2-3 PKの実験

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 伝統的なPKの実験には,1960年頃までサイコロが使われた。それ以降は,さまざまな物体が使われ,やがて乱数発生器を使った実験が支配的となる。また,ミクロPK,マクロPKという区分についても論じる。

<1> サイコロ投げ

 サイコロによるPK実験の多くは,ラインの研究室で行なわれた。ラインは,思う目が出せるというギャンブラーの主張に基づき,1934年からサイコロPK実験を始めた。しかし彼は,PKはESPよりも社会的に認められにくいだろうと,最初の10年間は研究発表を控えていた。
 当初は,サイコロを手で振る(あるいはカップに入れて振る)方法でPK実験が行なわれていた。しかしそれでは,ある程度特定の目が出せてしまうという問題が指摘される。そこでラインは,透明の長い筒の中にサイコロを入れ,それをモーターで回転させる自動サイコロ振り器(写真1)を作成した。その筒の内部にはいくつかの突起がつけられ,サイコロがよく回転するように工夫されている。筒を半回転ずつすると,次々とサイコロ振りの試行が繰返される。こうした機器を使った場合,念じた目(サイコロに偏りがあるといけないので,1から6の目を均等にターゲットとする)に偶然平均以上の回数出れば,PKが働いた可能性がある。

サイコロ振り器
(写真1:ラインが使った自動サイコロ振り器)

 またラインは,ボタンを押すと一度に数十のサイコロが斜面を転がる機器(写真2)も作成した。この斜面を転がる機器を使えば,サイコロの出目(でめ)だけでなくて,落下位置をPKの対象にすることもできる。たとえば,斜面をサイコロが転がり落ちると,中央に仕切りがあり,右に落ちるか左に落ちるかによってPKの影響を見るのである。コックスは1951年,サイコロの落下面に252個の小区画を作り,おのおのに1から6の数字を付加した(各数字の区画はそれぞれ42個ずつある)。転がったサイコロの目にターゲットの数字が出るか,サイコロがターゲットの数字の区画に落ちると成功となる(多重属性の)実験を行なったのである。

PK実験(写真2:PK実験の風景,RRC提供)

 サイコロ実験の大きな問題も,正確な記録の実現にある。2人の実験者で記録し,後で照合するという方法も取られた。それでも実験者による記録は,しばしば懐疑論者の批判を受ける。マコンネルらは1955年,出目の写真までも取る完全自動サイコロ投げシステムを作成し,厳密な実験を行なった。1983年の報告によると,393人の被験者が行なった17万回の試行で顕著で安定した「下降効果」(スコアがセッションの進行に従って低下する現象)を得た。

<2> いろいろなPK実験

 斜面を転がしたり落下させたりして止まった位置を調べる実験は,サイコロだけでなく,さまざまな物体が使える。フォルワルドは,大きさ・重さ・形・材質の異なる物体で,多数の比較実験を行なった。PKが何らかの「力」として物体に作用するのであれば,それなりの差異が出るはずである。1969年の報告では,ある種のパターンが見られたものの,電気や磁気や放射線などとの関連性は検出できなかったことから,PKは重力と関連して働くのではないか,と仮説した。
 コックスは1974年に,数百の金属小球が,赤と緑の区画を目がけて転がる機器を作成して,実験した。念じたほうの色の区画に,よりたくさんの小球が落ちたらヒットとする「多数決テスト」で成果をあげた。より最近では1984年に,プリンストン大学で,小さなプラスティック球がピンの配列の間を落下する「パチンコ」のような機器が作られ,乱数発生器の実験と比較された。
 PK実験とESP実験を合わせて行なうこともできる。フィスクらは1958年,指定の出目を封筒に隠しておき,それと合致するようにサイコロにPKを働かせることを,被験者に要求した。

<3> 乱数発生器

 かねてより,ESPターゲットの順番を決めるのに純粋な乱数が必要とされていた(2-2)。量子的過程には全く予想できない現象(これは,人間の知恵が足りないからではなく,「原理的に」予測できないのである。5-6を参照されたい)があり,その利用が模索されていた。すでにベロフらは1961年に,放射線を検出するガイガーカウンターを使ったPK実験を行なっていた。こんな中で,物理学者のヘルムート・シュミットは1969年,ストロンチウム90の放射線(β崩壊によるβ粒子の放出)を使った乱数発生器を作成した。この乱数発生器では,β粒子をガイガーカウンターが検出すると,規則正しく高速に変化している4進カウンターの値がその時点で記録されるようになっている。β崩壊のタイミングは予想できないので,純粋な乱数が発生できる。乱数は,ターゲットの順番を決めるのにも使えるが,特定の乱数が出るように念をかけるとPK実験になるのである。
 放射線を使った乱数発生器は取扱いが難しいので,後にシュミットは,β粒子の検出に代えて,ツェナーダイオードの電子雑音の検出に基づく乱数発生器を作成した。また,4進カウンター(4値出力)に代えて2進カウンター(2値出力)にした。このタイプの乱数発生器(RNG)が現在一般的である。2値出力の乱数発生器を,とくにランダム・イベント・ジェネレーター(REG)と呼ぶ場合がある。なお,乱数発生器は「故障」することがあるので,定期的に出力乱数系列のランダム性をチェックする必要がある。
 これらの乱数発生器を使用した,シュミットらの実験の詳細は,改めて(3-5)述べる。

<4> ミクロPK・マクロPK

 乱数発生器のような,微視的な過程に働く小さいPKを「ミクロPK」と呼ぶ。それに対して,物体移動や金属曲げのような,巨視的な物体に働く大きいPKを「マクロPK」と呼ぶ。だが,この名称には問題がある。サイコロ投げや金属球落下がどちらに含まれるか判然としない。サイコロという大きい物体にPKが働くと考えれば「マクロPK」であるが,回転中のサイコロに微小なPKが加わったと考えれば「ミクロPK」である。サイコロ投げなどはもはや行なわれていないので「どちらでもよい」と言えばそれまでだが,使う用語の定義は明確にしておきたいものである。
 いろいろ議論もあろうが,ここでは,物理現象のゆらぎにわずかに働き,統計的に分析して初めてPKが働いた可能性が云々できるPKを「ミクロPK」,主に目に見える静止物体に働き,確実に記録すれば1回でPKの有力な証拠が残せるPKを「マクロPK」と定義しておく。すなわち,サイコロ投げは,何度も行なって統計分析しなければならないので,ミクロPKとなる。この定義に従えば一般に,実験室で一般人を相手に行なうPK実験は,皆ミクロPKである。次項(2-4)に示す生体PSIも(PKであるとすると)ミクロPKである。一方,マクロPKには,物体移動や金属曲げの他に,念写(および念録音),空中浮遊などが含まれるが,再現性のあるPSI実験の対象とはなりにくい。過去の報告では,ほとんどの場合に特別な能力者が必要とされるので,これらの話題は改めて述べる(6-5)。
 また,マクロPKは存在せず,ミクロPKはESPなどの他のプロセスで説明できると考える超心理学者もいる(5-4)。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるブラウトン氏とモリス氏の講演をもとにしている。また,まえがきに掲げた「文献2」も参考にした。


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