2-2 ESPの実験

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 伝統的なESPの実験は,トランプやESPカード(写真)が使われた。しかし,カードでは実験の質を維持するのが難しいとされ,1965年以降は,コンピュータを使った実験(2-7)に次第に代わって行った。ここでは,この古典的なカード当てを概説し,どんな問題があったかを振返る。そして,ESP実験の留意点について述べる。

<1> カード当て

 もっとも基本的な方法は,切り混ぜた1組のカードを裏向きにし,実験者が上から1枚ずつ取上げ,そのカードの図柄を被験者が当てるものであった。実験者がカードを見ながら行なえば,テレパシーの実験,見ないで行なえば透視の実験である。1枚ずつ照合していては残りのカードの見当がついてしまうので,1組すべてのコール(被験者が図柄を推測すること)が済んだ後で全枚数を照合した。テレパシーの実験では,送り手の表情が手がかりになって図柄が分かってしまう可能性がある。透視の実験では,その可能性はないが,1組のカードを再三使っていると,カードの汚れや反り具合で,どのカードか分かってしまう可能性はかなり高い。被験者とターゲットの部屋を分けて,時刻を同期させて実験を行なうと,そうした問題は解決される。

ESPカード
(写真:ラインが開発したESPカード)

 より簡便な透視実験は,実験者がカードを切り混ぜたあとにカードケースに入れ,被験者はカードケースに入ったまま,カードの図柄を上から順番に当てるものであった。それでも問題となるのは,1組の中に含まれる図柄の数があらかじめ知られていることである(クローズドデック)。何らかの原因で1組の一番下のカードの図柄が知られてしまうと,それによって残りのカードの図柄の可能性も狭まってしまう。統計分析の上でも扱いにくい。カードが十分な枚数用意されている場合は,図柄の数も含めて無作為にセットする(オープンデック)。その場合,後述の乱数を使ってカードの図柄を決めるとよい。
 カードを使う上での普遍的問題は,誤記録である。ターゲットカードの図柄とそれに対する被験者のコールの両方を正確に記録せねばならない。肯定的結果を出したいという動機の高い実験者は,両者がマッチするような誤記録を起こしやすいことが知られている。両者をそれぞれ(別な用紙に)記録してから,照合判定を複数回行なえばかなり防げる。
 予知の実験はさらに工夫が必要である。予知は「将来のターゲット」を感知することであるが,カードが積んである実験の将来のターゲットとは,その次の位置に置かれているカードの図柄に過ぎない。これでは,透視になってしまう。そこで予知を実現するには,被験者のコールが済んだ後で,コールの内容を知らない実験者が,たくさんのカードの山から1枚引き抜いてターゲットとするなどの手立てが必要である。
 このような問題に対処しながらカード当ての実験を工夫していくと,本来のカードであることの利便性がだんだん失われてしまう。コンピュータを使ったほうが,はるかに楽でかつ厳密な実験がデザインできるのである。

<2> ターゲットの種類

 カードを使った実験では,数種類の図柄を準備し,被験者にその中から選択してコールさせる(強制選択方式)。ラインが使ったESPカードは5種類の記号であったが,それにこだわる必要はとくにない。種類が多いほうが,偶然ヒットを減らせるので,PSIを捕えやすい。しかし,あまりに多いと被験者が選択肢を覚えるのに苦労する。通常は2種類から10種類の範囲が妥当とされる。図柄のタイプについてはいろいろと工夫できる。ラインは被験者の個人差が少ないようにと,抽象的な記号を採用したが,動物の絵などの感情を喚起する絵柄のほうが,PSIが発揮されやすいと報告されている。また,色と形との多重属性(赤い丸とか青い四角とかの組合せ)にすると,色のヒットと形のヒットを同時に実験でき効率がよい。
 コンピュータ制御の場合は,古くは電球の色や点灯位置がターゲットであったが,その後コンピュータの機能が上がり,カードで使われる絵柄ターゲットのほとんどすべてが,コンピュータ画面に表示できるようになった。今では,画像や映像,音声など,かなり多様なターゲットが使用できる。自由応答方式のESP実験であると,そのような印象的なターゲットがよく使われる(3-2)。
 変則的なターゲットとしては,ESPカードの記号が列挙された紙が入った封筒を透視するとか,試験の解答が書かれた紙が入った封筒が試験問題に添付され,それが試験解答に与える影響を見る(4-9)とかがある。

<3> ターゲットの無作為化

 カードを使った実験では,古くはシャッフルでカード順を無作為にしていた。しかし,奇術ではフォールス・シャッフル(切り混ぜたように見せて実は切っていない)の技術や,特定のカードを一番上などの特定位置にシャッフルでコントロールする技術も知られている。そのため,シャッフルによる無作為化は,本当は無作為になってはいないと,懐疑論者からの批判が大きい。そのうえ1938年には,サイキック・シャッフルという奇妙な現象が報告されている。それは,被験者がカードの表を見なくとも(念をこめて?)シャッフルすると,あらかじめ指定されたカードの順番に有意に揃えられるというのだ。これではシャッフルする実験者の念を測っているようであり,シャッフルは使えない。
 そこで,シャッフルに代わって使われるようになったのは,乱数である。当初は,大型コンピュータによって(統計的に十分調べられたうえで)生成された「乱数表」が使われた。電卓やパソコンが一般化してからは,それらに組み込まれている「乱数生成ソフトウェア」が使われるようになった。乱数生成ソフトウェアは基点となる適当な数(種数)をもとに,数式の演算で乱数を次々に発生するので,種数が同一ならば同じ乱数系列が得られる(電源を入れると必ず同じ乱数を生成する機器もあるので注意が必要である)。種数と数式を知っていれば原理的に乱数系列が予想できる(3-5)ので,「擬似乱数」とも呼ばれる。それはまた,完全な乱数ではなく,長い目でみると周期的な偏りがある。最近の大量に乱数を必要とする厳密な実験では,物理的な乱数発生器(2-3)による「物理乱数」が使われるようになっている。

<4> 実験の長さなど

 あまりたくさんのターゲットを連続的に実験すると,被験者も疲れてPSIが発揮されなくなるという。また,時間的にターゲットが混同される時間転移現象も知られている(4-6)。しかし一方で,統計的に有意な値を出そうとすると,ある程度多くの試行数は必要である。強制選択方式の場合は,1セッション(1被験者1日1回)当たり50から100試行が適当とされる。この試行数は事前に決めておかねばならない。調子がいいときに実験を中止して,よいスコアを残したのではないかと疑われるからである。
 選択肢を用いずに,思いつくままに答えてもらう方式(自由応答方式)の場合は,ターゲットの描写に時間がかかるなどの理由で,1セッションに1試行しかしない(できない)ことが多い。少数の試行で確実に当てて行こうという姿勢であろう。自由応答方式の具体例については,改めて(3-1)述べる。
 パーマーは,強制選択方式であっても,被験者に「パスする権利」を与えておくとよいと主張する。どうもイメージが湧かないなどというときは,被験者が自ら「わからない」と宣言して,当てずっぽうにターゲットを答えることを防ぐのである。ただ,意識しないところでPSIが働いているという場合も考えられる(8-4)ので,難しい判断が必要である。
 実験の開始時には,被験者が実験状況に慣れる時間を取る必要がある。そのとき,被験者の気分が楽になる工夫があるとよい。被験者が変性意識状態(4-3)になるほうがよいという考え方もあるが,現実的なターゲットの場合は,通常の覚醒状態のほうがよいともされる(3-3)。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるパーマー氏の講演をもとにしている。また,まえがきに掲げた「文献2」の彼の書いた章(これが講演資料にもなっていたが)も参考にした。


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