7-5 ゴーストバスター

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 ゴーストバスターとは幽霊撲滅師のことで,映画の題名として日本でも有名だが,アメリカでは真面目な職業なのである。ここでは,ゴーストバスターの実施方法を紹介することで,PSI事例研究の理解の助けとしたい。

<1> ゴーストバスターの目的

 職業としてのゴーストバスターは,「幽霊」に悩んでいる人からの依頼に基づいて,その現象(7-4)を調査し,原因を究明・除去し,依頼者の悩みを解消させることを目的としている。原因の大部分は既知の物理現象であり,月や街灯などの光やその影,大気現象,地質学的影響,地磁気の影響,小動物や水道管などに由来する音である。まれに人間が作為的に起こしていることもある。依頼者を立ちのかせたいと思う人が起こしている場合や,依頼者の家族が(ときには依頼者自身が)注目されたいなどの理由で自作自演をしている場合もある。物理的原因もなく純粋に依頼者(やその家族)が幻覚を見ている場合(6-2)もあるが,そうした心理的原因を深く探るセラピーは,臨床家の仕事となる。ゴーストバスターの仕事内容は探偵業と似ており,ゴーストバスターの多くは探偵のライセンスを持っているそうだ。
 ゴーストバスターは,依頼がなくとも,有名な幽霊屋敷などに自主的に出向くこともある。その場合は,研究が第一目的となるが,メディアに取り上げられて,依頼が増えることも狙っているようである。

偽の心霊写真心霊写真???

<2> チーム編成

 冷静で心理的に安定した人のみをチームのメンバーに加える。ゴーストバスター自身が現場で取り乱すようなことがあってはならない。また,興味半分の者も不適当である。現場で,何の現象も起きない状態に退屈して,他の人を怖がらせて楽しむようになってしまう。場合によっては,特異能力者や宗教指導者をチームに加えてもよい。ただし,チームワークが乱れることのないよう注意する。
 チームメンバーが決まったら,ゴーストバスターの仕事を理解するため,オリエンテーションを行なう。メンバーの不注意で変わった現象が記録されることは,最初に避けるべき事柄である。次の点について徹底する必要がある。現場でタバコを吸わない(タバコの火や煙が写真に写るのを防ぐ)。現場で雑談をしたり奇声をあげたりしない(録音されるのを防ぐ)。長い紐の類は使用せず,長い髪はあらかじめ結んでおく(端が写真に写るのを防ぐ)。カメラは十分慎重に操作し,レンズをまめに拭き,撮影時には指がレンズにかぶらないよう注意する。

<3> 事前準備

 ゴーストバスターは,原因究明のための数々の機器を装備する必要がある。小型テープレコーダー,写真機,ビデオカメラなどの記録機器,温度,地磁気,赤外線,イオンなどの測定機器である。実地調査に伴って必要な物品は,懐中電灯,大工道具,雨具,ゴム手袋,ゴーグル,マスク,救急用品などである。原因を探るため屋根裏に上がることも多いので,その準備は欠かせない(ダストアレルギーの人には抑制剤が要る!)。十字架や聖水といった宗教的小道具も持って行く。依頼者に見せると心理的効果をあげることもある。持って行くべき物は,チェックリストを作成して,当日の忘れ物がないようにしておく。
 依頼があったならば,収集可能な情報を,なるべく事前に集めて準備する。依頼者がどのようなことで悩んでいるかの概略を,手紙,電話,電子メールで聞いておく。現場の地図,建物の間取り,歴史的経緯,家族構成,人間関係などについても情報が入手できているとよい。過去に同様な調査がなされている場合は,その調査報告を読んでおく。
 次に,現場での段取りを決め,メンバー各自の役割を決める会議を設ける。分担作業の内容については,当日の混乱を避けるため,また後日の報告書作成のために,文書化しておく。

<4> インタビュー

 当日,現場についたならば,まず現象体験者へのインタビューを行なう。その際には,次の項目についてもれなく聞く。
 現象の体験内容:どんな現象であったか(視覚,聴覚,触覚,臭覚に分類)。いつ発生し,どのくらい続いたか。どこで起きたか。現象の前後に何が起きたか。どのくらいの距離で誰が目撃したか。他に誰かいたか。
 体験者の解釈:どんな感じを受けたか(恐れ,悲しみ,驚き,幸福感など)。どのような存在と思ったか(神の降臨,悪霊の仕業など)。今後現象を取り除きたいと思っているか。
 体験者の背景:今悩んでいることはないか。最近ストレスはないか(離婚,病気,事件,財政的面など)。薬を飲んでないか。宗教的信念や,心霊主義・オカルト的儀式に対する考え方。

<5> 実地調査

 普通,現象が起きる(とされる)のは夜であるので,明るいうちに余裕を持って現場に到着し,インタビューと調査場所の点検,機材準備を行なう。調査場所の点検には,地理的な位置関係や間取りの把握,地質の調査,窓・壁・家具の点検(とくにガラスや鏡などの反射する物,目覚まし時計などの自動的に動く物に注意),電話・電気・テレビなどのケーブルの把握,水道・ガス・空調ダクトなどの配管の把握が含まれる。
 調査時刻になったならば,あらかじめ決められた段取りに従って,各メンバーは分担の仕事(ビデオ撮影,測定器の操作・記録など)を行なう。何かを目撃した場合は,写真を撮影を試みて,同時に体験印象を記録に取る。暗がりである場合は字が書けないので,テープレコーダーに録音すると良い。現象の記録とは,現象自体の記録(10%)よりは,現象が起きた状況の記録(90%)のほうが重要であるので,周囲や前後の出来事についてもよく観察して記録に留める。「幽霊である」などと思うと観察眼が曇るので,そうした判断はしないで観察を行なう。
 事前に決めた段取りが終了したならば,追加に行なうべき調査項目がないかどうか,再度検討する。ネズミが音を立てているなどと有力原因の1つが見つかったならば,それを確認すべく屋根裏の調査などを行なう。

<6> 報告書の作成

 調査が終了したら,すみやかに報告書の作成に取りかかる。各メンバーは,まず個人の分担作業の報告をまとめる。その後,チーム全体で討議し,原因の査定などの具体的な作業に入り,チームとしての報告をまとめる。最初に討議をしてしまうと,チームの意見によって個人の報告が歪められる可能性があるので,注意を要する。
 文書がまとまったならば,依頼者に報告する。合わせて,調査後の状況,今後の希望を聴取する。撮影した写真や測定記録などは,その時間・場所の状況記録を添えて保管する。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるシンシア・スターリング氏の講演がもとになっている。彼女は前年のSSPの学生であったが,ピッツバーグでゴーストバスターを職業としている。デモンストレーションを含めて月に30件ほどの調査依頼が来ているそうで,なかなかの繁盛ぶりある。
 SSPの課外演習として,彼女の指導のもとに実際に幽霊撲滅に行った。場所はダーラム市北部の廃校で,そこに開業している美容院のオーナーから調査依頼があったのである。しかし,調査の範囲では,変わった現象は何ら得られなかった。それでも依頼者は,「出なかった」ことにより,安心した模様である。ちゃんとゴーストバスターの役目を果たしていたのだ。
 RRCは,2002年の秋から冬にかけて,幽霊研究イベントを連続開催した。全米から10組の幽霊研究チーム(必ずしもゴーストバスターではないが)を次々に招聘して,講演会とデモンストレーションを催したのである。アメリカの社会的興味の高さがうかがえる。


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