A.授業の基本的目標
1)MOT(Management of Technology,技術経営)入門
MOTに対する社会的関心の高まりの背景 ---- 企業の競争力を規定する重要な要因の一つとしての技術力、技術管理力(技術マネジメント力)
技術プロセスのマネジメントが重要であることは企業競争力の重要な構成要素が技術競争力である製造業においては従来から認識されてきた。しかし絶えざる技術革新が激しく進む現代では、製造業に限らず様々な分野の企業において、「技術革新への素早い対応」「変化する技術システムに対する合理的管理能力の差異が企業競争力を左右するようになってきている。
ユビキタス社会といった用語に示されているように、特にIT分野におけるすさまじい技術革新とその社会的利用の急速な進展は、情報通信技術分野における技術発展の将来的発展を見越した合理的対応や、情報処理システムや情報通信システムに対する合理的管理能力の育成が重要になってきている。
こうした状況の中で、「経営感覚を持った技術者」および「技術感覚を持った経営者」の育成が社会的に強く求められるようになってきている。
2種類のMOT ---- 「技術者に関わるマネジメント」としてのMOT vs 「 技術に関わるマネジメント」としてのMOT
技術プロセスをマネジメントするには、「技術プロセスそのものを直接的にマネジメントしようとするやり方」と、「技術プロセスに関わっている技術者をマネジメントすることで技術プロセスを間接的にマネジメントしようとするやり方」の2種類がある。
2)Innovation(技術革新)の歴史的構造の解明 --- needsとseedsの相互連関
技術開発の方向性の決定や、利用(採用)する技術の選択にあたっては、「技術発展とはなにか?」、「技術発展はどのような形で生じるのか?」、「技術革新はどのような形で進行するものなのか?」といったことの把握が重要である。
B.授業の基本的視点と基本的構成
1)「学び問うこと」としての学問
a.「何が常識的見解なのか?」を踏まえた上で、その常識的見解の根拠が何かを考察すること
b.「常識的見解は本当に正しいのか?」を様々な視点から批判的に検討すること
c.理論に基づく考察とデータに基づく考察という二つの視点から相互的かつ総合的に検討すること
一つの問題に対する<理論的視点からの検討>と、<様々な事実との一致・不一致を調べるというデータ的視点からの検討>
理論とデータの相互的検討・・・<理論が正しいかどうかに関するデータに基づく検討>と<データにどのような意味があるのかやデータは本当に正しいのかということに関する理論的検討>
データ的視点には<現在的視点からの検証>(現在的事実に基づく検証)と<歴史的視点からの検証>(歴史的事実に基づく検証)の二つがある
力学的運動とのアナロジー的発想で現実を分析すること(現在位置x、速度v=dx/dt、加速度a=d2x/dt2という三つのレベルで過去・現在・未来を捉えること)が重要
すなわち、
a>「現在どうなっているのか?現在はどのような歴史的段階にあるのか?」といった現在の位置に関わる分析
b>「現在はどのようなスピードでどのような方向に向かっているのか?現在は次にどのような歴史的段階にどのようなスピードで向かっているのか?」などといった現在の将来的発展方向とその方向に向かう進展スピードに関わる分析
c>「将来的発展方向(あるいは将来的進展方向)を規定している要因にはどのようなものがあるのか?将来的発展方向に向かうスピードを規定している要因にはどのようなものがあるのか?将来的発展方向を変化させる可能性のある要因にはどのようなものがあるのか?」などといった将来的発展方向およびその進展スピードを規定している要因に関わる分析
といった多重的視点からの分析が必要である。
2)講義で前提しているモノの見方・考え方
「なぜ、授業で歴史的事実というデータをこまかく教えるのか?」「なぜ、授業でコンピュータの構造に関する事実というデータをこまかく教えるのか?」という疑問を持つ人もいるかと思いますが、学問的考察は下記のように「データから出発して、データに帰る」ということを何度も繰り返すことが基本です。
すなわち、「データに基づいて理論的仮説を立てる」ことからはじめて、次に「その理論的仮説がどの程度まで正しいのか、あるいはまったく誤っているのかをデータに基づいて判断する(」ということを無限に繰り返すことで正しい科学的理論を形成することができます。(「データから理論」へと向かう抽象化[帰納]と、「理論からデータ」へと向かう具象化[演繹]という二つのプロセスの無限循環が学問的営みです。)
後期の「技術戦略論」の授業では、「企業がどのような技術戦略をとっているのか?」ということに関してデータに基づいて解明する(データから技術戦略という構造を仮説的に導き出す)とともに、「どのような戦略がどのような状況の下で有効なのか、あるいは無効なのか」ということに関する理論的仮説をデータに基づいて検証する、ということを行う予定です。
a.<データ>から<構造>へ ・・・
データ←→一次的連関←→構造
(1)諸データの形成(歴史+現状に関する生データ)
↓
(2)諸データ間の1次的連関の生成(生データの分類など、生データ間の類似度や親近度などによる区分)
↓
(3)1次的連関の中の存在的諸構造の発見(1次的構造=データとしての構造)
上記で注意すべきポイント
実際には上記のような単線的流れではなく、下記のように循環的構造が存在する。
(1)と(2)の間の循環的作業[(1)→(2)→(1)→(2)→(1)・・・]によるデータおよび1次的連関の相互的生成
(2)と(3)の間の循環的作業[(2)→(3)→(2)→(3)→(2)・・・]による1次的連関および構造の相互的生成
b.<構造>から<理論>へ
(1)存在的諸構造の間の連関や構造(2次的連関、2次的構造)=データとしての連関・構造
↓
(2)連関や構造から理論の「発見法」的導出
c.<理論>による<データ>や<構造>の説明・予測
3>技術という視点から企業経営を考える授業としての「経営技術論」
多様な技術的選択肢、および、市場の将来的変化や技術の将来的発展による潜在的な技術的選択肢を対象として、現在および将来の「市場」環境・「技術」環境などとの連関、および、「時間」的制約・「コスト」的制約・「リソース」制約(投入可能な経営資源や利用可能な技術開発能力)の諸要因を考慮に入れながら、どのような戦略的な技術選択を行うべきなのか、どのようなやり方でどのような方向に向けた技術開発を戦略的に行うべきなのかを過去の事例研究に基づきながら論じる。
4>「技術」という用語の持つ多様性、および、「技術」を論じるための視点の多様性
「発明の母」であるニーズ(必要)と「発明の父」であるシーズ(技術的な種・先行する技術開発)
ニーズにも、社会的ニーズ(ある製品やサービスに対するマーケット・ニーズ)と技術的ニーズ(ある製品やサービスの開発に必要な要素的技術に対するニーズ)の二種類を区別する必要がある
b.多様な技術的方式の相互競争と棲み分け
c.Product Innovation vs Process Innovation
i>Product Innovation
製品そのものに関わる技術(製品の基本的な技術的性能や独自性に関わる技術)についてのイノベーション
ii>Process Innovation
製品の製造に関わる技術(製品の製造に関わる技術、製品コストや品質・信頼性に関わる技術)に関するイノベーション
Product Innovation と Process Innovationの関連と差異に注意が必要
productに関して、組立型製品(ex.マイクロプロセッサー+マザーボード+メモリ+HDD+DVD+PCケース→パソコン)、加工型製品(工作機械などによる加工によって生産される製品)、素材型製品(鉄、ガラスなど)ごとにProduct Innovation/ Process Innovationのあり方は異なる
d.要素的技術 vs 要素的技術の統合(技術統合)