5-1 隠蔽効果の理論

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 PSIは厳密な実験を行なうと姿を消してしまう。PSIには「とらえにくさ」という性質が伴っているように見える。これは懐疑論者から見れば,トリックが行なえない状況になって「姿を消した」に過ぎず,まさに「インチキの証し」である。だが,もしPSIが存在するならば,PSIが自らを隠蔽するような性質を結果的に示しているのは,ほとんど確実である。PSIの理論は,この「隠蔽効果」を説明する内容を含むことが必要であろう。
 笠原は,この点に注目して,次の分厚い(なんと800ページ以上もある)文献を編集している。

 笠原敏雄編著訳『超常現象のとらえにくさ』(春秋社)

<1> バチェルダーの理論

 ケネス・バチェルダーは,長らく「会席者グループ」の研究を続けていた。会席者グループとは,複数の参加者を部屋に集め,交霊会に似た状況設定でマクロPK現象が起きるよう促すものである。その過程で,マクロPK現象が参加者に混乱を与え,さまざまな心理的防衛反応を引出すこと,またそれによって,さらなるPK現象が起きにくくなることを見出した。
 1970年頃,彼は,そのPSIに対する防衛反応に,「保有抵抗」と「目撃抑制」とがあると指摘した。前者は,自分がPSI能力を持つこと,あるいは持っていることが知られることへの心理的抵抗であり,後者は,PSI現象を目撃したという経験を否定しようとする傾向,あるいは目撃をしないようにする傾向である。どちらも,未知のものや制御できないものへの恐怖に起因すると言う。この理論によれば,PSIはこうした恐怖を最小化することで現われ易くなる。たとえば,PSIを発揮したり,目撃したりしても重大なことではないという,気楽な雰囲気を部屋の中に形成すると良い。

<2> タートの意識調査

 チャールズ・タートは1982年,周囲の人間の考えていることや感じていることが分かるというESPを保有した状況,あるいは,周囲にあるものを手を使わずとも自由に動かせるというPKを保有した状況を想像させると,被験者が多くの恐怖と,保有抵抗とを報告することを確認した。超心理学者でさえも,こうした潜在的恐怖に気づかずにいると言う。
 PSIの無制限な発揮は,自他の幻想を打ち砕き,自分と他者という社会制度上の基礎を失わせる。そうしたものに対する恐怖は,死に対する恐怖に近いものがあるだろう。その結果,PSIは存在しないものとして,あるいは特殊な場面にしか起きない形に抑制されてしまう。PSIに携わる者は,そうした恐怖を克服せねばならない。バチェルダーの言うような一時的な回避だけでは十分でない。まず恐怖があることを是認し,その否定的側面を受容れ,人格的成長を遂げる中で,恐怖に対処可能となることが理想である,とタートは語る。

<3> PSIの逃避性

 1978年にジョン・ランドールは,PKの被験者にカメラを向けたり,電子機器で測定したりしていると現象が出にくいことを指摘し,「PSIの逃避性」と表現した。また機器が停止しているときに限って,PK現象が現われる傾向もある。
 ランドールは,人間の恐怖によってPSIが抑圧されたとするよりも,PSI自体が能動的に逃げるのだと比喩的に語る。名の知れたPK能力者について逃避性現象が起きるとすると,そう考えた方が合点がいくのだ。名の知れたPK能力者は,PK能力を保持していると公言したうえで,それを発揮するように努力しているので「保有抵抗」はかなり小さいと考えられる。実験者による「目撃抑制」も,実験機器が停止しているときには目撃しているので,実験機器が動作しているときに限って抑制が働くと考えるのは,少々無理がある。
 PSIの抑圧の原因が,被験者の個人的恐怖でも,実験者の個人的恐怖でもないとすると,コミュニティ全体の集合的恐怖に起因するのだろうか。実験機器に証拠を残すということは,そうした集合的恐怖に抵触するのだろうか。

<4> ブロードの戦略

 ブロードは1985年,「PSIの事実性の証明や解明や再現性が一貫して,またおそらくは積極的に不明瞭化されている」のではないかと指摘している。そのうえで,実験を成功に導く13の戦略を提唱している。

(1) PSIが発揮された責任を被験者が1人で負わないような工夫をする。
(2) 被験者がPSIを発揮したという鮮明な印象は与えないよう工夫する。
(3) 被験者にフィードバックが与えられる場合,ヒットを適度に奨励する。
(4) 無意識のうちにPSIが捕捉される実験を推進する。
(5) 被験者が嫌悪感を催すような要素を実験から排除する。
(6) 被験者を騙す要素のある実験はなるべく行なわない。
(7) PSI現象に慣れた落ち着きのある被験者を使う。
(8) PSI実験は単純なものの方が良い。(筆者はこの項目には少々疑問を感じる)
(9) PSI実験のターゲットを,個々の被験者にとって実用的な課題とする。
(10) 実験に関わって生じる機能異常や誤りに,特定のパターンがないか注目する。
(11) PSIの自己不明瞭化側面を直接探る研究計画を立てる。例えば,確実な証拠が残る場合と不明瞭な証拠しか残らない場合で,PSIスコアを比較する。
(12) 偶発事例に注目する。それらは,一般に証拠としての価値が低いので,明瞭なPSIが得られる可能性がある。
(13) PSIを阻止する要素に注目する。物理的な遮蔽には効果がないのが判明しているが,心理的・超常的なPSIの抑制法を検討すべきである。

<5> 隠蔽現象の社会学

 PSIの抑圧が社会的要因で起きるとすると,PSIの現われ方と,社会の文化的側面(いかにPSIを許容しているか)との間には,深い関連が見られると予想できる。ジェームス・マクレノンは1991年,こうした観点からの社会学的研究に,大きな成果が期待できると主張している。非再現性や実験者効果に思い悩むよりも,実験室からフィールドへ出ようという勧めである(6-1)。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおける研究プロジェクトの議論,およびモリス氏の講演をもとにしている。詳細部分は,上述の『超常現象のとらえにくさ』で補ったところもある。


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