法学部で何を学ぶか

 

田 

 

 今年名大法学部を受験する諸君へ,私の学生時代のことをお話ししてこれか らの大学での法学の学習の仕方の参考にでもしてもらおうと思う.

 諸君の中には,将来弁護士や公務員になろうと考えている人も多いであろう. ところでかく言う私自身は,大学入学は理科系の学部だったので入学時には, 将来法律関係の仕事をしようなどとは夢にも考えていなかった.事情により, 三年生から突如として法学部に転部したのだ.

 そんなわけで,諸君の様に専門課程に進むまでに,法学の概要を勉強してお くことは出来ず,いきなり専門科目を受講する羽目になったのだ.

 はじめ講義に出ても,先生が何を言っているのか全く理解できず,また司法試 験や公務員試験を受ける気もなかったので,結局最初の半年間はほとんど講義 に出なかった.ただ,研究者にでもなろうかという気はしていたので,ひたす ら法学方法論や法哲学,法社会学等の専門書を読みあさっていた.今から考え ると効率の悪い読み方だったと思うが,それでも,J・フランク『裁かれる裁 判所』,K・レンナー『私法制度の社会的機能』,星野英一『民法論集』第一 巻・第二巻等を読んでいくうち,法学というものが分かったような気分になる ことができたし,事実その後とてもためになったと思う.

 そんな時,医療過誤訴訟の実態調査のための学生アルバイト募集が目にとま り,応募して裁判所記録の調査・当事者への面接調査をした.それが縁で,川 島武宜『科学としての法律学』,六本佳平『民事紛争の法的解決』,N・ルー マン『法社会学』等をひもとくこととなり,いわゆる「科学としての法律学」 の可能性への興味を持つようになった.

 三年生の冬に四年生用だった法哲学の講義に出て,碧海純一『法哲学概論』 を読んだのもこういう問題関心からであった.この教科書の影響は大きく,春 休みはK・ポパー『自由社会の哲学とその論的』やローレンツ『攻撃:悪の自 然誌』,T・クーン『科学革命の構造』で費やした.

 先の裁判記録の調査以来民事裁判に興味が生じていたので,四年生になると民 事訴訟法を専門にしようと決心した.そこで,新堂幸司教授の論文をコピーし, 三ケ月章教授の『民事訴訟法研究』全七巻を購入して読んでいった.また友人 たちと読書会をやったりもした.その後,大学院,助手を経て現在に至ってい る

 結局,私の場合法学をやり始めたのが遅かったので,法学の基礎理解と専門 修得を二年間でやらざるを得ず,かなり苦労した気はする.しかし今から振り 返ってみると,物事をやり直したり未知の分野に飛び込んだりするのに,遅す ぎることはないと感じる.

 諸君が興味・関心をできるだけ広く持って,これからの大学生活に取り組ん でいって欲しいと思う次第である.

『名古屋大学新聞』1985年3月4日(634号)7頁


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