October 29, 2005 作成 Last update: October 1, 2009

技術戦略論(Theory of Technology-Strategy)
 講 義 用 暫 定 メ モ
1.歴史的コンテクストの中での技術に関わる経営判断
(1) 歴史的環境との関係での考察
  1. ユーザー層の構成という視点からの考察 ---> 主たるターゲットに応じた製品のあり方の歴史的変化を考察することの重要性
    1. イノベーター(Innovators=革新者、市場全体の2.5%)
    2. アーリー・アダプター(Early Adopters=初期採用者、あるいは、オピニオンリーダー、市場全体の13.5%)
    3. アーリー・マジョリティ(Early Majority=初期多数採用者、市場全体の34.0%)
    4. レイトマジョリティ(Late Majority=後期多数採用者、あるいは、followers フォロワーズ 追随者、市場全体の34.0%)
    5. ラガード(Laggards=採用遅滞者、あるいは、伝統主義者、市場全体の16.0%)

  2. 製品に関する市場規模の歴史的変化という視点からの考察 --->市場の歴史的段階および規模に応じた対応・位置取り(positioning)の重要性

  3. 技術や製品の歴史的段階という視点からの考察--->技術や製品の歴史的段階に応じた対応やイノベーションの重要性
    1. 多様なデザイン/アーキテクチャの製品の生成期(製品デザインの流動期、製品イノベーションが最も活発な時期)
    2. 支配的デザイン/アーキテクチャの形成=確立期(流動期から固定期への移行が行われる時期としての移行期、工程イノベーションが最も活発な時期)
    3. 支配的デザイン/アーキテクチャの固定期(固定的製品デザイン/アーキテクチャのもとでの漸進的イノベーションが進行する時期、製品イノベーションおよび工程イノベーションが徐々に少なくなっていく時期


(2) 関連する理論的視点

2.CASE STUDY 1>パソコン市場への参入に遅れたIBMが1980年代初頭にパソコン開発に関して下した技術的決断

3.ケーススタディ分析のための「技術戦略論」的視点

(1)一番手戦略 vs 二番手戦略 --- イノベーションの性格による戦略優位性の変化 ---


(2)IBMにおける、IBM PC以前の「パソコン」開発の「失敗」に関わる諸要因 ---- 有能なマネジメントによる組織的有能性が組織的無能力でもあるというジレンマ

(3)メインフレーム産業とパソコン産業における産業構成(産業アーキテクチャ)の差異


(4)IBUが課題遂行のために取った事業戦略 --- パソコンという製品の特性に適した事業構成(事業アーキテクチャ)の選択
(5)外部の経営資源の活用(アウトソーシング)におけるコア・コンピタンス確保の重要性
A.関連基礎知識



B.パソコン市場における優位性確保に関するIBM PC開発時のIBMの意図
C.パソコン市場への参入に当たって、なぜIBMはOSやCPUを自社で新規に開発しようとはしなかったのか?
IBMのパソコン事業参入時の戦略をどのような視点からどのように理解するのがよいのかをここで考えてみよう。
  1. パソコンの新規開発に関わる時間の短縮・・・パソコンの製造・販売開始までの時間的制約のため、自社でOSやCPUを新規開発する時間的余裕はなかった


  2. パソコンの新規OSや新規CPUの開発コストの節約・・・自社で新規にOSやCPUを開発するには時間だけでなくかなりの開発コストがかかる


  3. パソコンの新規CPUの製造のために必要な設備投資の節約・・・他社開発のCPUを利用することで自社がCPU製造のために新規に巨額の設備投資をする必要がない


  4. 先行するソフトウェア資産およびソフトウェア開発者の対応能力の重視・・・>先行のハードウェア製品との互換性確保



D.パソコンという製品に関する技術的分析 --- 技術戦略論の方法論的基礎 ----

b.パソコン市場形成期において商業的に成功した最初の商品Altair8800というパソコン製品に関する技術的分析


E.IBM PC製品開発時技術的決断に関わる歴史的技術環境についての理解
--- 1970年代後半のパソコンとマイクロプロセッサー ---

アメリカ市場におけるApple,Commodore,Tandyの先行、日本メーカの動き(NEC,SHARP,富士通など)
パソコン市場への参入に遅れたIBMは16ビットCPUを採用したPCで市場に参入・・・8ビットCPUのPC市場に対して、次世代のCPU(16ビットCPU)で市場に参入

a.CPU技術の先行的発達>CPUを利用した製品開発はCPU開発の「後追い」的展開となる --- CPUのradical innovationに対応して、OSのradical innovationが遂行される。OSのradical innovationがCPUのradical innovationに先行するわけではない。
b.システム製品としてのパソコン ---- ハードウェアの普及に必要不可欠なソフトウェア


IBM PCにおける互換性維持重視戦略 先行者の優位性とネットワーク外部性(ネットワーク効果)
電話ネットワークを例としたネットワーク外部性に関する説明
かけることのできる相手の数が多ければ多いほど便利である。電話ネットワークの利便性の指標として、電話ネットワークの利用可能機会の総数を取ると、ネットワーク外部性の古典的理解が可能になる。
たとえば、ある電話ネットワークの構成員がn人の場合には、その電話ネットワークに属するある特定の人がかけることのできる相手の数は、n−1である。電話ネットワークを利用して電話をかけることのできる相手の数を、電話ネットワークの利用可能機会の数と定義すると、構成員数がn人である電話ネットワークにおける利用可能機会の総数NTは、NT=n(n-1)となる。[ここでは、AさんがBさんに電話をかける場合(A→B)と、BさんがAさんに電話をかける場合(B→A)とを区別して、利用可能機会の総数を数えている。]
仮に構成数nが十分に大きい数であるとすると n−1≒n とおけるので、NT=n(n-1)≒n2 となる。
したがって構成員数が十分に大きい電話ネットワーク全体に関する利用可能機会の総数は構成員数の二乗に比例することになる。すなわち構成数が10倍になると、利用可能機会は10の二乗=100倍にもなる。

IBM PC開発時の技術的決断に関する「ネットワーク外部性」視点からの説明
IBMが1981年のIBM PC開発に際して、PCの中核的部品であるマイクロプロセッサーに関して最も「低」性能なCPUを選択するというIBM PC開発チーム の技術的決断は、ネットワーク外部性(ネットワーク効果)に対する配慮という視点から説明することもできる。
Further Study>「パソコン・システムを構成する技術的要素の一つ」としてのマイクロプロセッサーに関するネットワーク外部性(ネットワーク効果)とはどういうことなのかをわかりやすく説明して見よう。