3-1 ドリームテレパシー実験

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 夢見の状態は変性意識状態(4-3)であり,夢の内容に偶発的なPSI(7-1)がよく報告されてきた。こうした夢をPSI実験に利用したのがドリームテレパシー実験である。この実験の詳細については,次の文献によって日本語で読める。

 ウルマンほか著『ドリームテレパシー』井村宏次ほか訳(工作舎)

<1> 実験を実施した研究者たち

 ドリームテレパシー実験を開始したのは,ニューヨーク市にあるマイモニデス医療センターの精神科医モンターギュ・ウルマンであった。1960年に彼は,超心理学財団を設立した霊能力者アイリーン・ギャレットの助けを借りて,夢実験を始めた。ギャレット自身が被験者になり,かなりの成功を収めた。その後,研究資金が得られて,1964年からマイモニデス病院の地下に実験室を構え,スタンリー・クリップナーを招いて組織的な実験を開始した。クリップナーは10年間研究部長を務め,その間,ドリームテレパシー実験を精力的に推進したのである(『超意識の旅』工作舎)。

クリップナー
(マイモニデスで実験機器を操作するクリップナー氏,RRC提供)

<2> 実験の方法と結果

 被験者は遮音室で,脳波計(EEG)や眼電位計(EOG)などの測定器を装着した状態で眠りにつく。別室ではESPターゲットの送り手が待機し,被験者が夢見状態になった時点(これは眼球の急速な運動や脳波の周波数特性で分かる)でターゲットの内容をイメージしたり,パフォーマンスしたりする。そのターゲットは,通常は美術アートの絵葉書であり,多数のストックの中から乱数で選び出される。どのターゲットが選ばれたかは,実験終了まで送り手しか知らない状態を維持する。被験者の夢見状態が10分続いたことが測定器で確認されたならば,被験者を覚醒させ,今見ていた夢の内容を報告させテープに録音する。この手順が一晩のうちに4-5回繰返されるが,そのたびごとに送り手は同じターゲットのイメージを送り続ける。
 翌朝になると被験者は,使われたターゲットを含む8枚の絵葉書と,自分の声の録音テープとをつき合わせ,どの絵葉書の内容が夢の内容と近いか順位づけをする。さらに,絵葉書と録音テープは3人の判定者にも送られ,被験者と同様の順位づけをそれらの判定者も行なう。被験者と判定者の順位づけは,後ほど統計処理される。
 一連の実験は,15件の研究にまとめられ発表されたが,そのうちの7件に有意な結果が得られた。なかでも,能力者のマルコム・ベセントが被験者をつとめた実験では,ターゲットを翌朝に決定するという,送り手なしの予知実験なのにもかかわらず,有意な結果が連続して得られた。また,ドリームテレパシー実験では,統計に現われないところにも興味深い結果が得られている。夢の内容から,送り手の心理的な「進入」を防衛しようとする気持ち(4-2)が,精神分析的に見出され,PSIがうまく働かない原因と推定された。また,実験者の私生活上の問題が,誰も意図することなく被験者の夢に登場することもあった(4-8)。

<3> 実験に対する批判

 懐疑論者のハンセルは,ターゲットを知っている送り手が実験者に会ったとか,部屋を抜け出したとかと,実験の不備を指摘したが,だからといって被験者に情報が伝わるわけではない。またべセントの予知実験には送り手がいないので,その批判は当たらない。アルコックは,PSIの働かない比較対照群がないのが問題だとしたが,データが適切に統計処理されれば帰無仮説は理論的な平均となる(2-8)ので,比較対照群がなくとも問題ない。また,ズーネとジョーンズは,ベセントの実験設定を二次文献から判断して,いわれのない批判をした。

<4> ドリームテレパシー実験の意義

 ドリームテレパシー実験は1試行を行なうのに一晩かかるうえ,睡眠実験用の設備を必要とするため,時間的・金銭的にコスト高の実験である。そのため,他の実験者による本格的な追実験は行なわれてない。しかし,ベロフは『超心理学史』(1-2)で,ドリームテレパシー実験の意義として次の3つを挙げている。
 (1) 世界的な関心の的であった睡眠の精神生理学的研究が,超心理学に導入されたこと,
 (2) マイモニデスの実験室は,デューク大学のライン実験室以来初めての,独自の本格的な超心理学研究拠点となったこと,
 (3) ライン流パラダイムを脱して,リモートビューイング(3-3)やガンツフェルト(3-2)に使われる自由応答式のESP実験を確立させたことである。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるヴァン=ド=カースル氏とパーマー氏の講演をもとにしている。ヴァン=ド=カースル氏は,心理学者であるが,ドリームテレパシー実験の有能な被験者としても活躍した。毎回60-70ページにも及ぶ克明な夢内容レポートを残すほどの記憶力を誇り,「キング・オブ・ドリーマー」と呼ばれていた。


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