サブユニット③「物語りと伝承」

研究分担者

研究者名 所属・職 研究プロジェクトにおける研究課題 当該研究課題の成果が
研究プロジェクトに果たす役割
日向 一雅 前 明治大学文学部・教授 歴史としての源氏物語 サブユニット研究総括、物語を通した宗教・儀礼体系の解明と比較
上杉 和彦 明治大学文学部・教授
物語伝承と摂関・院政時代 寝殿・作庭からみた権力・制度・組織論
牧野 淳司 明治大学文学部・准教授 いくさの伝承と平家物語 物語を通した宗教・儀礼体系の解明

サブユニット③の研究分野

 
 本研究は、日本列島における文明化のプロセスを「日本古代学」として再構成するプログラムの第3サブユニットで、古代における文化・社会制度の諸相を研究する。日本古代においては、口頭による語り・伝承と、文字を利用した書記技術とが相互接触する中で、高度な体系性を備えた文芸が生み出された。中でも、源氏物語を頂点とする物語は、単に人間関係の機微を情緒豊かに描くのみならず、古代社会における文化・社会の諸制度を正確に写し取っている。さら言えば、物語が生み出されることによって、文化・社会の諸制度はより高度に洗練されたものへと展開していったのである。本ユニットでは、日本古代社会が文明化する中で物語文芸が発生し、そのことがまた逆に文化・社会の諸制度を洗練させていく、その相互作用のダイナミックな動態を研究し、明確に記述する。


サブユニット③の研究内容

 古代社会における文化的諸制度の整備と、物語文芸の誕生・享受とが、相互に作用を及ぼしながら展開する様を、平安時代を中心に、前後の時代も視野に入れながら追究する。その研究は大きくわけて二つの側面を持つ。一つは、物語りと伝承から古代社会における文化・社会の諸制度を読み取る研究で、古代社会が物語文芸を生み出していく機制を明らかにする。もう一つは、いったん成立した物語りと伝承が、文化・社会の諸制度に及ぼした「力」を見究める研究で、物語文芸が実社会の諸制度を強化、あるいは変革していく様を記述する。両研究ともに、隣接地域である朝鮮半島・中国の文物や諸伝承を視野に入れ、日本古代の展開をよりグローバルな視野から記述することを試みる。具体的には以下の研究課題を実施する。

①『源氏物語』と関連する文芸(『日本書紀』『古事記』『風土記』『万葉集』『古今和歌集』『うつほ物語』など)から、古代における文化・社会の諸制度を読み取り、古代社会 が物語文芸の成熟を促した要因を分析する。
②平安時代の故実書や諸記録を用いて、古代社会における諸制度の実態に迫り、①の研究成果と照らし合わせる。
③中国・朝鮮半島の諸文化資料を視野に入れ、①②の研究成果を東アジア世界の動きの中で相対的に位置づける。
④『源氏物語』は虚構の物語であるにも関わらず、以後の公家および武家の諸文化の規範となって、実社会の諸制度に大きな作用を及ぼした。その様相の一々を具体的に追究する。
⑤平安時代の物語り・伝承を継承する中から、『平家物語』が生み出されてきた。『平家物語』に埋め込まれた古代社会の文化・社会制度の記憶を発掘し、古代社会が新たな物語りの展開を促した要因を分析する。
⑥平安時代末期には仏教の諸儀礼で用いられたテクストが多く残されるようになった。それらを用いて平安時代の諸制度の実態に迫り、⑤の研究成果と照らし合わせる。

サブユニット③の年次別計画

○平成21年度
・『源氏物語』と周辺諸資料による古代文化・社会制度の考察(その1)
・朝鮮半島・中国における古代文化関係書資料の比較文学的読解
・平安時代の仏事法会関係資料を用いた宗教儀礼制度の考察

○平成22年度
・『源氏物語』と周辺諸資料による古代文化・社会制度の考察(その2)
・朝鮮半島・中国の芸能・儀礼・伝承に関する資料の調査検討と、比較文化史的考察
・『平家物語』と説経資料を用いた平安時代諸文化制度の考察

○平成23年度
・『源氏物語』が文化・社会の諸制度に与えた作用の究明を通した、物語文芸と社会・
 文化の諸規範の相互作用に関する研究
・朝鮮半島・中国の芸能・儀礼・伝承に関する資料を調査検討と、比較文化史的考察
・『平家物語』を生み出した古代社会諸制度の研究


○平成24年度
・『源氏物語』が文化・社会の諸制度に与えた作用の究明を通した、物語文芸と社会・
 
文化の諸規範の相互作用に関する総合的研究(その1)
・朝鮮半島・中国の文物の流通の中における日本古代物語文芸の位置づけに関する考察(その1)
・『源氏物語』と『平家物語』,および『大鏡』『栄花物語』の歴史物語的側面の比較検討と、
  日本古代社会の展開との相互関連性についての発展的研究

○平成25年度
・『源氏物語』が文化・社会の諸制度に与えた作用の究明を通した、物語文芸と社会・
  文化の諸規範の相互作用に関する総合的研究(その2)
・朝鮮半島・中国の文物の流通の中における日本古代物語文芸の位置づけに関する考察(その2)
・『将門記』『陸奥話記』『平家物語』を通した,物語文芸と古代社会の展開の連関性に
  関する発展的研究

期待される成果


  物語文芸の研究は奈良時代・平安時代・鎌倉時代それぞれに大きな蓄積があるが、研究分野の細分化により巨視的な見取り図が描きにくくなっている。また、他の時代の研究動向と無縁に研究が進展しているため、お互いの研究成果を付き合わせて検証しにくい。「物語りと伝承」という研究テーマについても、前後の時代や他地域・他分野の成果を参照しつつ、より大局的な視座から再構築していくことが求められている。本ユニットは、専門の時代と分野を異にする研究者が推進する点において、また、第1・第2ユニットと協力・連動して研究を進展させることができる点において、上記の課題に答える成果を挙げることが期待できる。また本ユニットは、物語りと伝承を、文化・社会の諸制度が埋め込まれたものであり、同時に文化社会諸制度を創り上げたものであると見なす。これは物語文芸を文化資源として捉える立場であり、日本古代に関して従来にない叙述を生み出すと予想される。そのような研究成果は、シンポジウムにおける発表を経て、物語文芸から見た日本古代学としてまとめられる。


 

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