本研究は、実際の裁判や模擬裁判あるいは被験者を使った実験およびコーパスの構築を通して、それぞれ参加者の言語使用における判断に影響を与えうる要因を心理学と言語学の立場から特定し、刑事訴訟法の諸規則との整合性を調整したうえで、その予防策・改善策を提案し、より公平な裁判実現に向けて、法実務の世界や社会に向けて提言・発信していくことを目的にする。具体的には、大きく次の三つの公判場面に分けて、三班に分かれて研究を進めていく。
1 |
評議における裁判員と裁判官の言語使用と法的判断への影響 |
2 |
公判廷における弁護人や検察官、証人の言語使用と法的判断への影響 |
3 |
司法通訳の利用と法的判断への影響 |
本研究では、全国で行われている裁判所・弁護士会・検察庁合同模擬裁判員裁判のデータや実際の公判記録・観察をもとに、以下の点を研究期間内に明らかにする予定である。
i |
計量言語学・語用論・社会言語学などの立場から法廷言語の定量的分析モデルを提案する。 |
ii |
言語学諸理論に加え説得心理学や集団意思形成に関する社会心理学諸理論を取り入れて参加者の言語使用による判断形成に影響を与える要因を特定する。 |
iii |
以上の結果を法学者・法実務家の立場から法的判断の枠組みを中心とした法学・法実務のパラダイムとの整合性を検討・調整することによって、市民と専門家の実質的な協働と公平な裁判運営を支援する法廷コミュニケーション・モデルを開発・提案する。 |
また、 「研究目的」に照らして、以下の観点について、担当者を振り分ける。
(1) |
「評議班」:評議における裁判員と裁判官の言語使用と法的判断への影響 |
(2) |
「公判班」:公判廷における弁護人や検察官、証人の言語使用と法的判断への影響 |
(3) |
「司法通訳班」:司法通訳の利用と法的判断への影響 |
以上の研究班で、各班の研究の進行状況を研究代表者・研究分担者が管理・統括しながら、以下の3つのフェイズで進行する。
第一フェイズ |
裁判資料を収集し検索可能なデータベース化(コーパス化)すると同時に裁判の場面ごとに心理学・言語学・法学の各々の分野における分析手法で基礎的な現状分析を行う段階。 |
第二フェイズ |
第一フェイズでの資料・分析結果をもとに、分野融合的分析モデルを開発し、必要に応じて実験を実施し、法廷コミュニケーションにおける問題を同定する段階。 |
第三フェイズ |
第二フェイズで明らかにされた諸問題を解決する手段としての法廷コミュニケーション・モデルを開発し、社会に発信していく段階。 |
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