1-6 メディア研究

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 超心理学にとってメディアは「両刃の剣」である,とパーマー氏は言う。メディアは超心理学の研究を前進させる働きもするし,後退させる働きもする。どちらにしてもその作用は強力であり,また変化も激しい。超心理学者はメディアと注意深くつきあわねばならない。
 以下では,テレビ番組を中心にマスメディアについて議論する。インターネット・メディアについては重要な今後の課題である(本講座自体がその実験でもある)。

<1> メディアの論理

 基本的なメディアの使命は,一般大衆が必要とする情報を正しく的確に伝達することを通して,社会福祉の向上に資することであろう。しかし,メディアが近視眼的に運営されると,大衆の要求するセンセーショナルな情報発信に偏る場合がある。視聴率が上がり(販売部数が伸び)広告収入も上がるからだ。超心理学の研究や超常現象の体験は,そうしたセンセーショナルな情報発信につながりやすい。
 2001年のギャラップ社会意識調査では,一般大衆のうち,54%が超能力治療を信じ,50%がESPを信じ,42%が幽霊憑依を信じているという数字が出た。一方,1981年のジェームス・マクレノンの調査では,一流科学者(339人)のうちESPの可能性を信じるものは20%に過ぎない(1500人以上の大学生を調査したところでは60%を超えた)。また,一流科学者たちは情報を主に「新聞」から得ていることが判明した。新聞は一般大衆の信念にもかかわらず,超常現象にかかわる話題を載せない傾向にあるということだろう。
 テレビ番組制作では,この一般大衆と一流科学者との信念の開きを利用すると効果的である。すなわち,超常現象を肯定する番組を制作すれば一般大衆の信念を刺激して注目され,一流科学者によって否定される番組を制作すればまたセンセーショナルなのである。まさに大衆が「求めるもの」ができるのである。

<2> 超心理学を前進させる作用

 メディアに取り上げられることで,超心理学の進展が見られることがある。第1に,研究に協力する能力者が得られる可能性がある。メディアに登場する能力者が直接協力する場合もあるが,新たな能力者が発掘されて研究に協力する場合もある。メディアでの能力者の「活躍」を見て自分の「能力」に気づくのだ。
 第2に,研究に必要な人的・金銭的援助が得られる可能性がある。メディア自体が制作の過程で,取り上げる超心理実験を直接援助する場合もあるが,メディアを見てボランティアの参加が促されたり,研究費の寄付の申し出があったりする。ただし,研究結果の発表をメディアに先にして欲しいという条件付のメディアからの援助は,受けるべきではない(1-8)。
 第3に,うまく運べばこれが超心理学にとってもっとも貴重なことであるが,超心理学の社会的認知が上がる可能性がある。これによって超心理学は将来の有能な研究者を獲得できるかもしれない。

<3> 超心理学を後退させる作用

 上述とは逆に,メディアに取り上げられることで,超心理学がひどく後退することがある。たとえば,一流科学者によって否定される番組がそれである。そうした趣旨の番組が流されれば,超心理学の社会的認知は下がり,研究資金が途絶え,研究者も去っていくといった作用があるだろう。
 ここでの重要な点は,超心理学の否定番組が,肯定番組よりも制作しやすいことである。PSI現象の決定的瞬間がビデオに撮られることは滅多にない(5-1)し,統計的繰返し実験はなかなか印象的映像にならない。一方で,一流科学者には否定者が多くいるので,「重み」のある否定コメントを集めるには事欠かない。また,「能力者」にトリックを使えるような状況をわざと設定しておき,「あなたは偽者だ」などと心理的に追い込んで行ってトリックを犯させ,その現場を撮影するのも,そう難しくはない。一旦,肯定するトーンの番組を流して視聴者の期待をかき立てておいて,「真実が明かされた」などと否定される番組を制作すれば「二度おいしい」のである。
 「肯定 vs 否定」式の討論番組も安易なものになりやすい。真の懐疑論争(1-4)は論理が入組んでいて,とても一般視聴者が限られた時間内で理解できるものではない。結局,権威を笠に着た議論や,感情的な議論に終始するのである。
 これにお金や名誉がからむとさらに事態が複雑になる。とくに「能力者」について問題が大きい。「真の」能力者は社会的な価値が高い(1-1)。メディアで能力があるなどと取り上げられれば,結構な職業になるのである(6-5)。超心理学者が「能力者」の真贋論争に巻き込まれる事態も,過去に発生している。

新聞報道地域の新聞に報道されたRRCの活動

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるパーマー氏の講演をもとにしている。


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