●「年貢の納めどき」

「年貢の納めどき」というのは、いつごろからあるのかと尋ね
られました。近世ごろかなと一瞬思ったのですが、『日本国語
大辞典』第二版によると、近世どころか、近代の、小栗風葉
『恋慕ながし』(1898)、室生犀星『続女ひと』(1956)に例
がある、極めて新しい言い方のようです。

同辞典には「ねんぐおさめ」という項目もあり、俳諧の『滑稽
雑談』(1713)の「年貢納 当世おほくは公領・私領・寺社領
にいたる迄、冬月迄に皆済を了する事也」という用例が載って
います。この例が「ねんぐおさめ」と読めるのであれば、「年
貢の納めどき」という言い方の原型がここにあるということに
なります。ただ、気になるのは「年貢納」が本当に「ねんぐお
さめ」と読めるのかということです。

「ねんぐのう」と字音で読む可能性はないのか、知りたいとこ
ろです。歴史の専門の人にも伺いたいところです。

「年貢納」を「ねんぐのう」と読むのではないかと思ったのは、
これが、俳諧の本に書かれているものだからです。というのは、
「ねんぐおさめ」だとすると、これは、基本的には五七五の第二
句にしか用いることのできない言い方(季語)になります。その
ような長い季語もないわけではないのでしょうが、例えば、「棚
板に 塵もつもるや 年貢納」などとやった場合(これは、下手
な句です^^;;)、やはり「ねんぐのう」と読むほうが落ち着く。

しかし、本当に「年貢納」を読み込んだ俳諧は存在するのか。こ
れは、今度は、近世俳諧の専門家にお尋ねすることになりそうで
す。

それから、「年貢の納めどき」は、さまざまな場合に比喩的に用
いられますが、結婚をする人間に対して使うことが、ままありま
す。この場合、この言い方は、男性に対して専用なのでしょうか、
それとも女性にも使うのでしょうか。私は女性にも使うような気
もするのですが、そうではないと思う人もいそうです。

(2002.03.12、「日本語よもやま話」から改訂増補転載)