【当該本文】

又吉は[中略]田の助が日頃万年青{おもと}を好む所から 最上の万年青を
餌{ゑは}にして口説きなば 十に八九は調ふ事と思へど大金のかゝる事故{こ
とゆゑ} 身戔{みぜに}では出来ぬと 其翌日 直{すぐ}に上野の觀正院に赴き
最上の萬年青を田の助へ贈り物にしたき旨を告けしに 院主は本願の届く譯
なら万年青の一鉢や二鉢は何でもない事 幸ひ出入にする根岸の植木屋に
は珎{めづ}らしき万年青が餘多{あまた}ある内に此頃大坂より取よせし三百両
といふ一鉢は 世にも稀なる種替りとの事故{ことゆゑ} その品を求めて遣は
すことにせんと(『沢村田之助曙草紙』初・中、1ウ〜2ウ、架蔵本による)