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第1回例会 ドイツにおける青少年図書館サービス

本年度の第1回例会が2012年6月30日(土)14:00~16:30、明治大学駿河台キャンパスのリバティタワー13階1136教室にて行われました。参加者は135名(このうち、学生参加87名、一般参加48名)でした。本会は、東京ドイツ文化センター図書館との共催で行われました。さらに、日本図書館協会国際交流事業委員会から後援もいただきました。

会の冒頭、司会の本学文学部三浦太郎(専任講師)から開催趣旨の説明があったのち、東京ドイツ文化センター図書館長のバーバラ・リヒター氏から開会の辞が述べられ、本日の会が日独図書館界の若い人たちの文化交流の契機となることへの期待が述べられました。

その後、本学大学院文学研究科博士前期課程の星野翼氏から「日本の図書館とマンガ資料」、国立国会図書館調査及び立法考査局の伊藤白(ましろ)氏から「ドイツ図書館の概要」に関する発表がそれぞれありました。星野氏は京都国際マンガミュージアムや広島市まんが図書館の活動事例などを取り上げながら、日本において若者から中高年まで幅広い層に支持されるマンガ資料の利用状況を報告しました。いっぽう、伊藤氏は、昨年にユルゲン・ゼーフェルト著『ドイツ図書館入門:過去と未来への入り口』(日本図書館協会, 2011)を翻訳紹介されていますが、ドイツ図書館の歴史的展開や現在焦点化されているトピックスを8つ取り上げ、豊富な画像資料を盛り込みながら報告されました。ドイツの図書館制度では館種が多く、相互の連携協力活動が盛んであることや、近年には建築ラッシュや電子サービスの拡充が顕著であること、また、国際的な学力調査の結果を受けて児童向けサービスの充実や啓蒙活動の実施(「図書館でのお泊り会」の開催など)が図られている旨、紹介されました。

続いて、基調講演者のジャネット・アッハベルガー氏が登壇されました。まず、アッハベルガー氏が館長を務めるハンブルク公共図書館分館「Hoeb4U」の由来について、“Hamburg Oeffentliche Buecherhalle for YOU”(あなたのためのハンブルク公共図書館)であることが説明されました。「Hoeb4U」は2005年12月に設置され、余暇時間に図書館に行かない若い人たちをターゲットに、毎週火曜日~金曜日の14~19時、土曜日の12~16時に開館されています。学校教育の延長上に義務感で厭々図書館に行くというイメージの打破を図るため、15,000点のコレクションのうち視聴覚資料が50%を占めており(残り半分は印刷資料)、Wii、PSP、任天堂DS、ボードゲームなど、余暇に使われる資料だけが集められているそうです。

施設職員は常勤職員が4名(館長含む)で、このほか18~20代の職業訓練生が4~6名配置されています。この職業訓練生は、将来図書館で正規に働くための中級資格取得を目指す人たちで、利用者層の中心を占める子どもたちと世代が近く、参加型イベントやゲーム資料の評価に積極的に関わっています。「ジュニアカンパニー」の形態は、若い子を図書館に呼ぶやり方として成功していると言えそうです。イベントは、地元の出版社と協力して、これから出版する図書の表紙や帯を出版社と子どもたちが協同して決める「読書クラブ」や、真っ白な図書1,000冊に子どもたちが好きな書き込みをして図書を制作していく「ブックスペース」プロジェクト、さらにはコスプレ、巡回展示会など、多様に展開されています。図書館サービスを職員、子どもたち利用者、それから地域の人びとが一緒になって作っていくという試みは「Hoeb4U」の大きな特色となっています。このほか、ツイッターをはじめとするインターネット上での活動や、ドイツ国内の他の都市の実例も紹介されました。

16時からは質疑応答に移りましたが、たくさんの方から意見・質問が寄せられ、事前に設定された時間ではとても足りないほどでした(会終了後も20分ほど、アッハベルガー氏のもとに質問する参加者の列が続いていました)。質疑ではサービス対価の話題も上り、18歳以下の利用者は年に8ユーロの負担が必要になることが紹介されました(このほか、18~27歳は20ユーロ、28歳以上は45ユーロが年間に必要となります)。アッハベルガー氏からは、「Hoeb4U」の利用料はドイツ国内でも高額な設定となっているが、それだけの対価に見合ったサービスを展開できていることが重要である点が強調されました。関連して会場からは、利用者が裕福な家庭の子どもたちに限られ、移民の子弟などが排除されることはないのかという質問もありましたが、これに対しては、生活保護家庭の子どもたちには利用料免除の措置が講じられており、家庭環境に限らず万遍なく子どもたちに利用されている旨が回答されました。このほか、設立当初はゲームを図書館に置くことへの批判も、とくに図書館職員の中であったそうですが、職員間で議論を重ねて理解が図られ、今日に至っているそうです。

会の最後には本研究会会長の阪田蓉子氏から閉会の辞があり、今回の講演会が日本側参加者にとって新しい図書館サービスの取り組みについて実践的知識を吸収する好機となったことが述べられました。本講演会は成功裡に終了することができましたが、講演者、発表者、参加者の皆さま、ありがとうございました。会の冒頭、本学文学部教員から開催趣旨の説明があったのち、明治大学図書館情報学研究会会長の阪田蓉子氏から開会の辞が述べられました。

第2回例会 今、公共図書館で司書として働くということ

本年度の第2回例会が2012年12月1日(土)13:30~15:00、明治大学駿河台キャンパスのリバティタワー12階1125教室にて行われました。参加者は74名(このうち、学生参加71名、一般参加3名)でした。

基調講演では、元我孫子市民図書館館長の井上玲子氏が登壇され、「今、公共図書館で司書として働くということ」をテーマに講演されました。井上氏は、まず、館長として10年間を過ごされた我孫子市民図書館における「1日の仕事の流れ」を例に、正規・嘱託・臨時職員が図書館内でどのような仕事を担当しているか、具体的に説明されました。開館前の準備作業から夜間閉館後の配架作業に至るまで、図書館員の多様な業務について知識を得る好機となりました。

続いて、「今、公共図書館では・・・」という視点から「公共図書館の現在の取り組みと課題」について説明されました。公共図書館の現状は、(1)「課題解決」と「読書」を二本柱にサービス展開していること、(2)地方行政の財政悪化のなかで人件費削減が進められ、職員の非正規化が進んでいること、(3)さらには、かつてのように住民要求に一方的に応える姿勢から、現在では住民に図書館事情について理解を求める風潮に変わりつつあることが指摘されました。

「公共図書館司書の現在」については、(1)多様な職員形態、(2)専門職としての課題、(3)図書館で働くことの魅力、(4)求められる人間力の4つの観点から、さらにお話がありました。とくに、図書館専門職には、専門領域について精通する努力と、行政組織の一部門で働いているという視野をもつことが必要である点が強調されました。また、ご自身の経験を踏まえながら、図書館員には専門領域の資料に精通しようとする向上心に加えて、チームワークを大切にする「誠実さ」が重要であり、職場での「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)が大切である旨、話されました。最後に、ご自身が図書館に就職される前に5年間の「回り道」をされた経験や、図書館勤務後も3年間、別の課で働かれたことを紹介され、「どのような経験もその後に生きる」点が、フロアに向かって語りかけられました。

質疑応答では、参加者から、「財政縮減の情勢のなかでも、公共図書館が地域の活性化につながる方向性はないだろうか」といった意見などが出されました。本例会が、図書館の今後を積極的に考えていく契機となることが期待されます。講演者はじめ、参加者の皆さま、ご協力ありがとうございました。

シンポジウム 「文化資源としてのマンガ資料と図書館・博物館のサービス」

2012年10月13日(土)、明治大学リバティータワーにおいて、「文化資源としてのマンガ資料と図書館・博物館のサービス」と題するシンポジウムが開かれました。参加者は、本学学生、本研究会会員ならびに、本テーマに関心のある方々を中心に93名に上りました。

シンポジストには、表智之氏(北九州市漫画ミュージアム専門研究員)、村木美紀氏(同志社女子大学准教授)、斎藤宣彦氏(米沢嘉博記念図書館)をお招きしました。阪田蓉子会長による開会挨拶の後、3人の方々から、講演と発表をいただきました。

表氏は、講演「文化資源としてのマンガ資料と博物館のサービス」と題して、マンガを学術的に研究すること、ならびに、マンガ文化施設に求められるものについて解説したうえで、自身の勤務先も含めた日本におけるマンガミュージアムの現状を紹介しました。

村木氏は、発表(1)「公共図書館におけるマンガ資料の提供とその意義」と題して、マンガのもつイメージや出版状況、メディアミックスのしくみなど、マンガを取り巻く状況を踏まえ、公共図書館でマンガを収集・提供することの実情と課題を解説しました。

斎藤氏は、発表(2)「米沢嘉博記念図書館におけるマンガ資料の収集・組織化と利用者サービス」と題して、勤務先の実践事例を紹介しました。具体的には、資料収集には3つの経路があること、分類方法や帯・カバーの扱いなど整理にはマンガ独自の難しさがあることなどが説明されました。

次に、本学文学部の齋藤泰則教授のコーディネートによる、パネルディスカッションが行われました。はじめに、各シンポジストから、ご講演いただいた内容や実務経験を踏まえて、コメントをいただきました。その後、聴衆から寄せられた質問にシンポジストが回答しました。たとえば、「近年、資料が電子化される傾向にあるが、マンガ資料と電子化について、それぞれの立場から、どのように捉えているか」といった講演内容をより深化させた質問が寄せられました。

今回のシンポジウムでは、参加者にとって身近であるマンガ資料を、文化資源として図書館や博物館において、どのように収集・組織化・提供していくべきかといった実践的な話題に触れることのできた貴重な機会となりました。講演者はじめ、参加者の皆さま、ご協力ありがとうございました。

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