ダイナミクス研究会中野

本研究会は科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤研究(B)(特設分野研究)
「均質化法と連鎖反応理論による電気化学触媒反応の数理モデル構築」
の一環として行っています

最終更新日 2018年5月21日

2016年度以前の情報

セミナー予定

第27回
日時 2018年6月14日 (木) 14時00分 ~ 15時30分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 関本 敦 氏(大阪大学大学院基礎工学研究科)
講演題目 一様剪断流のLESにおける非線形サドル解
講演概要 Smagorinsky渦粘性モデルを用いた一様剪断乱流のラージエディシミュレーション(LES)を行い、不安定な三次元定常解を数値的に求めた。一般に壁乱流においては、渦粘性は壁面からの距離の関数であり、分子粘性が支配的となる壁近傍での取扱いが問題となるが、壁がない一様剪断流では渦粘性も一様に分布するため、この問題は生じない。高レイノルズ数領域では分子粘性を完全に無視した剪断流れを考えることができ、このときの支配方程式はNavier-Stokes方程式の分子粘性項が渦粘性項に置き換わる。本研究では、LESの支配方程式を見つめ直し、LES乱流を大自由度力学系と捉える。流れの最小スケールはSmagorinskyモデルにおける混合長 lsによって与えられ、これが実効Kolmogorov長に当たる。最大スケールは流れの積分長であり、一様剪断乱流のシミュレーションでは計算領域のスパン方向幅Lzで決定される。有効レイノルズ数はそれらのスケール比 Rs=Lz/lsで定義できる。乱流状態が持続する限界のRs付近において、三次元定常解がサドル・ノード分岐によって現れ、その下分枝解は層流と乱流を分かつエッジ状態であり、上分枝解は高いRsにおいてマルチスケールな渦構造を有する。Navier-Stokes方程式と同様に、渦粘性モデルを用いたLESにおいても、その背景にある非線形サドル解が剪断乱流の亜臨界遷移に大きな役割を果たしている。この知見は、今後のLESモデルの性能向上や適用範囲を広げるのに大いに役立つものと期待できる。

第34回
日時 2018年6月14日 (木) 16時00分 ~ 17時30分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 竹内 博志 氏(東北大学大学院理学研究科数学専攻・日本学術振興会特別研究員DC1)
講演題目 パーシステントホモロジーと粉体・サンプル力学系への応用
講演概要 パーシステントホモロジーは有限点データの位相的形状を代数的に抽出する位相的データ解析の手法で,材料科学や画像解析との親和性の高さから,応用数学の一手法として確立されている.本講演ではパーシステントホモロジーの2つの応用例を紹介する. 粉体の空洞解析:砂,米,ナッツのような,熱揺らぎを無視できるマクロな粉や粒が多数集まった系を粉体と呼ぶ.土砂災害のメカニズムや,米などの粒状物資の効率的な輸送方法など,粉体は幅広い社会問題に直結することから,その物理は古くから研究されてきた.しかし未だ多くの未解決問題が残されており,その一つとして,粉体の結晶化過程の研究がある.本研究では粉体の結晶化モデルの一つである「球体パッキング」の実験データに対し,パーシステントホモロジーを用いて空洞解析を行った.パーシステントホモロジーが定量的な解析手法であることから,パッキング中の空洞の分布を一望出来ることについて紹介する. サンプル力学系解析:サンプル写像とは,写像の有限な部分集合(サンプル)のことで,サンプルのみから全体の写像を復元したい.この動機は実データ解析に基づくもので,人間の観測出来るデータは高々有限であり,観測データを支配する写像(特に離散力学系)がどの程度復元できるかを調べることで,観測データの振る舞いを理論的に特徴付けることが出来る.本研究では,2015年にH. Edelsbrunner, G. Jablonski, M. Mrozekが提唱したサンプル力学系の固有空間解析の手法を参考に,全体の写像のホモロジー誘導写像を復元し,パーシステントホモロジーを用いて解析する手法を提案した.この手法はノイズに対して安定性があり,誤差を事前に評価出来る.

第35回
日時 2018年6月21日 (木) 17時00分 ~ 18時00分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 Prof. Martin Golubitsky (Ohio State University)
講演題目 Some Properties of Network Solutions
講演概要 In this talk I will discuss two robust properties of solutions to networks of systems of ordinary differential equations: phase-shift synchrony in periodic solutions and singularities in projections of families of equilibria. Both topics developed in response to applications: the first motivated by locomotor central pattern generators for animal gaits (not discussed in this talk) and the second by homeostasis (which occurs when a property of a stable equilibrium remains approximately constant as an external parameter is varied). We show that rigid phase-shift synchrony can occur in network dynamics only when the network has symmetry on a quotient network and that homeostasis can be understood mathematically by use of the normal form and unfolding theories of elementary catastrophe theory.
第35回のセミナーは 学術研究助成基金助成金若手研究(B) 「非線形・非平衡系におけるビリヤード問題の発展~対称性と退化を伴う分岐~」 (代表研究者:宮路智行,研究課題番号:16K17649) の一環として行います.
第36回
日時 2018年7月19日 (木) 16時00分 ~ 17時30分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 佐藤 譲 氏(北海道大学 電子科学研究所 / 理学院数学専攻)
講演題目 Stochastic chaos in a turbulent swirling flow
講演概要

We report the experimental evidence of the existence of a random attractor in a fully developed turbulent swirling flow. By defining a global observable which tracks the asymmetry in the flux of angular momentum imparted to the flow, we can first reconstruct the associated turbulent attractor and then follow its route towards chaos. We further show that the experimental attractor can be modeled by stochastic Duffing equations, that match the quantitative properties of the experimental flow, namely, the number of quasistationary states and transition rates among them, the effective dimensions, and the continuity of the first Lyapunov exponents. Such properties can be recovered neither using deterministic models nor using stochastic differential equations based on effective potentials obtained by inverting the probability distributions of the experimental global observables. Our findings open the way to low-dimensional modeling of systems featuring a large number of degrees of freedom and multiple quasistationary states.

Reference: Davide Faranda, Yuzuru Sato, Brice Saint-Michel, Cecil Wiertel, Vincent Padilla, Bérengère Dubrulle, François Daviaud, Physical Review Letters, 119, 014502, (2017).


過去のセミナー

第33回
日時 2018年5月10日(木)16時00分 ~ 17時00分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 松江 要 氏(九州大学マス・フォア・インダストリ研究所/九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所)
講演題目 有限時間特異性:定性・定量的普遍性
講演概要 滑らかなベクトル場が定義する解であっても有限時刻において特異性を発現する厄介な対象として、微分方程式の「爆発解」が挙げられます。一方で、弱い意味でしか解を定式化できない「絶滅、コンパクトン進行波」にも適切な座標の“有限時刻”において解の正則性が失われる特異性を発現します。これらはしばしば各論として独立に議論されがちですが、常微分方程式系として還元されたレベルにおいては、漸近解析や解の精度保証付き数値計算を通して構造の同一性を見出すことができます。 本講演では爆発解の力学系取り扱いから始め、退化した偏微分方程式が有する有限進行波解に移り、その構造解析・数値計算に潜む普遍性を概観します。
第32回
日時 2018年4月19日(木)16時00分 ~ 17時00分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 〇田邊 章洋 氏(明治大学先端数理科学インスティテュート),西森 拓 氏(広島大学),早川 尚男 氏(京都大学)
講演題目 粉体流中の2円盤間の引力・斥力相互作用
講演概要 ブラジルナッツ現象でよく知られるように,多分散系の粉体は振動等の外力が加わることによって容易に偏析が発生する。このような偏析現象は平面上での水平加振系においても観測されており,よく混ざった単層の粉体層は加振によってストライプ状のパターンを形成する。このような水平加振における偏析のメカニズムについてこれまでに現象論的・実験的なアプローチでの研究が報告されている。他方で,近年粉体のレオロジーの研究が盛んになされている。例えば小円盤を媒質としてその中で大円盤を引っ張ることで粉体中の抗力を測定する実験や数値計算が行われている。最近1体の引張速度と抗力の関係等について,完全流体モデルを用いた説明が提案された。このことは2体間の相互作用として流体的な相互作用の可能性を示唆し,上述の水平加振系の偏析現象の起源を流体的に説明する可能性を示唆している。そこで我々は2つの大円盤の周りに小円盤を流すことで大円盤間に生じる実効的な相互作用に注目した数値計算を行った。
小円盤の流れとして一方向流と時間に対して正弦波で流れ方向が切り替わる振動流を考える。大円盤間の相互作用はそれぞれ斥力・引力相互作用として働いた。特にこの斥力・引力相互作用のメカニズムについて注目して発表を行う。
第31回
日時 2018年2月26日(月)16時30分 ~ 18時00分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 山口 諒 氏(首都大学東京理工学研究科・日本学術振興会特別研究員PD)
講演題目 種分化ダイナミクスの数理モデルで探る新種誕生の境界
講演概要 現存する生物種は祖先種から分岐することによりその数を増やしてきた。種分化は新たな種を生み出すメカニズムであり、継続的に種分化が繰り返されることで生物多様性が創出・維持されている。一方、進化は突然変異の蓄積がもたらす漸進的なプロセスであり、進化の途上にある任意の2集団が別種かどうかを判別することは容易でない。そのため、「種の境界」問題は進化生物学や分類学の長い歴史において常に中心的課題であった。本講演では、新種誕生の境界を求めることに焦点を当て、数理モデルによる種分化ダイナミクスの解析を紹介する。変異の蓄積に伴って個体間の交配確率が連続的に減少する過程をモデル化し、確率過程や拡散近似、個体ベースシミュレーションによる解析を行った。その結果、分化の程度は変異と交雑のバランスで決定される安定平衡点に至ったのち、ランダムな時刻で急速な種分化に至るという挙動を発見した。それは「種分化の復帰不能点(不安定平衡点)」がダイナミクスの中に存在し、これを超えると交雑が起こっても種分化は進み続けることを意味する。つまり、変異の蓄積による連続的な進化の中に離散的な種を生み出す境界が潜むことを明らかにした。この予測は現在、野外生物群集のデータを用いた検証が始まっており、最後にその例を紹介したい。
第30回(国際共同研究プログラムReaDiNetとの共催)
日時 2018年1月26日(金)16時00分 ~ 17時30分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 Thomas Giletti 氏 (University of Lorraine)
講演題目 Interplay between fast diffusion and Allee effect
講演概要 PDFファイル
第29回
日時 2017年12月13日 (水) 17時00分 ~ 18時00分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 三村 与士文 氏(明治大学研究・知財戦略機構)
講演題目 Wasserstein位相による勾配流とKeller-Segel系への応用
講演概要 Keller-Segel系は, 細胞性粘菌が自らを誘引する化学物質を分泌して起こる凝集の数理モデルである. 1970年にE. F. Keller と L. A. Segelが提唱したモデルは様々な数学的簡略化を経て, 今日は細胞性粘菌の密度と化学物質の濃度を未知関数とする偏微分方程式系として知られている. 数理解析の立場からは, 次の閾値の存在が多くの研究者の関心を集めてきた. ある閾値$M_c$が存在して, 細胞性粘菌の総質量がこの$M_c$より小さければ細胞性粘菌の凝集は起こらず, 他方で総質量が$M_c$より大きいときに限り凝集が起こり得る. 本講演では, Keller-Segel系を確率測度空間上で定義されるWasserstein距離を用いて勾配流として定式化することにより, この閾値を変分的に特徴付けることができることを紹介する.
第28回
日時 2017年11月17日 (金) 16時30分 ~ 17時30分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 水町 徹 氏(広島大学大学院理学研究科)
講演題目 空間2次元の長波長近似モデルの平面進行波の安定性について
講演概要 2次元長波長近似モデルの線ソリトン解の横断安定性について解説する. 空間局在的な孤立波が変調する様子は,孤立波の振幅や位相に関する有限自由度のパラメータに 関する常微分方程式により記述されるが,線ソリトンの場合は横断方向の変数と時間変数に 偏微分方程式(Burgers方程式系)により記述されることになる. KdV方程式を空間2次元に拡張したKP-II方程式の場合に,線ソリトンの変調を記述するBurgers方程式系が どのように導出されるかを解説し,KP-II方程式や長波長近似モデルの一つであるBenney-Luke方程式の場合に 線形化作用素のスペクトル構造を決定する方法について説明する.
第26回
日時 2017年9月29日 (金) 16時30分 ~ 18時00分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 中村 文彦 氏(北海道大学大学院理学院数学専攻)
講演題目 ノイズが加えられた南雲・佐藤モデルの漸近的周期性とその応用
講演概要 南雲・佐藤モデルは単一の神経細胞の発火現象を記述する一次元離散力学系であり、このモデルが導く細胞発火のリズムはほとんどの場合に周期的となることが知られている。本講演ではまずこのモデルにおける細胞の発火リズムに関する規則性(ファレイ数列に基づく規則)を紹介し、更にこのモデルにノイズが加えられたランダム力学系から生成されるマルコフ作用素の漸近的周期性に関する結果と証明のアイデアを解説する。マルコフ作用素による密度関数の発展を考察することは、力学系においては不変測度を計算するために有用なツールであり、近似的には数値実験で比較的容易に観測が可能である。本講演では、数値的に観測したマルコフ作用素による密度関数の発展と数学的性質である漸近的周期性を関連付けて考察し、さらにこれらの考察が実際の細胞の発火現象に対してどのような意味を与えるか議論する。
第25回
日時 2017年7月14日 (金) 16時30分 ~ 18時00分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 大林 一平 氏(東北大学材料科学高等研究所)
講演題目 パーシステントホモロジーと機械学習によるデータ解析
講演概要 パーシステントホモロジーは位相的データ解析の重要な概念で、近年、理論応用の両面に関し急速に発展している。これはホモロジーの概念をデータ解析を念頭に置いて発展させたもので、データの幾何的形状の情報を定量的かつ効果的に抽出することができる。機械学習はデータの特徴的なパターンを統計的に学習データから抽出することができ、最近のデータ科学には欠かせない。本講演ではこの2つのアイデアを結びつけ、データの特徴的な幾何構造パターンを定量的に取り出す手法について解説する。この手法においては「パーシステント図の逆問題」と呼ばれる手法を組み合わせることで取り出した幾何構造パターンを効果的に可視化することが可能となる。
第24回
日時 2017年6月30日 (金) 16時30分 ~ 18時00分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 森田英俊氏(京都大学大学院理学研究科)
講演題目 Conley-Morseグラフの方法による時系列解析
講演概要   Conley-Morseグラフの方法は,力学系の回帰的不変集合のダイナミクスの情報とそれらの勾配的関係を,計算機を用いて解析する方法である.元来は力学系モデルに対する数学的に厳密な結論を得るために開発されたものだが,時系列データ解析へとその範囲を広げつつある.この時系列解析の観点からは,背後の力学系モデルを仮定しない,相空間構造の推定であるという点で特徴的であると言えよう.
 本講演ではこの方法を確率的な時系列データの解析に用いる手法について解説する.そしてノイズの加わった簡単な力学系モデルの生み出す時系列に適用し,ノイズがないときの不変集合とそれらの勾配関係が再現されるのを見る.時間に余裕があれば,実際の時系列データへの応用例として,気象データに適用した結果について紹介する.
 本講演の内容は國府寛司氏との共同研究に基づく.また,時間に余裕があれば触れる気象データへの応用は,さらに稲津將氏を加えた共同研究に基づく.
第22回
日時 2017年5月19日 (金) 16時30分 ~ 17時30分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 宮武勇登氏(名古屋大学大学院工学研究科)
講演題目 発展方程式に対する構造保存数値解法の考え方について
講演概要 本講演では,常微分方程式の初期値問題や偏微分方程式の初期値境界値問題といった発展方程式に対する数値解法について考察する. 発展方程式の数値解法としては,Runge-Kutta法に代表される汎用解法が広く知られている.汎用解法の研究の歴史は古く, 1980年代頃にはかなり成熟しつつあったが,同時に,その限界についても徐々に明らかになってきた.一方で,同じく1980年代に, 対象とする問題のクラスを少し限定するかわりに,そのクラスの持つ構造を最大限に活かすことで,汎用解法を凌ぐ性能を持つ 「構造保存数値解法」が脚光を浴びはじめ,その後,多くの実問題(天文学,非線形光学,パターン形成など)へ応用され,また, 数学の諸分野(関数解析,微分幾何,確率論など)の視点から新しい数値解法も数多く提案されてきている.本講演では, 構造保存数値解法が興った歴史的な考察からはじめ,代表的な構造保存数値解法を例にその考え方を解説し,最後に,近年の進展に ついて紹介する予定である.
第23回
日時 2017年5月11日 (木) 15時00分 ~ 16時00分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 Dr.Ekeoma Rowland Ijioma (University of Limerick)
講演題目 DEM simulation of particle flow on an elliptical wobbler bar feeder
講演概要 The wobbler feeder is a continuous screening equipment usually used in the mining industry for particle size separation of bulk materials. It is important that particles are sorted based on size distributions before being passed to the crusher section, with the aim of enhancing the capacity of the crusher. Contrary to other screening equipment such as the vibration screens, in which the aperture size on the decks of the screen remains static during operation, the wobbler is equipped with rotating elliptical bars with oscillating gaps ( or apertures) between adjacent bars. This makes the gap size a critical modelling consideration. Thus, the objective of this talk is to provide a model-aided understanding to the behaviour of the gap between the bars and its relation to the particle size distribution in chute. We use the DEM approach to predict the particle flow in outlet chutes. Our results show the dependence of size fractions on the performance of the wobbler feeder.
第21回
日時 2017年4月21日 (金) 16時30分 ~ 17時30分
会場 明治大学中野キャンパス 6階セミナー室3
講演者 立木佑弥氏(京都大学ウイルス再生医科学研究所、九州大学理学研究院)
講演題目 どんぐりの豊凶現象に対するカオス結合系からのアプローチ
講演概要  生物は過去から現在にかけて、祖先から変異し、環境変化に適応し、適応的利害対立の中で合理的な振る舞いをとるように進化してきた。 生態学的現象がいかなる理由で進化したのかを問う進化生態学においては、変異が起こり集団に固定するまでの比較的長いタイムスケールの出来事に思考をめぐらせる。その背景には、個体の誕生から、繁殖、死亡に至る世代交代プロセスがあり、もっと短いタイムスケールでは個体の中での一連の遺伝子発現により制御される内生要因が存在する。このようにスケールの異なるイベントを結びつけ、複雑な思考する際、数理モデルを活用する事は一つの有効な手段であろう。
 本セミナーでは、講演者がこれまで行ってきた、植物における長周期の同調繁殖現象に関する理論研究を紹介する。多くの樹種ではその種子生産量に年変動があり、その変動が同調することが知られていた。これはマスティング(豊凶)現象とよばれ、その内生要因として、樹体内に資源を貯蔵し、繁殖に投資することで資源枯渇が起こり、再び資源を蓄積する待ち時間が生じることで豊作と不作のリズムが生まれるという資源収支の観点からモデルが提案されていた。資源収支モデルは時間離散の結合振動子を用いてモデル化されており、一度の繁殖機会への資源投資量が小さいときには毎年繁殖が実現し、これが大きくなると、1年間の資源蓄積を繁殖投資が上回ることで間欠的繁殖が実現し、やがてカオス的挙動を引き起こす。
 豊凶の適応進化的意義として、大量同時開花によって受粉率が高まる、または不作年に捕食者数を減少させることで繁殖時の種子生存率が高まるといった議論がなされ、理論と実証両面から研究成果が蓄積されてきた。確かに種子生産や生存の最大化を達成するという観点は繁殖成功に直接作用するのだが、これらの議論において、芽生えから繁殖までの世代交代プロセスが軽視されがちであった。芽生えが起こる森林の林床は一般に暗く、成木の枯死により光環境が改善しない限り芽生えは大きく成長することができない。この世代交代プロセスを踏まえて改善した世代交代モデルと資源収支モデルを組み合わせて解析することにより、新たな豊凶進化仮説を提案する。
 また、野外で長期間蓄積されてきた豊凶の観測記録と植物の繁殖器官への資源投資を化学的手法により定量化したデータから資源収支モデルのパラメータ推定を行い、豊凶の生起要因に迫るアプローチについて紹介する。

セミナー世話人

小川知之(明治大学総合数理学部)
池田幸太(明治大学総合数理学部)
坂元孝志(明治大学理工学部)
宮路智行(明治大学研究・知財戦略機構)

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