2-1 PSI実験研究法

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 ここでは,一般的な科学的実験方法論を概説した後に,PSI実験に特有な留意点について述べる。

<1> 実験方法論

 超心理学の実験は,一般的な実験心理学と同様の方法論をとっている。その方法論は,社会行動学,生物学,医学,農学など,いろいろな条件が複雑に影響する対象の挙動を調べる学問に,広く使われている(物理学や化学の実験では,影響する条件を少数のものに人工的に管理できるので,これより単純になる)。それでは,植物生長の例にとって実験デザイン法のステップを説明しよう。

(1) 研究課題の設定:たとえば,食料増産と環境問題の解決の一助とするために,微量元素の植物生長に与える影響について研究しよう,などと関連研究を調査したうえで決める。
(2) 仮説の定式化:たとえば,水耕栽培における水中の金属チタンの存在が,チューリップの球根の生長を促進(または抑制)する,などと推測する。
(3) 説明される変数とその測定法の明確化:たとえば,生長の指標は,時間当たりの茎丈の長さ,あるいは花の最大直径であり,長さはノギスで測る,などと決める。
(4) 説明に使う変数とその測定・管理法の明確化:たとえば,水中の金属チタンは,栽培用の水に一定量のチタン化合物を溶かすことによって管理する,などと決める。
(5) 実験対象の選定:たとえば,球根のなかには腐っていて生長しないのもあるかもしれないし,金属チタンに過敏に反応する特殊な変異種があるかもしれない。可能な限り多くの種類の実験対象物を,複数,無作為に集めてくるのがよい。
(6) 対照群の設定:以上の実験群(チタンを含む実験設定)に対して,通常,説明する変数が異なる対照群(チタンを含まない実験設定)を設ける。実験群と対照群とは,説明する変数以外の条件は同一にする(同じ実験室に入れて栽培するなど)か,または,管理できない条件(球根の個性など)については,多様なものを複数用いることによって影響を統計的に相殺する。
(7) 統計的分析法の選定:仮説を実証するための統計手法を事前に決めておく。仮説検定などは,分析法を事後的に決めたときには使えないので,注意を要する(2-8)。たとえば,2群比較(チタンが含まれているかいないか)で,結果が量的なデータ(茎丈の長さ)で得られ,両者の平均値の差異を調べる統計的分析法は,t検定(t値を求めてからp値を求める仮説検定)である。

<2> 研究課題の設定

 PSIの実験も,基本的には上述の実験方法論に従ってデザインすればよい。以下では,PSI実験の場合にとくに注意すべき点を中心に個々に補足する。実験のデザインや準備には,実際の実験の倍以上の時間や労力をかけるべきである。被験者がボランティアとして協力する場合には,とくに,欠陥のある実験を行なわないよう細心の注意が必要である。また,実験の結果判明することが,いかに社会的に意義あることかなどの倫理的視点(1-8)も忘れてはならない。
 研究課題の設定にあたっては,現在までに,どんな研究がどこまで進んでいるのかを調べ,どの部分で貢献するのかを自分の研究資源(研究費,労力,保有する知識)や興味などに照らして決める。関連研究の情報源としては,研究論文,学会の講演会などがある(1-3)。PSIは不安定であり,実験的に捉えるのは難しいとされる。その点でPSIは,確実な成果を求める人や,失敗を恐れる人には向かない研究対象と言えるだろう。

<3> 仮説と変数の明確化

 PSI実験の仮説は通常,「○○という条件のもとでは,PSIが発揮されやすい(されにくい)」という形で定式化される。統計的分析を適切に行なうには,実験の「前」に仮説が設定されねばならない。
 PSI実験における「説明される変数」は通常,PSIの量である。PSIの定義(1-1)に戻れば「通常の物理学では説明のつかないような人間が発揮する能力の量」となるのだが,こんな抽象的な定義のままでは,実験はできない。そこで具体的に測定できる量に定義し直してやる必要がある。そうした測定可能な定義例には,被験者が当てたターゲットの数,乱数発生器の出力の偏り(3-5),動植物の変化(2-4),生理学的指標の変化(3-4)などがある。
 PSI実験における「説明に使う変数」は,実験に関する何らかの条件である。こちらには,従来の心理学や物理学で使われている測定量がそのまま使用できる。
 被験者側の条件としては,態度(4-1),性格(4-2),意識状態(4-3)の差が挙げられる。それぞれ,質問票,性格テスト,生理学的指標(2-5)などで具体的に測定される。年齢(4-4)や性別による差も表面上現われることが多いが,それを分析すると,態度や性格,意識状態の差に還元できるようである。また,被験者が置かれた環境や状況設定も条件になる。テレパシー実験の場合は,送り手との相性なども問題にできる。
 ターゲット側の条件としては,大きさ,形状,材質,存在位置など,あらゆる物理的条件が挙げられるが,これらはどうもPSIを規定する条件にはなりにくいようである(4-6)。それに対し,ターゲットの持つ意味,いかに感情を喚起する印象的なものか(3-4)などの「心理学的条件」は,PSIの発揮に大きく影響するという。これはまた,被験者の性格など,被験者側の条件と関連づけて議論できる。変則的なものとしては,実験者にまつわる条件(4-9)がある。

<4> 実験対象の選定

 PSI実験の場合の実験対象には,PSIを発揮する被験者と,PSIの発揮対象になる「ターゲット」との2側面がある。どのような被験者を対象とするか(母集団の決定)には,3通りが挙げられる。「能力者」として定評のある人を使う,有能な被験者を選択して使う,一般多数をそのまま被験者として使う,である。なお,被験者(被験体)として,動物を使う場合(3-6)もある。
 PSIの存在を証明しようとするのであれば,能力者を使うのが一番有利であるようだが,実験上の問題も大きい(6-5)。一方で,一般大衆におけるPSIの発現頻度やその特性を見る場合は,一般多数をそのまま被験者に使う。その場合,実験のデザインに沿って偏りのない被験者選択(サンプリング)を行なう必要がある。安易に実験をやりたい人だけを集めて来ると,動機の高い人ばかりが集まり,心理的条件に偏りが生じてしまう。
 PSI検出に結びつきやすい手軽な方法は,有能な被験者を選び出すスクリーニングテストを事前に行ない,スコアの高い被験者だけを本実験に使うとよい。また,PSIを信じているか(4-1),瞑想のトレーニングをしたことがあるか(4-3)などの簡単な質問でもって,ある程度有能な被験者を探り当てることもできる。
 大学の講義などで,大勢の学生を被験者にしてPSI実験を行なうのには問題が伴う。第1に,一般大衆のPSIを検討する場合には,偏った被験者のサンプリングになる問題がある。第2に,教壇にある1つのターゲットを大勢で一緒に透視させるのは,統計的問題がある。1人の学生が「ターゲットは○だ」などと小声で言ったのが影響して多くの学生が○と答え,偶然ターゲットが○であった場合に,統計値が大きく出てしまう(積重ね効果)。こうした実験は,スクリーニングテストとしてのみ使うのがよい。講義の場でも,厳重に封をした人数分の箱に,1人1人違うターゲットを入れてそれぞれ透視させるのならば,積重ね効果の問題はない。
 ターゲットについては改めて,ESPのターゲットについては次項(2-2),PKのターゲットについては次々項(2-3)で述べる。

<5> 対照群と統計的分析法

 多くのPSI実験では,PSIが働いてない状態が比較対照となる。PSIが働いてない状態というのは,いわば偶然に期待される平均であるので,対照群を設定する必要がないことも多い。理論的に求まる期待値からの偏りの程度を統計的に分析すればよいのである。ただ,PSIが働いてない状態というのが理論とは食い違っている可能性もある。乱数が均等でなく偏っていて特定のターゲットが多く出る場合もあるだろうし,被験者の好みで特定のターゲットを多く答える人もいるだろう。両者がたまたま一致すると統計的な偏りは大きく算出される。そのため,PSIが働いてない状態を比較対照として行なうことが奨励される。ただ,無意識のPSI(4-8)まで考えると,PSIが働いてない状態の実現がかえって難しいのかもしれない。
 PSIの実在を認めた前提で,PSIの特性研究をする場合は,比較対照群が必要である。たとえば,性差によるPSIの発揮度合いの研究をするときは,女性被験者群の実験と男性被験者群の実験とが,互いに相手側が比較対照になる。
 統計的分析法については,改めて(2-8)述べる。

<6> 他の仮説の排除

 PSI実験で何か際立った結果が出た場合,それは果たしてPSIによって起きたと言えるのだろうか。それは実験中の各条件がいかに厳密に管理されているかに大きくかかっている。ESPカードの縁に印がついていた可能性や,サイコロをよく混ぜずに振ったという可能性が指摘されれば,PSIではなく,通常の物理プロセスで際立った結果が出たに過ぎない,という仮説のほうが妥当になってしまう。そうした他の仮説が十分に排除されてないデザインのPSI実験は,典型的な欠陥実験である。

PSI実験の構図
(PSI実験の構図,モリス氏による)

 それでは,他の仮説を排除するにはどのようなデザイン上の工夫が重要だろうか。上図にあるように,被験者とターゲットを十分に隔離することである。それも,ターゲットが決定される事前条件から,実験結果が記録・判定されるに至るまで,ターゲットを被験者から物理的・情報論的に隔離することである。まず始めに,空間的な分離が考えられる。テレパシーであれば,送り手は別の部屋(なるべくなら別の建物の部屋)に置かれ,部屋を抜け出さないように監視する実験者を置く必要がある。最近では無線技術も発達しているので,電磁シールドされた部屋(写真)に入れたほうがよい。透視やPKであれば,もう少し条件は緩和できる。通常の方法では内部が見えない箱や,力を及ばすことのできない箱にターゲットを入れれば,十分であろう。しかし,入れる前に被験者にターゲットそのものを渡して見せるようなことは,避けなければならない(細工されてしまうかもしれない)。コンピュータのメモリ内の内部表現をターゲットとするのは,かなり妥当な方法となる(2-7)。

シールドルーム
(写真:シールドルームでテレパシー実験の送り手を務める筆者)

 次に,時間的な分離が考えられる。被験者とターゲットを別な時間帯に配置するのである。代表的なのは予知であり,被験者側の記録が済んでからターゲット側が生成されるのであるから,その生成が記録に合うように操作されることを防げばよい(○の予知の後のターゲット生成において,○がターゲットになりやすくなるような人為的影響を排除する)。その逆は,過去遡及的PK(3-5)であり,ターゲット側の生成・記録が済んでから被験者側の働きかけが行なわれるので,その記録に合うように,被験者側の働きかけが決められることを防げばよい(○というターゲットが記録された後に,被験者のPKターゲットが○を出させることになるような人為的影響を排除する)。
 さらにESP実験におおいては,情報論的な分離も加えて重要である。ターゲットの選定について事前に知りうる何らかの手がかりはないだろうか(実験開始以前にターゲットを決めておいてはいけない)。ターゲットが何かについて実験者を介して知りうる手段はないだろうか(実験者もターゲットを知らない状態が望ましい)。記録された情報が判定前に改ざんされる余地がないだろうか(被験者側とターゲット側の記録が,それぞれ変更不可の状態になったのを確認してから判定する)。こうした諸点に留意すべきである。

<7> 実験手順の文書化

 実験の諸条件を厳格に管理する方法が決まったら,その実験手続きを文書にする。その文書には,ターゲットの決め方,記録の仕方など,時間を追って細かく書く必要ある。各実験参加者は,実験中どこでどんな仕事をするかが,その文書で明らかになっていなければならない。文書が完成したら,複数の実験者で問題が無いかどうか討議する。さらに奇術師の意見を聞くと,思いもよらない「ごまかし」の可能性を指摘してくれるかもしれない。
 実験中その文書に従って行動した実験参加者は,実験後にその文書に署名をしておくとよい。懐疑論者からクレームがついたときに,実験が厳格に管理されていた証拠となる。
 また,あらゆる実験データは詳細に記録を残し,後に別の研究者が利用できるように保管すべきである。メタ分析(2-9)などの貴重な研究材料になる。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるパーマー氏とモリス氏の講演をもとにしている。また,まえがきに掲げた「文献2」の彼らの書いた章(これらが講演資料にもなっていたが)も参考にした。
 関連活動実績:モリス氏追悼


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