築建物のペンキなどの臭いが精神集中の妨げになるという欠点もあった。

SSP75
(旧建物玄関での1975年度SSP参加者記念写真,RRC提供)

 同年のSSPの参加者は12人(うち7人が女性)で,米国外の参加者は英国1人,カナダ1人,オーストリア1人,日本(筆者)1人であった。内訳は,学部生3人(心理学2人,生物学1人),院生1人(科学哲学),研究助手1人(心理学),教授3人(教育工学,物理学,情報学),心理療法家1人,一般社会人3人(彼女らの背景は,宗教哲学,経済学,メディア論)であった。例年に比べると広い研究分野の参加者が集まったようである。

SSP2002
(新建物玄関での2002年度SSP参加者記念写真)

 SSPは,10時からの2時間と,14時からの2時間の1日2コマの時間帯で,RRCの図書室で行なわれた。それ以外の時間帯はフリーであるが,図書室には貴重な文献が山ほどあるうえ,コマあたり平均30ページほどのリーディング課題が課されるので,参加者が暇になる心配はほとんどない。コマの内訳は,講師レクチャー52コマ,ビデオレクチャー4コマ,超心理実験体験5コマ,研究プロジェクト5コマ,倫理ワークショップ2コマ,試験とその解説7コマ,最後に参加者によるコースの評価と総括懇談会が各1コマであった。講師レクチャーは,英国エジンバラ大学のモリス教授などの第一線の研究者,総勢26人によってそれぞれ交代で行なわれ,他のコマは,パーマー博士を中心としたRRCスタッフによって運営された。
 レクチャーの内容は,歴史や伝統儀式,比較文化から始まり,統計法,検査法,質問紙法,測定機器,実験者効果などの実験調査研究について,偶発的ESP,幽霊憑依,心霊治療,死後存続などの事例研究について,そして科学的方法論,認識論哲学,懐疑論争と奇術,特異能力者の心理分析,現代物理学理論についてまで,多岐にわたった。超心理実験体験は,ガンツフェルト,リモートビューイング,アルファベットボードの各手法を使ったESP実験と,オラクルと呼ばれる瞑想を,簡単に体験した。研究プロジェクトは参加者が各自考える研究計画を披露して,参加者相互で議論したり,パーマー博士らからコメントをもらったりするものである。参加者の中には,非常に具体的なプランを立てる人もいて,SSP参加者が翌年の超心理学協会(PA)大会の発表者のひとりとなる例が多いのもうなづける。倫理ワークショップは,倫理的に問題のありそうな状況を想定して,そうした場合我々はどうするかを参加者がグループに分かれて討議し,発表し合うものである。試験は講師のレクチャー内容から出題され,多肢選択問題と記述式問題が半々の構成になっている。全体で6割以上の正答をしないとコースの履修合格証が出ない。参加者のうち3名は,SSPを大学の単位に換算することを希望しており,必死で勉強していた(結局,参加者のうち7名がパスした模様である)。コース評価は,各コマの有用性の採点や改善点の指摘を参加者が行なうものであり,集計して翌年のSSPの運営に反映される。総括懇談会は,SSPを受講した成果を各参加者が将来どのように生かしていくか,今後の超心理研究はどうなるかなどについて,率直に意見交換する場であった。
 SSPに参加する前の筆者の予想は,SSPとは,ラインの伝統ある実験超心理学を中心に実践的に超心理学を学ぶものであり,ESPカードやサイコロ振りなどの古くからの実験を追体験しながら,その成果や問題点を学ぶコースである,というものであった。ときには参加者の「能力」が開発されるようなトレーニングもあるのでは,と「怪しい」期待もしていた。しかし,実際に参加してみると,そうした予想や期待は誤りであった。多少の実験体験もあるものの時間が少なく,実験上のノウハウの伝授までには至っていない。コマのうち圧倒的割合は座学が占めており,まさに大学で行なわれる授業である。また,座学の内容はきわめて広い話題にわたり,それぞれもかなり深いレベルまで踏み込んでいる。心理学を中心に関連分野の基礎的知識がないと内容の理解が進まない。例をあげれば,統計学のレクチャーがないまま「メタ分析」のレクチャーがなされ,参加者から不満が出たところ,SSPではそうした基礎知識は前提となっているということであった。それでも重ねて不満が表明されたので,土曜日に1コマ分の補講で統計学の概要が講義された。だが,2時間で統計学の基礎的理解がなされるとは望むべくもない。
 筆者が見るに,SSPは明らかに大学院レベルの「超心理学」の専門履修コースに相当する。参加者の多くがもっと実践的な内容を予想していたらしく,SSPの参加を決める前の時点で,コース内容の概要がオープンになっているべきであると,改善点の指摘をしていた。このようにSSPは,座学重視の内容となっているために,英語が母国語でない参加者には言語の問題も大きくなっている。ある程度の英語のヒアリングとリーディングがこなせなければ,8割以上の時間帯は途方に暮れて過ごすことになる。試験に受かろうとするとライティング能力も必要である。日本からSSPに参加したいという方には,慎重な判断をするようお薦めする。

履修合格証
(写真:SSP履修合格証,イラストはライン夫妻)

<3> 本超心理学講座について

 本ホームページの超心理学講座は,上述のSSPにおいて筆者が学んだ内容の一端を,日本の方々に紹介することをひとつの目標としている。よって情報源のほとんどは,SSPのレクチャおよび推奨文献,その後のRRCの研究ミーティングの内容に負っている。またSSPで推奨された次の6冊のテキストは,内容の整理のためにとくに活用したので,ここに挙げておく。


超心理学講座の目次
1. 超心理学の社会学
2. 超心理実験研究法
3. 超心理実験の実際
4. PSIの特性研究
5. PSIの理論的検討
6. 超心理事例調査研究法
7. 超心理事例調査の実際
8. 超心理学の哲学
X. 用語解説
Y. 演習問題
Z. 著作権と引用について


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