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第1回例会 地域に密着した図書館をつくるには

2015年6月13日(土)、明治大学駿河台キャンパス・リバティータワーにおいて、「2015年度明治大学図書館情報学研究会第1回例会」が開催されました。今回の例会では、塩尻市市民交流センター長 兼 塩尻市立図書館長であり、本学の卒業生でもある伊東直登氏をお迎えし、「地域に密着した図書館をつくるには」をテーマにご講演いただきました。参加者は、本学の司書課程受講生を中心に、現職の図書館員の方などを含む131名(本学学生127名、一般参加4名)に上りました。

講演冒頭で伊東氏は、今後の図書館司書に求められるものは、関係者と良好なコミュニケーションを図り、ネットワークを形成することであると述べられ、多くの人たちとつながりをもつことで、図書館や司書のもつ役割を広げることができると指摘されました。その後、図書館も含めた複合施設である塩尻市市民交流センターの写真をもとに、子育て支援センターと連携した書架の配置や、図書館外の空間にヤングアダルト(YA)コーナーを置くなど、具体的な工夫についてもご紹介いただきました。複合施設においては、建物の構造上だけではなく、ソフト面でもほかの部署とつながっていくことを考える必要があり、図書館以外の機能を取り込んでいくことが重要であると、理解することができました。

続いて、塩尻市立図書館の図書館サービスについて、「市民に役立つ図書館」であるためにどのような目標を立て、それに向けてどのような活動を行っているかについて説明されました。「つなぐ」をキーワードにして、図書館が人と人、人と資料、人と情報をつなぐための「仕掛け」を施していくことが必要であると述べられ、実際にどのような「仕掛け」を行ったのかをご紹介いただきました。たとえば、日本十進分類法(NDC)の分類ではなく、テーマごとに書籍とCD、DVDなどを混排した書架としていること、地場産業の支援につながるイベントを企画して開催していることなど、図書館側から利用者に積極的に働きかけて、利用を促進することの重要性を指摘されました。

質疑応答では、「市だけではなく県とも連携を行われているが、苦労した点はどこか」「複合施設ということで他部署との協力について語られていたが、どのような工夫をしたか」といった講演内容をより深化させた質問が寄せられました。これからの図書館の在り方や、司書の仕事についての今後を積極的に考えていく好機となったのではないでしょうか。講演者はじめ、参加者の皆さま、ご協力ありがとうございました。

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第一回例会

第2回例会 実践の研究,研究の実践―実践は研究においてどのような意味をもつか―

2015年12月12日(土),明治大学駿河台キャンパス・リバティタワーにおいて,「2015年度明治大学図書館情報学研究会第2回例会」を開催しました。今回の例会では,昨年度まで慶應義塾大学で教鞭をとられ,今年3月に退職記念論集『図書館は市民と本・情報をむすぶ』(勁草書房)が刊行された慶應義塾大学名誉教授の田村俊作先生をお迎えし,「実践の研究,研究の実践―実践は研究においてどのような意味をもつか―」をテーマに,ご講演いただきました。参加者は,本学の司書課程受講生を中心に92名に上りました。

冒頭,本研究会会長の阪田蓉子氏よりごあいさつがあり,明治大学卒業生の一人が図書館への就職後,田村先生のもとで博士論文執筆に取り組んでいる点のご紹介があったほか,これまで図書館がどのように文化を守ってきたのかというご関心から,最新のドキュメンタリー映画『本は残った』(金髙謙二監督)のご案内などがありました。

その後,田村先生のご講演に移りました。田村先生は,ご自身の研究の変遷とからめながら,図書館情報学研究の趨勢をご紹介くださいました。まず,「システム志向の時代」(1970年代から1980年代前半)には,田村先生は大学院生でいらっしゃいましたが,定量的分析に主眼を置かれながら,科学コミュニケーション研究におけるuser studyを公共図書館研究に応用しようと苦心された点が語られました。“実践は論理を飛び越えてしまうのですが,それでも実践は結果が出たらOKなのですね”とお話しになりながら,公共図書館利用の論理を解明する方法を模索されていたと振り返っておられました。とくに意識されていたのは『市民の図書館』(日本図書館協会, 1970)で,利用の多様性に応え,その利用者像を超えることが課題であったと述べられています。

続く「利用者志向時代」は,田村先生が英国シェフィールド大学に留学されていた時期を出発点とし,当時行われていた質的研究手法にたいへん影響を受けたとおっしゃっています。利用者の生活実態から個人の情報探索過程を明らかにするアプローチは,図書館の枠内にとどまっていた従来の議論を大きく転換するものでもありました。そして,現在は「実践志向の時代」に入られており,人びとの実践に着目して,共同の実践の中で業務がどのように組織的に遂行されるのかを見るアプローチにたどり着いたと言われています。実践に着目される際,参考にされたのが経営学などの知見であり,それまでの,サービスを顧客と出会う場面として捉える考え方を根本的に転換し,サービスは顧客が実践の中に組み込まれているという視点が得られたそうです。

今回のご講演では,ご用意いただいた資料のすべてのトピックスをお話しいただくことができませんでしたが,図書館情報学の研究手法について学生たちに分かりやすくお話しくださいました。事後の質疑では,個別の図書館存在とシステムとの間に乖離が生じているのではないかという指摘などもあり,丁寧にお答えいただきました。

その後,司会の青柳英治准教授より閉会のことばがあり,講演会は終了となりました。休憩をおいて,図書館職員を目指す学生向けに,本年度,国立大学法人図書館への内定を決められた本学学生から報告があり,採用試験準備に向けた体験談が語られました。こちらにも多くの学生が参加し,熱心にメモをとっていました。盛会のうちに例会を終えられましたこと,田村先生をはじめ,関係の皆さまに厚く御礼申し上げます。

シンポジウム 学校図書館における読書活動への取り組み

2015年10月24日(土)、明治大学和泉図書館ホールにおいて、「学校図書館における読書活動への取り組み」と題するシンポジウムを開催しました(後援:2016国際学校図書館協会〈IASL〉東京大会運営委員会)。参加者は、本学の司書課程・司書教諭課程の受講生を中心に、現職の図書館員や学校司書の方々を含む94名(本学学生71名、一般参加23名)にのぼりました。

シンポジストには、京都ノートルダム女子大学教授の岩崎れい氏、市川市立第七中学校学校司書の高桑弥須子氏、明治大学付属明治高等学校中学校司書教諭の江竜珠緒氏をお招きしました。本研究会会長の阪田蓉子氏による開会あいさつののち、御三方にご講演いただきました。

岩崎氏は、「学校教育における読書活動~その役割と意義~」と題して、国内外の学校図書館の様子や国際規約や宣言などを例に上げつつ、読書の持つ役割と子どもの成長との関わりについて解説されました。読書活動は学びと不可分である一方で、カリキュラムとの関わりの難しさなど、学校図書館の抱える課題についても指摘されました。読書材を選ぶことの重要性についても言及され、利用者の「価値観の多様性を身に付ける手伝いをすること」が、学校司書や司書教諭にとって大切であることを理解できました。

高桑氏は「市川市公立学校の学校図書館を活用した読書活動について」と題し、市川市の学校図書館の活動を具体的に紹介されました。校内にとどまらない図書委員会の活発な活動や、授業へ読書活動を取り入れた事例を中心に、公立図書館との連携についても述べられ、学校図書館が公立図書館にぶら下がるのではなく、それぞれの図書館として自立することが大切である、と指摘されました。

江竜氏は「私立中学校高等学校における読書活動」と題して、明治高等学校中学校での活動について、私立学校の学校図書館の特徴とともにご説明いただきました。「手段としての読書」の具体的な実践例として、ビブリオバトルや英語多読についてもお話をうかがうことができました。子どもたちの「読み」を支える資料をいかに組み立てるかが学校図書館の使命である、という言葉で講演を締められました。

今回のシンポジウムでは、公立学校・私立学校そして国際的な視点からも、学校図書館に関する貴重なお話をうかがうことができました。読書活動と学校教育について考える良い機会となりました。講演者はじめ、参加者の皆さま、ご協力ありがとうございました。なお、来年8月22日~26日に、本学駿河台キャンパスで学校図書館の世界大会IASL年次大会が開かれます。ぜひ、今後も国際的な意見共有を進めていきたいと思います。

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