《江戸狂歌選・ 巻之弐》

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三ぜんの 膳を二膳に へらすとも

     御膳御膳と へつらふは嫌 (村田了阿)

  


 

(茄子の鴫焼き)

小娘も はやこの頃は 色気付き

     油つけたり くしをさしたり (蜀山人)

  

 

油つけ くしをさしたは よけれども

     色が黒くて 味噌をつけたり (山東京伝)

  


 

芸が身を助けずしかも好きで下手

     身は立てもせで浮名のみ立つ (原武太夫盛 和)

  


 

倉の内にいかなる川のあるやらん

     わが置く質の流れぬはなし (宗湖)

  


 

偽りのある世なりけり神無月

     貧乏神は身をも離れぬ (雄長老)

  


 

おれを見てまた歌をよみちらすかと

     梅の思わんことも恥ずかし (四方赤良)

  


 

女ほどめでたきものは又も無し

     釈迦も達磨もひょいひょいと産む (覚芝和 尚)

  


 

親も無し妻無し子無し板木無し

     金も無けれど死にたくもなし (六無斎・林 子平)

  


 

(いかなる時にか)

かかる時何と千里のこま物屋

     伯楽もなし小遣もなし (平賀源内)

  


 

(雪の日,友人のもとよりふくと汁たべにこよ,とあり ければ)

命こそ鵝毛に似たれなんのその

     いざ鰒食ひにゆきの振舞 (唐衣橘洲)

  


 

いざ飲まんあたらし肴今年酒

     酌は女房のちと古くとも (浅草干則)

  


 

(江戸流行のもの)

有難や見物遊山は御法度で

     銭金持たず死ぬる日を待つ 

長生をすれば苦しき責を受く

     めでた過ぎたる御代の静けさ (四方赤良)

  


 

いぎりすもふらんすも皆里なまり

     度々来るはいやでありんす (筒井鑾渓)

  


 

(屁)

いろはにほとの字の間でしくぢって

     私やこの家をちりぬるをわか 

旦那さん私を糞と思ふかな

     への出たのちに無理に追出す

  


 

うづ高く左ねぢれの左大べん

     けつしてこれは公家の糞なり (四方赤良)

  


 

(無常)

飢死もまた酔死も討死も

     恋死もいや死なば空死 (山蒼斎)

  


 

(夫の朱楽菅江が吉原に居続けして)

飛鳥川あとは野となれ山桜

     散らずば寝には帰らざらまし (節松嫁嫁)

  


 

商人の空誓文や偽りの

     頭に宿る神もありけり (浅井了意)

  


 

(海辺の月)

めでたやな下戸のたてたる倉もなし

     上戸の倉もたちはせねども (岩代岡萱根)

  


 

(人のさけをしゐける時よめる)

天野酒振りさけ見ればかすかなる

     みかさも飲まばやがて尽きなん (新撰狂歌 集)

        《参 考》天の原ふりさけみれば春日なる

                 三笠の山に出でし 月かも (阿倍仲麻呂)

  


 

(堺の牀菜庵にて)

人目をも恥をも思はねば

     ここも深山の奥とひとしき (一休)

  


 

あかがりも春は越路に帰れかし

     冬こそあしのうらに住むとも (猿丸太夫)

 


 

秋の田の刈田のあとを咎められ

     あが後ろ手に雪は降りつつ (読み人しらず)

        (参考)秋の田の刈穂の庵の苫をあらみ

                わが衣手は露にぬれつつ  (天智天皇)

 


 

(ものにならぬ人といふを)

夜遊びや朝寝昼寝に遊山好き

     引込み思案油断する人 (松浦静山)

  


 

あさましや富士より高き米値段

     火の降る江戸へ灰の降るとは (落首)

  


 

あしきだに無きはわりなき世の中に

     よきを取られて我いかにせん (宇治拾遺物 語・三)

  


 

(七夕)

天の川羽衣着たら飛び越えん

     げに空事ぞかささぎの橋 (松永貞徳)

  


(十魚:あめ・ぶり・はも・ます・あじ・こち・ふな・ こい・さば・さわら)

雨降りて川も水ますあちこちに

     舟人恋し来さばさはらじ (雑話集)

  


 

(柳)

争はぬ風の柳の糸にこそ

     堪忍袋縫ふべかりけれ (鹿都部真顔)

  


 

(南無妙法蓮華経ということを詠み入れよと乞われて)

いか程の南無題目を出されても

     よむが妙法蓮華きやう歌師 (四方赤良)

  


 

医者部屋へ通うちろりのなくなるは

     幾夜寝ざめのすまぬ酒盛 (橘宗仙院)

        (参 考)淡路島通ふ千鳥の鳴く声に

                いく夜ねさめぬ須磨 の関守  (源兼昌)

  


 

(逢恋)

出雲なる神に祈りて逢ふ夜半は

     日本国が一つにぞ寄る (宿屋飯盛)

  


 

急がずは濡れざらましと夕立の

     あとより晴るる堪忍の虹 (烏亭焉馬)

        (参 考)急がずは濡れざらましを旅人の

                あとより晴るる野路 のむら雨  (太田道灌)

  


 

(扶持貰ひし時)

一度こひ二度こひ三度よどのこひ

     こひぞつもりて扶持となるらん (加茂季鷹)

        (参 考)筑波嶺の峯よりおつるみなの川

                恋ぞつもりて淵とな りぬる  (陽成天皇)

  


 

いつの間に人の心の秋の来て

     穂にいでぬをもいねといふらん (新撰狂歌 集・上・恋)

  


 

(思)

いとしがりいとしがられて憎き時

     憎まるるさへ諸思ひかな (詠百首誹諧)

  


 

(寄小女恋)

古への貴妃かあらぬかわが目には

     そよやげいしやううゐの小姫子 (入安)

  


 

今さらに雲の下帯ひきしめて

     月の障りの空ごとぞ憂き (四方赤良)

  


 

今さらに何か惜しまむ神武より

     二千年来暮れてゆく年 (四方赤良)

  


 

(逢後不逢恋)

今はただ恋しゆかしやなつかしの

     死の字ばかりを待つ身なりけり (伯水)

  


 

今はただ股も腓もはりま潟

     飾磨のかちの旅は苦しき (新撰狂歌集・上・ 羇旅)

  


 

(忌といふ字は,己が心と書きたり)

いめばいむいまねばいまずいめばいむ

     いむとは己が心なりけり (闇の曙・下)

  


 

歌よみは下手こそよけれあめつちの

     動き出してはたまるものかは (宿屋飯盛)

  


 

(清水寺・無理な神頼みに)

梅の木の枯れたる枝に鳥の来て

     花咲け咲けといふぞわりなき (仏)

  


 

羨まし声も惜しまぬのら猫の

     心のままに恋をするかな (藤原定家)

  


 

(秋鳥)

落とされて料理にあふな四十雀

     身をやく前の秋とつつしめ (吾吟我集・三・ 秋)

  


 

お富士さん霞の衣ぬぎなんし

     雪のはだへを見たうおざんす (松浦静山)

  


 

(春月)

かりそめに筵も持たで春の夜の

     朧月夜にしく物そ無き (入安)

        (参 考)照りもせず曇りもはてぬ春の夜の

                朧月夜にしくものぞ なき  (大江千里)

  


 

きにゆうみち,きゆみんせえか,けえしきに,

     つうかつあはん,おどどけゆに (吉四六の 内儀)

        (解 題)昨日見て今日見ぬさへも恋しきに

                十日を逢はぬ身を如 何にせん

  


 

(訴訟)

公事にせば若しもかたうが言葉論

     喧嘩の門か僧のたたくは (古今夷曲集・九・ 雑下)

        (参 考)僧ハ推ス月下ノ門⇒僧ハ敲ク月下ノ門

  


 

山の井にすめる蛙の歌きけば

     なんのそのその園の鶯 (宗賢)

  


 

世の中はすむと濁るの違ひにて

     刷毛に毛があり禿に毛が無し (落語)

  


 

(辞世)

つひに行く道とはかねて聞きしかど

     昨日今日とは思わざりしを (在業業平)

  


 

(春興:××××のことのみおもひて)

君が代やアゝ君がよやきみがよや

     あれまた幾世限り知られず (てる)

  

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