北東アジア Northeast Asia

  地域概説

■朝鮮(韓)半島と日本列島は、ユーラシア大陸中緯度地帯の東の縁にあり、緯度の低いところから順に亜熱帯、暖帯(照葉樹林)、温帯(落葉樹林)、亜寒帯の森林帯になっている。大陸の西岸に比べて季節風の影響を受けるため気温の年較差が大きく、夏は南洋からの湿った風を受け雨量が多い。とくに日本列島の日本海側は中緯度地帯としては降雪量の多い地域で、そのことがこれらの地域にはっきりした季節の変化を与えている。また日本列島は環太平洋造山帯に属し、島々の面積が狭い割には山は険しく、また火山や地震が多い。このこともまたこれらの地域の自然環境を変化に富んだものにしている。

■北東アジアには、朝鮮(チョソン)(韓国)語、日本語、アイヌ語、ニヴヒ(ギリヤーク)語という孤独語(孤立語)language isolateが隣接して分布している。日本語は世界の孤独語の中でももっとも話者人口が多い(1億3千万)。琉球諸語を含む日本語を語族とみなし単一の言語とみなさないなら、韓国・朝鮮語がもっとも話者人口が多い(5千万)孤独語となる。(次に話者人口の多い孤独語は西欧のバスク語で約50万。)これほどの話者人口を持つ言語が系統不詳でかつ隣接しているのは世界的にみても珍しい。(→北東アジアの言語

■韓国・朝鮮語、日本語・琉球語、アイヌ語、ギリヤーク語は、構文はSOVで修飾語が被修飾語の前にくる膠着語であるなどの共通性を持っているが、互いの言語学的な類縁関係は証明されていない。またこの4言語、とくに朝鮮語は、同じ文法的特徴を持つアルタイ諸語に近い系統であると推測されているが、やはり言語学的に証明されるには至っていない。

■歴史的に見ると、紀元前13000年ごろ、世界最古の土器を伴って日本列島で縄文文化が始まる。紀元前5000年には朝鮮半島で櫛文(チュルムン)文化が始まる。ともにアルタイ系、古アジア系、オーストロネシア系などの説があるが、系統はよくわかっていない。(→北東アジアの歴史地図

■華南に由来する稲作は紀元前900年ごろ朝鮮半島南部と西日本に伝わり、それぞれ櫛文(チュルムン)文化、縄文文化と混合し、古朝鮮文化と弥生文化を形成した。弥生文化はかなり速い速度で東北日本まで広がったが、北海道以北には伝わらず、これらの地域では続縄文文化が続いた。これが現在のアイヌ文化につながっていると考えられている。

■朝鮮、日本の社会はエスキモー型のイトコ呼称体系を持つところから、基層は双系的で、中国文化の影響を受けながら父系的に組織されていったものと思われる。朝鮮や琉球には門中という父系集団が存在するが、日本本土にはない。日本語のシンセキは輪郭の明確ではない双系集団で、外婚集団でもない。イエは建築としての家屋の意味でもあり、より父系的な集団の概念だが、姓は父系で継承されるのが普通とはいえ、婿養子という例外も少なくなく、やはり外婚集団としての機能も果たしていない。アイヌの社会にはフチ・イキリ、エカシ・イキリという母系、父系両方の集団が存在する。(→北東アジアの民族

■これらの地域にはインドから中国を経由して仏教が伝来したが、インド仏教とはかなり変容した内容になっている。むしろ祖先崇拝と、山岳信仰などの自然崇拝が根強い。日本の土着信仰はアニミズム的な要素が強いが(→縄文文化の世界観)これは外来の仏教に刺激されながら、神道という体系にまとめられていった。しかし現在でも琉球やアイヌの社会ではアニミズム的な要素が強く、朝鮮や琉球の社会ではシャーマニズムが盛んである。

(2005-10-24 修正/文:蛭川立)
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