4-6 知覚心理の研究

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 ESP(超感覚的知覚)は「知覚」なのだろうか。脳がある種のフィルターとして働くという点では,ESPは「知覚」のようである。たとえば,視覚情報処理であると,網膜から入った多くの情報が脳で整理され,注意を払ったものを中心にして限定された情報が「意識」される。ESPにおいても,こうしたフィルターにかかる前の情報,かかった後の情報という対応関係が見られる。しかしESPの場合,網膜に当たる「感覚受容器官」は明確ではないし,刺激の大きさが増大するにつれて応答が高まるという,他の感覚器官に見られる物理的関係が見られない。以下ではこうした諸研究を概説する。

<1> 感覚刺激による違い

 プラットらは1939年,ESPターゲットの大きさを変えてみたがスコアの差異はなかった。代わりに下降効果などの「動機づけ」による差異(4-1)が見られた。ショーヴァンは1961年,子供たちを相手にESP実験を行ない,大きな見やすいターゲットを用いるとヒッティング傾向,拡大しないと見えないターゲットを用いるとミッシング傾向(ターゲットが何であるか分かったうえでわざと間違えるような傾向)を得た。
 ウッドラフは1960年,赤と黒の色違いのターゲットを用いてESPスコアの差異を見つけようとし,さらにカーは1983年,色違いのターゲットを色覚障害者を被験者にして行なったが,ともに色による違いは見られなかった。
 ミッチェルらは1982年,運動的なターゲットと言語的なターゲットを用いて,運動が得意な被験者(ダンサー)と,言語が得意な被験者(作家)に対してそれぞれESP実験を行なったが,違いは得られなかった。しかし,「興味」との関係は見られた。ナッシュは1985年に,bedとcotのように意味が類似している単語群,bedとbadのようにスペルが似ている単語群をターゲットにしたESP実験を行なったが,どちらも顕著な差は得られなかった。
 どうもターゲットの色や大きさ,種類などによるESPへの影響はあまりないようである。リモートビューイングなどのSRIでの一連のESP実験成果(3-3)を勘案すると,ターゲットと被験者との空間的障壁がESPを妨げることも考えにくい。すなわち,ESPは物理的な感覚刺激というかたちで脳に到達するのではない,と思われる(5-5)。
 一方で,ESPに対する心理的影響や障壁は大きいものがある。例えば,被験者の「好み」とターゲットが一致するときにはESPスコアが高い,という安定した傾向が得られている。フィスクらの1955年のESP実験では,ESPカードの○の記号のみを高頻度に当てる被験者が現れたが,その彼は○を♀記号のように感じていたという。

<2> 図と地

 視覚や聴覚では,単調な刺激を背景の地にして,その中にある他とは異なる刺激を図として際立たせる機能がある。図が地から浮き上がるのを「対比」,図が地に溶け込むのを「同化」という。ESPでも,まとまったターゲット群を一挙に感知して,そこから注目のターゲットを抜出すというようなプロセスがあるようだ。つまり,時空間的に近接したターゲットとの対比や同化という作用が見られる。

図と地
 (図と地: pの地に対して,vの三角形は対比的な図を形成し,qの三角形は同化的な図を形成している)

 カーリングトンは1945年,絵に描けるような意味をもつ単語を毎日辞書から選んで,連続10日間当てる実験を行なったところ,その日の単語だけでなく隣接日の単語が当たる(時間的転移)ことがあると報告した。また,辞書から選ぶのでなく,あらかじめ単語群を設定しておき,そこから無作為に選ぶようにすると,単語群の選ばれなかった単語が当たる(空間的転移)ことがあるとも報告した。以来,同化作用はたくさん報告されている。
 チャイルドらは1973年,25枚のESPカードの各シンボルの枚数構成をそれぞれ,1枚,3枚,5枚,7枚,9枚に管理しておき,それを被験者には知らせずに通常のESP実験を行なった。すると,当たりハズレに関係なく,1枚,3枚のターゲットを,7枚,9枚のターゲットよりも有意に多くコールした。シュマイドラーは1985年,あらかじめ心理テストで早とちりしやすい被験者を選び出し,速い決定を促すESPテストを行なったところ,有意に他の回のターゲットをコールすることを示した。
 ちょっと変わったところでは,能力者の実験報告がある。プラットらは1973年,能力者とされるステパネクを被験者として,封筒に入れられた用紙の表裏(緑か白か)を当てる実験を繰返していたところ,特定の封筒に対して特定のコールをするようになっていることに気づいた。そこで,封筒をさらにカバーで挟んで大封筒に入れて実験を続けたところ,特定の封筒に対する特定のコールが続いた後に,こんどは特定のカバーに対して特定のコールをするようになった。あたかも絵に注目していたら,額縁に注目が移動したようである。
 チャールズ・タートは1978年,前後のターゲットと異なるターゲットは当たりやすいこと,スコアが良いときは前後のターゲットに対してコールがミッシングされていることを見出し,ESPに時間的な側抑制(網膜の機能として有名なコントラストを高める方法)が働いていると主張した。ラディンらは1985年に,タートの結果を裏づけた。これは対比作用に相当すると見られる。なお,タートの研究は次の本で日本語で読める。

 チャールズ・タート著『サイ・パワー』井村宏次ほか訳(工作舎)

<3> ESPの発達

 新規ターゲットに対するESPは,次の3段階で向上するようである。第1段階では,漠然とした全体的印象が感知され,第2段階では,詳細部分の順次的明確化がなされ,第3段階で,おもに意味的な統合化(チャンキングなど)がなされる。第1段階では,ターゲットが同化しており,図と地の混同が起きる。偶発的PSI現象として報告されるものはほとんどこの段階にとどまっていると見られる。
 ターグらは,リモート・ビューイング(3-2)の成功事例では,断片的で意味のない印象が当たっている,と報告しているが,他の自由応答ESP実験でも似たような傾向である。能力者の場合もこの傾向が顕著である。こうした知覚は第2段階にあると思われる。
 第3段階は,複雑なターゲットの意味するところを言い当てる段階であるが,この段階まで至るESP実験は能力者が被験者になっていても極めてまれである。数日かけてだんだんとターゲットの詳しい内容を述べたレオナード夫人の例や,同一セットのターゲットを使い続けるとスコアが上がるというリツルの報告など,統合化へのアプローチの一端が見えるのみである。わずかに,ばらばらに切った写真をターゲットに与えてもとの全体を当てた例や,Xについての方程式をターゲットに与えて,その方程式を満たす「Xの解」を当てた例があるが,それは統合化ではなく,ターゲット作成時点の過去や,評価時点の将来を感知した結果かもしれない。

<4> サブリミナル効果

 被験者に,刺激を感じる長さの半分の時間だけ提示した場合,自覚的には気づかないのもかかわらず,脳で処理され長期記憶へと送られる。このような刺激に対する無意識的な情報処理を「サブリミナル効果」という。PSIとサブリミナル効果はたいへん似通ったところがある。
 まず先に「似てない」ところを述べる。時間的に後に提示されたマスキング刺激によって知覚が抑制される「サブリミナル・マスキング」という効果や,そのマスキング刺激が次のマスキング刺激によって抑制防止される効果が,サブリミナル効果のうちに知られているが,それに相当する効果はPSIにはない。また,サブリミナルパターンを繰返し呈示していると,だんだんと見えるようになるが,PSIにはそうした加算効果はない。
 「似ている」ところは第1に,サブリミナル効果も呈示図形に関する被験者の興味や関心に大きく左右される点である。第2に,1962年にイーグルが性格検査で分析したサブリミナルに敏感な性格というのが,開放的で直観や想像力に富むとか,他者に反応的だが攻撃的であるとかなど,PSIを発揮しやすい性格(4-2)などと極めて類似している。第3にサブリミナルに呈示された感情的な図形を当てる(自覚的には当てずっぽうに当てたつもりでもサブリミナルに見ているのでよく当たる)実験で,短めに呈示するとヒッティングであるのが,長めに呈示するとミッシングになるなど,PSIの特性と酷似している(3-4)。ケリーらは1975年,ESPのターゲットを,サブリミナルにも提示して,被験者のエラー傾向が似通っていることを報告した。同様な知覚情報処理が,PSIとサブリミナル効果の双方になされているらしい。これはまた,PSIが無意識のプロセスで働く可能性(4-8)をも示唆している。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるモリス氏の講演と,その配布資料であるシュマイドラー著『超心理学と心理学』(1988,邦訳はない)の第10章「知覚」をもとにしている。


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