5-4 DAT理論

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 ここでは,ESPをもとにPSIを一元的に捉える理論である,DATについて概説する。

<1> 決定がPSIを支配する

 長らくリモートビューイング実験に取組んでいだエドウィン・メイ(3-3)は,1995年に「決定増大理論(DAT)」を提唱した(ただし,当初は「直観的データ分類」とも呼んでいた)。DATによれば,我々が意思決定をするときには,ESPによって将来の結果を(無意識のうちに)ある程度感知して,自分の希望に合うような選択を(ときには無意識に)行なっている,となる。
 DATは,乱数発生器に現われるミクロPKの解釈から生まれた。乱数発生器の出力をPKで操作できるというのは,その出力が出ることを予知して,うまいタイミングでボタンを押しているのに違いない,と言うのだ。より複雑な過去遡及的PK実験(3-5)などの場合は,実験者がターゲットを作成するときにすでに,未来に渡って予知が働いて,実験が興味深い結果になるようにターゲットが選ばれている,となる。DATを受け入れると,PSIとは人間の意思決定時に働く情報論的な性質を持つ能力であり,自然界にはそれ以外,PKなどのPSIは存在しないという描像が成立する。

<2> DATが提示する問題

 DATは,超心理学はもとより,通常科学の実験に実験者効果が潜在することを,明確に指摘する。例えば,ヒーリング(2-4)や新薬の効果を実験的に示そうと,複数の患者を実験群と対照群に分ける時に,予知による選択が起きる可能性がある。近々快方に向かう患者を実験群へ,なかなか自然治癒しない患者を対照群へと,知らず知らずに入れてしまうのだ。そうすれば,治療には効果がないにもかかわらず,効果があるような実験結果が得られる。
 グループ分けに伴う無作為化の方法を工夫してもダメである。その方法の選択自体から予知が働く可能性を排除しきれないからだ。グループ分けをする人も実験について知らないという,「トリプルブラインド」とも言えるような実験設定をすると,かなり改善できよう。

<3> DATの検証

 乱数発生器の実験を工夫すると,PKかDATかをある程度,実験的に区別できる。乱数発生器で生成される乱数列の長さを次々と変動させて,被験者にPSIを働かせるのである。例えば,0/1の二値出力の乱数発生器で,1が出るように念じるとしよう。もしPKが働いているとすると,乱数は短くても長くても,1文字ごとに1が出るように働くと考えられるから,長い乱数列になればなるほど,1回当たりのPSIの検出可能性が単調に増加するはずである。一方,DATに従うと,念じても乱数列は変化しないとされる。ただ被験者が,1が多く続いて発生するタイミングを予知で見はからってボタンを押している,と想定されるのだ。すると,乱数列が長くなると,それだけ多くの1が集中して現われるタイミングでボタンを押さなくてはならなくなる。だが,0/1は確率的に均等なので,限定された時間内にそれほど1が集中することはない。よって,1回当たりのPSIの検出可能性は乱数の長さによらず一定となるのである。
 メイは,この比較実験を行なったところ,データはかなりバラついたが,PKよりもDATを支持する結果が得られたと主張している。WEBを利用したポ−ル・スティーヴンスの実験(2-7)では,逆にPKを支持するデータが得られている。引続き検証実験が期待されている。

<4> マクロPKはあるか

 DATは,PSIをESPに一元化する点で,興味深い理論である。これまでの物理理論をそのままにして,情報論的理論を加えることでPSIが説明できる可能性が生まれるからだ。だが,その代わりに,かなり説明の難しい高度な予知能力を認めなければならない。この予知能力の説明は,PKの説明に比べて果たして易しいのかという疑問がある。また,リチャード・ブラウトンは「DATは,従来から指摘されている問題を表現し直しただけで,真の理論とは言いにくい」と批評している。
 さらにDATがはらむ問題は,ミクロPKは説明できるが,マクロPKが説明できない点である。マクロPKが存在すると,結局PKを説明せねばならず,DATの興味が失われてしまう。確かに超心理学者であっても,マクロPKに疑問を呈している者は多い。だが,理論の延命のためにPSI現象の一部の存在を疑うのであれば,不健全な態度だろう。(メイ自身,「マクロPKは,無いものと考える」と,SSPで歯切れの悪い発言をしていた。)

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるメイ氏とブラウトン氏の講演をもとにしている。


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