4-3 意識状態との相関研究

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 本項では,被験者の意識状態と,PSIの発揮との関連性を検討する。

<1> 内的「ノイズ」はPSIを抑制するか

 ホノートンはガンツフェルト実験で,よいESPスコアを得るには,被験者を実験に「馴らす」時間が必要であることをデータで示した。ESP実験を始める前の被験者を(感覚遮断状態で)安静にしておく時間を,10分,20分,30分と変化させると,その時間が長いほど,後のESP実験のスコアがよいのである。ホノートンは,ESPの発揮を邪魔するような,心のうちの「ノイズ」が消えて行くのに,20分程度の時間を要するのでは,と理由づけた。
 薬剤を使ったESP実験も行なわれている。意識の覚醒を高める薬(アンフェタミン)を服用するとESPスコアが下がり,沈静化させる薬(トランキライザー)を服用するとESPスコアが上がるという実験結果が,一部に得られている。覚醒が必要以上に高まると,内的「ノイズ」が現われるのだろうか。アイゼンクは,内向性傾向の被験者のESPスコアが低いのは,自律神経活動が活発であって,その「ノイズ」に注目してしまうからではないかと推測している。

<2> 変性意識状態

 PSIを抑制する意識状態に対して,PSIを促進する意識状態とはどのようなものなのか。「変性意識状態(ASC)」がそれに当たるのでないかとして,鋭意研究されている。たが,ASCの定義は難しく,「通常の認知プロセスではない」状態などとなってしまう。シャーマン文化が浸透している社会などでは,ことによると,ASCが「通常の」意識状態である可能性も考えられよう(6-1)。タートは,より強いASCの概念を問題にし,それを「分離性ASC」と名づけて,次のように定義している。精神機能が全体的パターンわたって質的に変性し,通常の精神機能とは劇的に異なって経験される意識状態である,と。
 ASCの厳密な定義は別として,自分の内観からASCがどのようなものかを感じ取るのは,それほど難しくないのかもしれない。ASCは,夢見,弛緩法,催眠,瞑想,バイオフィードバック,感覚遮断,幻覚剤によって,しばしば引き起こされる意識状態であるとされる。一方,実験者からみて,被験者がASC状態にあるかどうかを調べるのは難しい。次のような方法が組み合わされて,ASC状態であることが評価される。被験者の内観による「変性」度合の査定,思考に関する内観報告の減少,語句連想の論理性の低下,α波脳波の増加,筋肉電位の低下(2-5)などである。

バイオフィードバック
(写真:バイオフィードバックを試す筆者)

<3> さまざまなESP実験

 ブロードらは1974年,弛緩法(「筋肉が弛緩しているのを感じます」などと自己暗示をかける手法)を行なわせてASCに誘導した被験者群と,「反」弛緩法(弛緩法とは逆に「筋肉が緊張しているのを感じます」などと自己暗示をかけさせるもの)を行なわせた被験者群とに,自由応答ESP実験をさせた。その結果のスコアは,前者が後者よりも有意に高かった。さらに翌年には,視覚感覚遮断(ガンツフェルト)によってASCに誘導した被験者群と,開眼状態の被験者群とに,同様のESP実験をさせたところ,前者が後者よりも有意に高いESPスコアを残した。
 催眠によって引き起こされるASCでPSIが高まる可能性の指摘は,メスメリズムの時代までさかのぼる。1930年代以降,ソ連のワシリエフらが,催眠状態とPSIの関係を研究し報告を残している(『テレパシーの世界』,白揚社)。1970年代にクリップナーは,60人の被験者を被暗示性テストで,被暗示性の高・中・低の3群に分け,それぞれの半分の被験者に催眠をかけて透視を誘導し,残りの半分には透視ができることを想像するように促した。その結果,催眠をかけた被暗示性の高い被験者のみに有意な透視の成果があがった。1994年のスタンフォードらのメタ分析では,12の実験者の25の研究にわたって,催眠状態でZ=8.77,覚醒状態でZ=0.34と,大きな差異が出ている。ただし,実験者による違いが大きく,催眠状態というよりも,そのときに与えられる暗示の効果が鍵となる可能性も指摘される。
 瞑想については奇妙な結果が出ている。1979年,パーマーらが超越瞑想の熟練者30名についてガンツフェルト実験を行なったところ,自由応答の結果を,被験者が自らターゲットと対応づけたときにはPSIミッシングになり,同じデータを,外部判定者が対応づけるとPSIヒッティングになった。また,ラマクリシュナ・ラオは,インドの瞑想者が瞑想する前後でESPテストを行なったところ,瞑想前がPSIミッシングで,瞑想後がPSIヒッティングとなった。

<4> 自発的発話

 スタンフォードは,ガンツフェルト実験の聴覚刺激に「心地よい雑音(ピンクノイズ)」を与えた場合と,何も与えない場合で,想起イメージの報告の発話を分析し,同時にESPスコアとの相関を調べた。その結果,雑音を与えたほうが,発話が(論理的でなく)自発的に発散しやすい傾向をとることを明らかにした。また,その自発的発話がなされているときにESPスコアが高まるという,相関関係をも見出した。雑音とESPスコアには相関関係が見られないため,自発的発話状態がPSIの促進に貢献し,またその状態を誘導する手がかりに,外部の雑音が利用される,という仮説が成立する。
 パーマーは,自らの大きさ・方向モデルに当てはめて,ASCはPSIの「大きさ」を決める要因ではないかと予想している。また,スタンフォードの分析にあるように,ASCを自発的な想像性を高める状態と言い換えると,「自発的想像傾向」(4-2)にASCを含めてよいだろうとも考えている。しかし,相互に矛盾するような多くの実験結果をまとめて,このような簡潔なモデルに当てはめるのには,かなりの危険性が伴うことだろう。

<5> PSI誘導的状態

 マインド・サイエンス財団のウィリアム・ブロードは1975年の論文で,PSIが誘導されやすい被験者の状態として次の7つの要素を挙げた。PSI実験を成功に導くノウハウとなっている。

(1) 身体的にリラックスしていること
(2) 身体の活動性が低下していること
(3) 通常感覚の情報処理機能が低下していること
(4) 内的プロセスや内的イメージに注目していること
(5) 脳の分析的機能が低下し,感受的機能が高揚していること
(6) 世界の実在に関する異なった自然観を容認していること
(7) PSIの結果が被験者のニーズに合致すること

 マインド・サイエンス財団のホームページ:http://www.mindscience.org/

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるパーマー氏の講演をもとにしている。また,まえがきに掲げたアイゼンクらの「文献1」で話題を補っている。


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