6-4 質問紙調査法

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

  質問紙調査法は,一度に100人以上の多数の対象者について研究できる簡便な方法であり,PSIに関する意識調査やPSI体験の実態を広く調査するには最適である。質問紙調査法は,紙代と印刷代が賄われれば(ときには郵送費もだが)誰でも実施できそうであり,また結果を集計すれば「何らかの結果」が得られるので,安易に取組まれがちである。しかし,質問紙調査法も,管理実験と同様に周到な事前準備が必要なのである。なお,以下の質問紙調査法には,質問項目を準備して電話で聞き取り調査する場合,ホームページに質問を列挙してオンラインで回答を回収する場合なども含む。

<1> 調査の目的

 質問紙調査法を行なう前には,管理実験の場合(2-1)と同様,調査目的をはっきりさせることが最も重要である。目的がはっきりしていれば,データの分析も滞りなく行なえる。そうでなければ,回答用紙の山を前にして当惑状態となる。過去の同様な調査に比べて考えるのは,目的を明確にする近道である。過去の調査で明らかになった点を違う母集団で確かめる(英語の質問紙を日本語に翻訳して日本で調査すれば,すぐに文化比較になる!)とか,新たな観点を別な角度から調査するとかであれば,すぐに調査に取りかかれるだろう。
 目的がはっきりしたならば,もう一度戻って,その目的達成には質問紙調査法よりも他の方法のほうが適当ではないか,と反省してみる。文献調査やインタビュー調査(6-1),あるいは厳密な管理実験でその目的が達成できる可能性はないかと考えるべきである。
 例えば,近親者の死に際して「虫の知らせ」があった事例を調べたい,とする。虫の知らせが現に起きることを示すこと自体が目的であれば,虫の知らせがあった事例に加えて反証事例をも問わねばならない(6-6)。つまり,近親者が死亡したのに虫の知らせがない場合や,虫の知らせがあるのに何も起きなかった場合が調査されねばならない。ところが,対象者の記憶に頼る質問紙調査では,そうした反証事例を調査するのはかなり難しいだろう。
 必然的に調査目的は縮小し,虫の知らせという心理状態に至りやすい(あるいは,そのような記憶を持ちやすい)人や状況の調査となるが,調査の本質をしっかり認識できていれば,それはそれで意味あることだろう。一方,事例報告者にインタビュー調査を加えて,反証事例を発掘すれば,ある程度当初の目的をカバーできるかも知れない。だが,虫の知らせがあったと主張する人を訪ねて行って,「虫の知らせがあるのに何も起きなかった場合はどの程度ありますか」と単刀直入に尋ねるのでは,真実は語られないだろう。その際には,インタビューの技術が必要である。

<2> 標本の選定

 どんな人を対象に質問紙調査をするか(標本の仕方)が次に重要となる。一般大衆のPSIに対する意識調査などは,一見簡単そうではあるが,厳密に行なうのは極めて難しい。大学の講義で行なっても,大学生の意見に過ぎないし,不特定多数に郵送しても,返送してくるのは大概もともとPSIに興味ある人である。街行く人にお願いしても,その時間働いている人や家にいる人は含まれない。電話調査にしても,電話に出て調査の時間を割いてくれる人は特定の背景を持った人に違いない。
 世論調査の場合は,結果に反映しそうな要素(年齢,性別,仕事,収入,家族構成,居住地域,宗教など)に基づいて,あらかじめ母集団を各カテゴリーに分類しておき,そのカテゴリーの構成人員比率に従って,各カテゴリーから標本を選定する。特定のカテゴリーに標本が偏らないよう,常に注意するということである。ところが,結果に反映しそうな要素は,必ずしも事前に明らかではない。「眼鏡をかけているかどうか」は関係なさそうに思ったが,眼が悪い人が幽霊を誤認しやすいことが後から判明し,一転して重要な要素として浮かび上がってくることがある。
 理想的な標本による調査は,本当に手間がかかるものであるため,現実的にはどこかで妥協せざるを得ない。その際には,当の調査にどのような偏りが潜在している可能性があるかを認識し,調査報告に記載しておくことが必要である。偏りを小さくする簡便な方法の1つは,調査目的とは無関係と思われる集団を対象にすることである。PSIの意識調査に,宗教儀式に集まった人々を対象にしてはならないが,小学校の運動会に集まった人々を対象にするのは比較的妥当だろう。

<3> 質問項目のデザイン

 まず,人間には答えたくない質問があることを認識しなければならない。人によって多少異なるが,年齢や収入,家族構成などは,答えたくない項目である。そうした項目は,仮に正しい情報が得られたとしても,回答者による質問紙全体への不審感を招くことがある。また,宗教的信念などに至っては,ほとんど正しい情報が得られないと思ったほうがよい。そこで重要となるのは,調査の大よその目的および調査結果の使途を明示し,必要な事柄のみを質問することである。
 次に,質問が具体的かつ明瞭であるかを確かめる。「あなたはよく金縛りに合いますか」という質問は不適当である。金縛りとは何かは一般に了解されている事柄ではない。また「よく」とはどの程度かは,人によっていろいろに解釈される。「あなたはこれまで,眠りから目覚めて寝室の天井や壁などが見えるのにもかかわらず,意思どおりに手や足が動かせなかったという経験がありますか」→「はい・いいえ」,「はいと答えた人に聞きます。それは過去1年間に何回くらい起きましたか」→「数回,十数回,数十回,それ以上」などとすれば,かなり具体的かつ明瞭な質問項目になる。
 調査の目的によっては,「あなたに超常現象と思われる体験があったら記してください」などという自由記述もよいが,量的な分析が極めて難しくなる。通常は選択肢の質問項目に添えて,いくつかの自由記述を設けるのが一般的である。選択肢項目で目的のほとんどを達成できるようにしておき,自由記述から得られる情報はそれを補強したり,次回の調査への指針を得たりすることに活用すべきである。
 質問紙の体裁や言葉遣いにも注意が必要である。形式ばったものは最初から敬遠されてしまうかも知れないし,対象者によっては用語が難しくて理解できないかも知れない。

<4> 統計的分析

 統計的分析には,大雑把に次の3段階がある。第1は,単純な比率を求めて,表やグラフに示す段階であり,調査目的によってはこの段階で十分こと足りる。第2は,仮説検定でp値を求めて有意性を主張したり,相関係数を求めて関連性を主張したりする段階であり,着目した論点を統計的に補強する意義がある(2-8)。第3に,統計解析専用ソフトでクラスター分析(7-4)や因子分析(7-2),共分散構造解析などの多変量解析を行なう段階であり,調査対象の背景に単純な構造が隠れている場合にはうまく機能する。しかし,安易にこの段階の分析を行なっても,解釈し難い分析結果を呈するだけであるので,背景の構造を十分に見通してから取組むべきである。
 誤解されがちであるが,調査から関連性や因果関係が「見つかる」のではない。事前に関連性や因果関係の仮説があり,それを確認する目的で調査がなされるのである。関連性や因果関係は,研究上の営みとして研究者が推測するものであり,調査から得られる分析結果は,その推測を支える1つの材料に過ぎない。だから,調査結果の分析の途上で,新たな関連性や因果関係を発見することがあったならば,原則それは次の調査によって裏づけられねばならない。

<5> 段階的に行なう

 質問紙調査は,いきなり大勢を対象に行なうのは愚かなことである。質問項目のデザインの原則を知っていても思わぬミスがあるかも知れない。まずは5人程度に回答してもらい,個別にインタビューして質問紙の問題を洗い出すのである。見つかった問題に応じて表現の訂正などを行なう。
 次に50人程度に回答してもらい,データの集計をする。統計的分析法の確認にもなるし,この段階で思わぬ関連要素を見つけることもよくある。この段階であれば,新たな要素を調査すべく質問項目を増やす措置が取れる。また,選択肢を吟味し,不要な選択肢を削除したり,新たな選択肢を増やしたりすることができる。
 数百人規模の調査をする前には,もう一度冷静にじっくり考えよう。後から「これも質問しておくべきだった」と後悔することがないように。だが,質問項目が増えると,面倒がられて回答率が低下することにもなりかねない。悩ましい問題である。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるダグ・リチャーズ氏の講演と,その配布資料であるブラックモアの解説(1985)がもとになっている。


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